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詩2篇(物語のとば口に立ったまま…)ほか

作者: タニグチ・イジー

  ○


物語のとば口に立ったまま固まって

これ以上何も進めたくないと

ずっと泣いている


ギターも弾けないし

歌おうにも声も出ない

だから何も起きないと知っていて

私は自分自身の役柄を

始まる前から降りていた


衣装はすっかり色褪せていて

台本は捲られることもないまま

すっかり埃が溜まっている


誰も主人公でないまま

入り口のドアは

大きく(かし)いでいる


(20200503)



  ○


あなたの姿を盗み見るのが

私にとって一日での

たった一度の食事


後は理科準備室へ行って

その隅に生えてきている

カビを舐めているだけ


みんなといっしょにいないと

殺されてしまう

みんなといっしょにいると

消えてしまう


私は毎日鏡の前で

笑う顔を練習する

向こうに写っている

真っ白な場所


元の世界に戻って

椅子に自分を

縛り付けて

何度も息を吐く


あなたの後ろ姿を

盗み見る


私は

あなたに

見えていない


(20200417)



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