非日常の夜、背伸びどころか竹馬に乗っちゃったようなひととき
バカンス気分でウェルカムドリンクを飲んでいたその時、突然、ヴィラの室内に電子音が響いた。
「ピンポンパンポーン♪」
「……ん?今の音、なに?」
ソファでくつろいでいたマモルが顔をあげると、天井のスピーカーから担任の先生の声が流れた。
「えー……みなさん、聞こえますか? 今回、ヴィラを貸し切っているということで、館内放送で連絡します。本日の夜は、中央のレストランで全体夕食会があります。18時に会場集合でお願いします。なお、サンダルでは入れません。靴を履いてお越しください。」
「うわ、ちゃんとしたヤツだー!」「えっ、なんか緊張してきた……」
それまでの数時間は自由行動。リゾートの広さに感動しながら、浜辺で課題に取り組んだり、探索したりと、思い思いに過ごす。
エイジ、マモル、タクトはしばらくジャグジーでのんびりしつつ、散歩がてら敷地内を歩いてみることにした。
「ほんとにすげえな……あそこ、たぶんプライベートビーチじゃね?」
「いろんな国の人も泊まってるみたい。聞いたら王族の人も来たことあるらしいよ」
「まじで……すごすぎて現実感ないわ……」
風の匂い、空の広さ。知らない世界の空気が、少しずつ3人の中にも入り込んでくる。
そして日が傾き始める頃、レストランに向かうため皆が集まった。中央の建物──重厚な石造りで、入り口には控えめな装飾。けれど中に入れば、高い天井にやさしく響くクラシック音楽。まさに「非日常」そのものだった。
席に着くと、担任の先生がマイクを手に立ち上がった。
「それでは皆さん、本日はこの特別な場にご参加いただきありがとうございます。そしてここで……今回の合宿を、総合プロデュースしてくださる先生をご紹介します!」
ざわつく空気の中、スポットライトが奥からゆっくりと中央へ向かう。
「──柊先生です」
現れたのは、スタイリッシュなスーツ姿の男性。姿勢の良さと鋭い眼差し、そしてどこか舞台俳優のような気品を纏った存在。
「……え?」「ちょ、待って……あの柊先生!?」
有名進学塾のカリスマ講師として知られ、教育業界で“本物”として名高いその人の登場に、全員の目が一気に輝き始めた。
彼は静かにマイクを受け取って、落ち着いた口調で語り始める。
「皆さん、こんばんは。今回の旅を、総合プロデュースします──柊です。エイジさんから依頼を受け、私はこの合宿に“最高の伸びしろ”を見出しました。才能は、鍛えられる。本物に触れ、本気で学び、本気で遊ぶ。この合宿で、君たちの“枠”を壊します。しっかりついてきてください。」
誰もが、心の中で何かが切り替わるのを感じていた。
その直後、さらなるサプライズ。
「今夜は特別に、《アルセーヌ・ハーモニー楽団》の皆さんが、この会場のためだけに演奏してくださいます」
重厚で華やかなストリングス、柔らかく包み込むような木管、そしてときおり鋭く響く金管──
クラシックでもポップでもない、でもどこか耳馴染みがあって心地よい、そんな音楽が空間を満たしていく。
「やば……なにこれ、音が……全身に入ってくる……」
食事が始まると、それはもう魔法のようだった。
スープは、何層にも重なるような深い味わい。前菜はまるでアートのように立体的に盛り付けられ、何の味かはわからないのに「とにかくおいしい」と感じる。
「これ……なに?」
「舌で考えるのって難しいな……」
「うーん、たぶん、これは白トリュフのオイル使ってるな」
エイジがすっと言うと、マモルとタクトが驚いた顔をする。
「ほんとに!?」
「当たり。すごい舌をお持ちだ」と、近くを通りかかったスタッフが笑顔で答えた。
メイン料理は、肉と魚の両方が出る贅沢なコース。素材の旨味を最大限に引き出したソースの数々に舌鼓を打つ。
デザートは、まるで宝石のような小さなスイーツたち。香り、食感、見た目、そのすべてが五感を刺激した。
「うま……うま……」
「俺、こういう味、人生で初めてだわ……」
誰もがただの「食事」を超えた「体験」として、それを全身で味わっていた。
そして、夜空を見上げながら、3人はヴィラへと歩いて戻る。
「……なんか、夢の中にいるみたいな合宿だな」
「ほんと、凄すぎて驚き疲れた」
「柊先生本気でやってくれてるね、明日からどうなるか俺もわからない」
「え!エイジ君も知らないの!?」
「柊先生の完全プロデュースだ!贅沢だろ?」
「うわー、楽しみなような怖いような……」
「大丈夫、俺たちはエリート学園の生徒なんだから」
少しだけ茶化すような口調のエイジ
「そうだな、どんなことでも乗り越えよう」
大真面目に答えるタクト
「そうだね、もう思いっきり楽しむしかないね!今夜はみんなでトランプしようよ!」
盛り上がるマモル
笑いながら話すその歩幅は、来た時よりも少しだけ、軽やかだった。
夜はまだ続くけれど、今日の一日は──今までのどんな日とも違っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は、リゾート学園合宿の“本格始動”となる一日目を描きました。
ただのバカンスではなく、“本物の空間”と“本物のプロフェッショナル”に囲まれて、自分の感性や可能性をひらく時間──
そんな、特別な学びの合宿が始まりました。
これは、ただのリゾートじゃない。ただの勉強でもない。
この旅で得られるのは、「経験」という、最高の贅沢です。
次回、
『エイジのおごりだ!〜本物たちの授業、開講!』
いよいよ超一流の講師陣によるスパルタ(!?)授業が始まります!
リゾート×学び、まさかの融合──次回もどうぞお楽しみに!