プロローグ:金はあるけど青春がない
この物語は「バグ」と呼ばれる異常能力を持った人々の物語です。
主人公は、お金が無限に増える少年・エイジ。
「お金じゃ青春は買えない」っていうけど、試したヤツ、いた?
……じゃあ、俺がやってみる。
財布に一万円札を入れる。
十分後、三万円になっていた。
バグ持ち──通称“マネーバグ”。
エイジは、その最強能力の持ち主だった。
でも今日も、ひとりぼっちだ。
東京湾を見下ろす高層マンションの最上階。
広すぎるリビングには最新のテレビと革張りのソファ、壁に飾られた有名画家の一点物──全部、“一流”ばかりだ。
けれどそこに、話し相手はいない。
朝食はホテルから運ばれたシェフの特製プレート。
でもエイジは、栄養も味も最高級。
エイジはそれをなんの感動もなくただ黙々と食べ進める。
生まれつき、エイジは“バグ”を持っていた。
正式には〈通貨増殖異常〉。通称〈マネーバグ〉。
財布に現金を入れておくだけで、金が勝手に増えていくという、冗談のような異常体質だ。
このバグに気づいたのは、物心ついた頃。
最初は親が管理していたが、エイジが十歳になる頃には親も金に狂い、崩壊した。
それからは後見人制度のもと、資産運用会社と弁護士が彼の生活を“管理”するようになった。
学校に行かなくても、勉強は家庭教師がつく。友達はいないが、有名YouTuberとのコラボ動画で“繋がってる感じ”は得られる。
──でも。
夜、リビングの大画面テレビに映っていたのは、春の入学式特集だった。
ブカブカの制服を着た新入生たちが、校門の前で記念撮影をしたり、校舎の階段を駆け上がったり。
式辞で噛んで笑われている男子。隣の席の子と緊張して目を合わせられない女子。
そういう“些細なこと”に、なぜか胸を打たれる。
「……楽しそうだな」
口に出した自分の声が、やけに響いた。
ひとりきりの部屋で、誰にも聞かれないのに。
スマホを手に取り、無意識に「学校生活 リアル 動画」で検索していた。
【お弁当交換してみた】【美術の授業中に爆笑】【部活終わりのマックが青春すぎる】
どれもこれも、彼の生活には存在しない“日常”だった。
「金でなんでも買えるけどさ……青春って、どうなんだろうな」
ぽつりと、誰に向けるでもなくつぶやく。
豪邸も、超高級車も、スイスのバカンスも──そのどれにも、“ドキドキ”はなかった。
でも、誰かと出会って、何かを始める。
汗をかいて、バカなことして、悔し泣きして、笑いあって。
そういうのって、いくら積めば買えるんだろう?
エイジはテレビを消し、窓の外を見た。
夜景がキラキラと輝いている。でも、どこか遠く感じる。
「やってみるか」
思い立ったら、止まらないのがエイジだ。
数時間後には、私立エリート学園の事務局に巨額の寄付申請が届いていた。
“バグ”があっても青春したい。
金の力で無理やりこじ開けようとする少年の、ちょっとズレた挑戦が、今、始まる。
お読みいただきありがとうございました!
次回、エイジが潤沢な資金を武器に、キラキラした入学準備に挑みます。
制服?文具?ときめき? すべて、お金で解決だ!
▶次回:「入学準備:このときめき、金で買えるか」
お楽しみに!