一筋の光。そして“ありがとう”を、音に乗せて
キャンプファイヤーの炎が、ぱちぱちと静かに弾ける。
あたたかい光に照らされながら、みんなはそれぞれの“バグ”と向き合い、本音を語り合った。
言葉にすることで、自分の輪郭が少しずつ見えてくる。
そんな夜が、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
──そのときだった。
タロウ君が、ぽんと立ち上がる。ぎこちないけれど、決意のある動きだった。
「…あのね。今回のこの合宿、校舎が建て替えになることになって、それって、もともとは僕が窓ガラスを割っちゃったのがきっかけだったんだ」
声が少し震えていた。でも、真っ直ぐだった。
「エイジくんは、入学してすぐの頃は、ちょっと、びっくりしたけど……でも、よく知っていくと、本当に、よくみんなのこと見てて、やさしくて、気がついて……」
言葉を探しながら、丁寧に、ゆっくりと続ける。
「今回の合宿も、費用のことも、手配のことも、全部やってくれて……ありがとう。すごく感謝してる。
それでね、僕が“感謝のサプライズしたい”って言ったら……みんなも、同じ気持ちだって言ってくれて」
「えっ……?」
エイジが思わず声を漏らす。
そのとき、みんなが次々と立ち上がった。
「みんなで練習したんだ。エイジくんに、感謝の気持ちを伝えたくて」
「物はなんでも持ってそうだから、だから、歌を贈ることにしたの」
タロウ君がギターを抱え、静かに弦を爪弾く。
合宿中の合間を縫って、一生懸命練習してきた音。
決して派手ではない、けれど丁寧で、真剣な音色。
その音に合わせて、みんなが歌い出す。
声を合わせて、気持ちを重ねて。
小さなハモリが、夜の静けさにそっと溶けていく。
エイジは、驚きのまま立ち尽くしていた。
やがて、頬をふるわせて、ゆっくりと目を細める。
──うれしくて、目を潤ませる。
でも、キャンプファイヤーの火は少しずつ弱まっていて、暗くて、誰もその涙を見たわけではなかった。
夜は、やさしく、静かに更けていった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。今回のキャンプファイヤーの夜は、それぞれの“バグ”と向き合い、仲間の存在に救われていく、そんな心の交差点のような時間でした。
自分の本音を出すのは怖いけど、それでも誰かと分かち合いたい。
そんな小さな勇気が、誰かをあたためて、また次の一歩になる。
タロウくんのサプライズも、どこか不器用でまっすぐで、でもとても温かい時間になりました。
「ありがとう」を伝えるって、本当にいいなって、改めて思いました。
そしてこれで、合宿シリーズはいったん終わります。
でも、彼らの物語はまだまだ続いていきます。
次回もお楽しみに!!