表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/26

第6話

「実は俺なんだ!!!」

その宣言から数分。

周囲に沈黙が流れる。




「皇さんが探してる男っていうのは俺なんだよ」

聞こえていないと思ったのか、もう一度言う。



「そうですか。ところでお名前を教えていただいても構いませんか」

誰もがあっけにとららえている中、皇さんは落ち着いた口調で問う。

「名乗るのが遅れてごめん。俺の名前は早稲栗光世。皇さんと同じクラスで一応玉木さんと一緒に学級委員もやってる」

「なるほど、早稲栗君ですか。よろしくお願いします」

綺麗な所作で頭を下げる。


 周囲には人が集まっており男女構わずそのしぐさに目が奪われる。

ちなみに俺は、目の前で起こっている事態に飲めずにいた。



「それで、早稲栗さんが私の探している方というのは?」

「もちろん今話題になっている、不良に絡まれているところを『名乗るほどのものではない』と颯爽と助けたのが俺だということだよ」

自信満々に言う。



(は~~、よくそこまで自分がやったかのように言えるもんだな)

次第に状況を飲み込んできた俺は彼のオレオレ詐欺(?)行動に驚きを通りこして感心する。

(いや、でもこれはまずいことになったな)



「おいおい、まじで助けたのが早稲栗なのかよ」

「でもあり得るくないか」

「早稲栗なら確かにな」

周りに集まるクラスメートたちで話が盛り上がる。


そう。

 何を隠そうこの早稲栗光世はイケメンである。クラスで一番どころか学年でも目立つレベルだ。性格は明るく、おちゃらけた感じだが百合と学級委員もやるほど優等生なクラスでも中心的人物だ。


だからこそ、彼のこの発言には信憑性が生まれる。



(まずい!)

俺はクラスメートたちの反応からこの状況に焦りを覚える。


(このままだと俺が名乗り出ても誰も信じてくれない)

自分でいってて悲しくなるが、、、



そう。

 何を隠そうこの男(南条薫)、友人といえる人は指で数えられる人ほどしかいない。それに加えてクラスでもあまり目立つ方ではなくどちらかというと早稲栗光世とは正反対の部類の人間だ。



そんな二人が名乗り出たとするとどちらを信じるかなど比べるまでもない。


(これはまずいぞ)

その状況に俺は冷や汗を流す。

(信じてもらえる可能性は低いが俺も今名乗り出た方がいいのか?)


 

 

「待ってください。皇さんを助けたのは俺です」


 悩んでいる中、同じクラスの一人の男子生徒が名乗り出た。その顔は緊張のせいか少しこわばっている。

早稲栗も突然の言葉に本物が現れたとでも思ったのか焦りの表情を浮かべたが、名乗り出た人物を見るとすぐにいつもの余裕の表情に戻る。




 

 名乗り出た生徒は俺の数少ない友人の一人で先ほども話しかけてきた富士川悠馬だ。





「誰あいつ」

「確か同じクラスの富士山?だったかしら」

「早稲栗君に歯向かうなんて身の程知らずな人ね」

クラスの女子生徒がこれでもかと非難する。

「何あの陰キャ」

「注目浴びたいだけだろ」

男子生徒からも女子の言葉に負けず劣らずの声を上げる。





「ええい!だから皇さんを助けたのは早稲栗君ではなくて僕です!」

やけくそ気味な様子だ。


(うわぁ…)


俺は友人が哀れに思えてくるその惨状を見ていた。

(これは今行くべきではないなあんな言葉を浴びせられたくないからというのもあるが…)




「まあまあ、みんな落ち着いて富士川君が嘘ついてる可能背もゼロではないんだよ」

その場に仲裁に入ったのは早稲栗だった。

さすが人気者といったところか、しっかりと富士川の名前を把握している。


「それに判断するのはみんなじゃなくて皇さんなんだよ」

一言おいて彼女の方に体を向ける。


「それで皇さんはどうなの」

「どうなんですか?」

富士川も早稲栗の横に並び立つ。


二人の男子生徒に迫られても、その表情は変わることなく、

「記事等では書かれておりませんでしたが実は私を助けてくださった方は同年代だったように見えました。そこで私も探そうと思い、助けていただいた場所の近くのこの高校に転校してきたのです」



おおおおお!



 その言葉を聞きクラスが沸き立つ。

それは先ほどの名乗りに信憑性を少なからず持たせたからだ。


「なら」

「ですが申し上げにくいのですが金額が大きいこともあり誤情報が多いのです。なのですぐに信じることはできません」

「そうですか…」

早稲栗が肩を落とす。

(ふぅ、助かった)


俺はそのことに安堵する。


「どうしたら信じてもらえますか?」

富士川はなおも食い下がる。


(なんで嘘なのにそんなこと言えるのだろうか…)

友人の必死な様子に憐れむ。



「ご安心ください。そのためにまだ詳しい日取りは決めておりませんが、名乗り出てくれた方を集めて事実確認を行おうと思います」

「じ、事実確認?」

その言葉に、富士川の顔に冷や汗が流れる。早稲栗も少し焦りが顔に出る。


「事実確認といっても交流の場程度ですから身構えなくても大丈夫ですよ」

安心させるように落ち着いた口調で話す。




「詳細は後日になりますが食事も兼ねたパーテイーのようなものなので皆様もよろしければご参加ください。もしかしたらほかの学年やクラスにいるのかもしれませんので多くの方に参加していただく予定です」

ニコッと見るものを魅了するように笑って言う。



(さすが《《お嬢様》》だな)

俺はどこか感心する。


おおおおおおおお!

先ほどよりも大きくクラスが沸く。


「俺も行こうかな」

「皇財閥のパーテイーに行けるとか楽しみすぎるだろ!」

「ほかの学年から持っていうことはあの先輩も来るのかな」

「今から楽しみね」


 男女問わずみんな楽しみな様子だ。…二人を除いて

早稲栗と富士川の顔はあまり浮かない。

早稲栗は何か考えているのか真剣な表情なのに対し、富士川はもうどうにでもなれといった様子だ。


パンパン

「はいはい、話はまとまったみたいだしそろそろ解散。もう次の授業も始まるよ」

これで話は終わりというように百合が手をたたく。


クラスメートたちもそれに合わせて自分の席に戻っていく。

(さすが百合だな。みんなに慕われてるからこそだ。俺が同じことやっても意味ないだろうな)


学級委員としての幼なじみの姿に感心する。

「何見てんのよ」

視線に気づいた百合が話しかける。

「さすが百合だなと思ってな」

「はあ?何言ってんのよ。それよりもちゃんと案内で来たんでしょうね」

「ふっ、ばっちり案内してきたぜ」

「そう」

そっけなく百合が返す。

「はい、とても丁寧に案内してくださいました」

会話を聞いていたのか皇さんが会話に入る。


「本当にありがとうございました」

深々と頭を下げる。

「あー、いいっていいって。それよりもまたわからないことがあったら聞いてよ。可能な範囲で答えるからさ」


「はい、ありがとうございます」

嬉しそうに笑う。


(かわいい)

自然に表情が緩む。

「それではまた」

そういい皇さんは席に戻る。


「…ふ~ん。ずいぶん仲良くなったわね。敬語も使ってなかったし」

「まあな。敬語は使わないでほしいようだったからな」

「そ。授業も始まるみたいだし教室に戻りましょ」


百合はそう言い残し、クラスに入る。

俺もその後ろをついていくのだった。



***

更新が遅くなってすみません。

これから一応一区切りするところまで公開します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ