管理社会
コンビニからの帰り道、人気のない高架橋の下を通る道を歩きながら儂は先程コンビニであった事を思い起こしていた。
儂の問いかけに返事を返さなかった若い女性店員に罵声を浴びせ、謝罪させる。
今の若い奴らはお客様は神様だって事を知らんのか。
でも、まぁ、若い女が涙ぐむのが見れたからそれは良しとしよう。
ガアーン!
そこまで思い浮かべたとき頭に衝撃が走る。
後ろから誰かに殴られた。
殴られた後頭部に手を添えて振り向く。
金属バットを持った若者が立っていた。
後頭部に添えた手と反対の手を上げ若者に大声を上げる。
「何をする! 儂を殺す気か?」
「そうだよ」
返事を返した若者はさらに儂を殴ろうとバットを振りかぶった。
「た、助けてくれー!」
道の先からこちらに向けて歩み寄ってくる人たちのグループに助けを求める。
だが、近寄って来た若者のグループも鉄パイプやバールを振りかざして儂に殴り掛かってきた。
倒れ込み身体を丸めて防御するのに構わず、若者たちは儂を道具で殴り足で蹴りつける。
頭や身体を殴られ蹴られながら儂は若者たちに問う。
「何故だ? 何故殴られなくては成らないんだ?」
若者たちは殴るのを中断し顔を見合わせた後、最初に殴って来た若者が答える。
「爺、テメエには聞こえて無いだろうが、さっきから老害のテメエを殺せって音が鳴り響いているんだよ。
モスキート音って知ってるか?
若者には聞こえるが、年をとると聞こえなくなる音があるんだよ。
それがテメエを殺せ! 殺せ! って鳴り響いているんだ」
その若者の後、前から来て殴りかかってきた若者のグループの1人が付け加えるように言う。
「それにな、爺、暗くてテメエには見えないだろうが、この先の交差点にさっきからパトカーが止まっていて、中の警官2人が此方を見ているんだ。
眺めているだけで止めに来ないって事は、警察もテメエが殺されるのを容認してるんだよ。
だからサッサとくたばれ!」
若者たちはそう言うと殴る蹴るを再開した。
「ヒィィィー、た、助けて! 助けてくれぇー! グアァァァー ゥゥゥゥゥ………………」
「オイ、まだ聞こえているか?」
パトカーの運転席に座る年配の警察官が、助手席の若い警察官に声をかける。
「はい、大音響でそいつを殺せ! 殺せ! と言い続けています」
「って事は、虫の息だがまだ生きているって事か。
サッサとくたばれば良いのに」
「あの……あいつらはどうなるんですか?」
「あいつらって、爺を殴っているガキ共の事か?」
「はい」
「あいつらは、身元と前科が無いか若しくは何らかの犯罪に手を染めて無いか徹底的に調べられる。
犯罪に手を染めて無く前科も無ければ取り敢えずは泳がす。
で、学校を卒業して就職するときにお上が介入する訳だ」
「介入ですか?」
「ああ、あの音を聞いて警察に連絡する奴や無視する奴には介入せず、希望職種の就職に失敗した時にスカウトする。
お前のようにな。
だがあいつらの場合は違う。
今の日本には少子化の影響で、高校だろうが大学だろうが卒業してから就職せずにフリーターなんかで過ごさせる余裕なんて無い。
人殺しを平気でやる奴らだから人命を預かる看護師や消防官などには付かせられないが、キツい汚い危険な3Kと言われる仕事は沢山あるからな。
そういう若い人材を必要としているのに成り手がいない仕事につかせるのさ」
「ゴネませんか?」
「ゴネたら殺人犯として捕らえられて、裁判にかけられるだけだ。
で、負ける」
「でもあの音を録音していたらどうするんですか?」
「アハハハハハ
録音されていてもあれが証拠になる訳がないじゃないか。
そういう裁判にお上が用意するのは、裁判官も検察官も年寄りなんだぞ。
弁護士も年寄りかも知れない。
弁護士が偶々若い奴だったとしても、裁判官に早く録音した証拠を流してくださいって言われた時点で、負けを認めるしかなくなるだろう。
なんたって年寄りには聞こえない音なんだからな。
そして刑務所に収監されて強制的に3Kの仕事に付かされる。
お前、黄色と黒の虎模様の金属製の首輪をした奴を見た事はないか?」
「え? あ! あります」
「そいつらが刑務所に収監された奴らなんだよ。
あの首輪には幾つかの仕掛けがあって、逃げようとしたり仕事をサボろうとしたりシャバにいる仲間に連絡を取ろうとしたりなどを行おうとした時、罰が自動的に与えられる。
最初はスタンガンのように電撃、市販されているスタンガンの電撃より数倍から数十倍の威力がある電撃らしいぞ。
それが何回か続いた後、今度は毒薬が注入される。
これは電撃と違い最低数日は痛みで動けなくなる物らしい。
だからゴネても結局はお上が指定した仕事に従事しなくてはならないのさ」