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先生からのまなざし

朝。私はいつもより少しだけ早く目を覚ました。

この時期の朝はまだ冷え込む。キッチンで淹れたばかりのコーヒーの湯気が、静かな部屋にやさしく立ちのぼっている。


テレビをつけて、いつものニュースを聞きながら朝の支度をする。


「先日、一部地域で観測された“光る落書き”現象──」

「専門家によれば、一時的な大気の乱れと……」

「現場では、虹色の動物のような形状や、花火に似た図形が確認されたとの──」


カップを持つ手を止めることなく、私はワイシャツのボタンを留める。

テレビの映像は見ない。だが、その言葉の端々に、覚えのある光景がよみがえる。


「……うさぴょんか」


先日、エミさんが授業中に描いた“らくがき”が、突如として立体化し、教室内を跳ね回った──

あの出来事が、ついにニュースで取り上げられるとは思わなかったが……まあ、ありえる話ではある。


ここはエリート学園。国内屈指の進学校であり、時に“非現実”さえ、学びの一環として受け入れられる場だ。


私はこの学園で長く教壇に立ってきた。

地道に実績を積み重ね、ようやく少しずつ名前を覚えてもらえるようになった頃──

今年、私は特に注目される生徒たちのクラスを任されることになった。


バグホルダーが4人。それも全員が、互いを遠ざけることなく自然と関係を築いている。

まったく、珍しいことだ。


エイジさんの入学式での式辞は驚いたが、熱意が感じられた。

最近では、仲間と肩を並べて笑う姿も見かけるようになった。

何事にも熱心に取り組んでいる様子が、見ていてよくわかる。


マモルさんは黙々と努力を続ける、安定した生徒だ。

毎朝、走り込みをしているらしい。どの部活も、彼の身体能力の高さに目をつけているようだが、本人はあまり部活に興味がないのかもしれない。

どの部に入っても活躍するだろうに──どうするつもりなのだろう。


タクトさん。彼の才能は、言うなれば“計算不能”だ。

何を考えているのか、時々こちらが試されているような気さえする。

私に何を教えられるというのか……いや、でも、それでいい。私は私の仕事に打ち込むだけだ。


そしてエミさん。

内気なところがあって少し心配していたが、最近はなんだか生き生きとしてきたように感じる。

仲間との出会いが、彼女を変えていったのかもしれない。

もっと自分らしさを出していけたなら、まだまだ素晴らしい才能が開花していくはずだ。


──彼らは、たまたま同じクラスになった。

だけど、その“たまたま”が、時に人生を大きく変える出会いになることもある。

お互いに高め合っていってほしいと思う。


私は、彼らが4人でいる姿を見守りながら、密かにこう呼んでいるのだ。


バグフォース。


教員としての立場を忘れ、つい口元がほころぶ。

……なかなか、うまいとは思わないか。


彼らは、人ならざるほどの力を持って生まれてきた。

きっと、背負うものも、期待も、困難も──私たち普通の人間には想像もできないだろう。

でも、だからこそ、仲間と出会い、お互いに支え合いながら、共感しながら、ともにこの世界を生きていってほしいと願っている。


私はコートを羽織り、玄関のドアノブに手をかけた。

ふと、昨日受け取った予定表を思い出す。


「……今日は放課後、エイジさんが進路の相談か」


入学してまだ1か月も経っていないのに、もう先のことを考えようとしている。

熱心というよりも──きっと、何かに気づき始めているのだろう。

目に見えない、“未来”というものに。


私はドアを開けた。朝の光と冷たい空気が一気に押し寄せる。


今日も、生徒たちの歩みを見守る一日が始まる。


ほんのりと、空の高くに──

落書きの名残のような光が、まだ静かに揺れているような気がした。

お読みいただき、ありがとうございました。


今回は担任の先生の視点から、エイジたちの日常を少し外側から眺めてみました。

彼らが生きる世界の輪郭が、少しでも伝わっていたら嬉しいです。


先生は、生徒たちの“バグ”を特別視せず、あくまで一人ひとりの生徒として、まっすぐに見守っています。

あたたかいまなざしに支えられ、のびのびとした学園生活はまだまだ続きます。


次回からの話は、

ついにマネーバグ、本領発揮──!?

どうぞ、お楽しみに!





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