スーパースイミングスクール!タクトが浮き輪を手放す日
まだ空がほんのり青みがかった深い藍色に包まれている時間。
ヴィラの中にまたもや、あの「ピンポンパンポーン♪」が鳴り響いた。
「うう……まだ寝てたい……」
「しっかり起きろ。柊先生の指示だぞ。日の出前に集合だってさ」
「マジか、マジでやるんだ……」
そうして始まった、朝日の中の早朝ランニング。
空が金色に染まっていくのを見ながら、リゾートの敷地をぐるりと走る。
まだ涼しい海風が頬を撫で、体が少しずつ目を覚ましていくのを感じる。
「なにこれ、眠いけど……ちょっと気持ちいいかも」
「こんな朝のスタート、初めてだな」
汗を流したあとは、ビュッフェスタイルの朝食。
「若い者はしっかり食べなさい!」という柊先生の一言に、みんなが笑った。
パン、フルーツ、卵料理にスムージー。目移りするほどの朝食に、食欲も倍増する。
そして、栄えある合宿初日の授業、ついに開幕。
「本日の講師は──プロスイマー、水谷先生だ!!」
拍手の中、現れたのは、日焼けした肌に引き締まった身体、落ち着いた笑顔の持ち主だった。
教える相手によって話し方を変え、レベルに応じて的確なアドバイスをくれるその姿に、すぐにみんなの尊敬が集まった。
マモルは超がつくほど泳げるタイプ。
「でも、あのターンのときの足さばき、全然知らなかった……!」
初めて自分に“まだ知らない世界”があることを知って、目を輝かせる。
一方、タクトはというと──
「水泳は苦手すぎて諦めています。どうぞ、私のことは気になさらず」
プールの隅の方で控えめに水中ウォーキングをしていた。
「大丈夫、タクト君も挑戦してみよう!君は“体で覚える”より、“理解してから挑む”タイプだね」
先生はタクトにだけ、少しだけ論理的なアプローチでフォームや呼吸の仕方を教えた。
その丁寧さに、タクトの中で何かが動き出す。
「……先生の言葉、すごく入ってくる」
「そうだ、俺も……できるかもしれないって、初めて思った」
昼休み。みんなで浜辺に座り、おにぎりをほおばりながら大盛り上がり。
「ターンのとき、壁蹴るときに膝曲げすぎてたって言われたんだけどさ」
「そうそう、蹴る直前はもう膝ほぼ伸ばしておくのがコツなんだって。力を逃がさないために」
「あと、ターンからの浮き上がり、焦らないで、ちゃんとストリームライン作るのが大事らしいよ」
「ストリームラインって、腕と耳をくっつけるやつだろ?水の抵抗減らすために」
「そう!あれ意識するだけで進みが全然違うって!」
熱く語るみんなの顔は、真剣そのもの。
まるで、勉強も遊びもすべてが“学び”に変わるような、不思議な感覚だった。
午後のレッスン。
全員が汗と水しぶきを飛ばしながら、真剣に練習に打ち込む。
先生の叱咤激励が飛び、フォームが少しずつ美しくなっていく。
そして夕方──
なんと、全員が「ちょっとだけでも、確実に上達」していた。
「……この俺が……泳げた……?」
水から上がったタクトが、目をまんまるくしている。
「想定外だ……!嬉しすぎる……!!」
「挑戦してみて良かった。わからないことがあっても……やってみる価値は、あるんだな」
その言葉に、先生がにこっと笑った。
「それが、“学ぶ”ってことさ」
「先生!ありがとうございました!教わったことを大切に、帰ってからもっともっと練習します!」
そのまま夜へ──
夕焼けが海の水平線に沈んでいく中、サンセットバーベキューが始まった。
プールサイドに設けられた会場には、炭火の香り、焼ける肉の音。
運動後のバーベキューは、まさに五臓六腑に染み渡る味だった。
「先生!お肉が食べごろです!」
「おー!君たち、しっかり食べるんだ!丈夫な身体をつくるんだぞー!」
食べる!食べる!!そして食べる!!!
「野菜もバツグンにおいしい!」
「先生みたいにデカい大人になれるように、モリモリ食べるぞ!」
全力でぶつかった一日。
先生と生徒には、確かな絆が芽生えていた。
気づけば、空はすっかり夜の色。
生徒たちはくたくた。お腹も満たされて、今すぐにも寝てしまいたい。
「さすがに今日は……トランプ、無理……」
「いや、せっかくだし……1回だけ……!」
全力を尽くした一日。
それでも、笑顔と情熱は尽きなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
今回は、合宿本格始動──第一の試練「水泳レッスン編」をお届けしました!
ただ泳ぐだけじゃない、“本物のプロ”に導かれるという経験。
できる人も、できない人も、それぞれの視点で「自分の限界」を一歩超えていく様子を描きました。
できなかったことが、少しできるようになる。
それって、ほんの少しの変化かもしれないけど──
本人にとっては、ものすごく大きな“革命”になるんですよね。
今回の水泳の授業を通して、マモルはさらに上を、タクトは諦めていた自分を乗り越えて。
そして全員が、“続けていきたい”と思えるような情熱に出会いました。
次回は一体どんな一流講師が待っているのでしょうか。
お楽しみに!