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第24話:岩瀬礼奈と2アシスト

 礼奈れいな多田たださん、それぞれのカメラを購入して、店を出る。


 礼奈はなんだか不思議そうな顔で、自分の手にした紙袋を見ていた。


岩瀬いわせさん、どうした?」


「え?」


「ねえねえ、吉田よしだくん?」


 にやにやした多田さんが俺に少し近づいてくる。


「私の前では『礼奈』で良いよ? 誰にも言わないし」


 そして、ウィンクを一つ寄越よこしてきた。


「は? 吉田君、もしかして……」


「さっき、ちょっと口が滑って……」


「まじか……。吉田君としたことが迂闊うかつな……」


「ごめん……」


 礼奈になんとなく謝る。


「私、二人が幼馴染だからってやっかんだりしないよ? そうだ! 写真部の間は下の名前で呼ぶって言うのはどうかな?」


「「なんで……?」」


 突然の提案に俺と礼奈がハモった。


「なんか、部活のルールっていうか、秘密みたいな感じで良くないかな? なんか、中学の頃、女子サッカー部が『ゴウラ集合』って言ってるのを聞いて、なんだか部活の中だけで伝わる言葉みたいなのに憧れてて……。そういうのってない?」


「「まあ、分からなくはない……」」


「二人ともさすが息ぴったりだね!?」


 なんせ、俺たち二人とも部活未経験者なのだ。別に馴れ合うのが嫌いとかそういうわけではないので、部活っぽいことには興味がある。ゴウラって何?


「そしたら、そうしよう! それなら私も啓一郎くんって呼ぼうかなあ」


「んな……!?」


「それで、吉田くんもよければ楓って呼んでくれてもいいし!」


「ぅぐ……!?」


 多田さんが何か言うたびに殴られたみたいな声を出す礼奈。


「礼奈ちゃん、どうしたの?」


「ううん……。こんな形でアシストすることになるとは思わなくて……」


「アシスト? 名前呼びのってこと?」


「うん……」


「変なこと気にするね?」


 そう思うよな……。


「で、何かあたしに聞いてなかった? ……け、啓一郎」


「お、おお……」


 気を取り直した感じで礼奈が聞いてくる。外での呼び捨てはなんか照れるな……。


「いや、えっと、カメラ見て不思議そうな顔してたから、なんでかなって」


「ああ、ううん……。なんか、カメラって、啓一郎とかアキさんの専売特許感があるっていうか。自分がカメラを持つことになるって思わなかったからなんか変だなって」


「なるほど……」


 榎戸えのきど部長の名前が出てくるあたり、将来に至っても、榎戸部長はカメラを撮る人として認識されているらしい。


「でもでも、カメラ嬉しいよね、礼奈ちゃんっ」


「うん、そうね……」


 語尾を軽快に跳ねさせながら多田さんが礼奈に言うと、まんざらでもない感じで応じる。


 そして、スマホの時計を一瞬確認してから、


「……あの。一枚、撮ってもみても良い?」


 と尋ねた。


「へ? ここで? 今?」


「うん……。せっかくカメラ買ったし。楓さんを撮ってみたい。だめ?」


「わ、私!? いや、光栄だけど、良いのかなー、なんて……」


「礼奈、多田さんは撮られるのがあんまり得意じゃなくて……」


「ん、そうなんだっけ……?」


 むむむ? と礼奈は首をかしげる。


「ううん! でも、せっかく礼奈ちゃんが撮りたいって言ってくれてるのに、断るのもやだから、撮って! ……もしよかったら、啓一郎くんも一緒に」


「俺も?」「啓一郎も?」


 俺と礼奈がまたしてもユニゾンした。


「うん、一人だと恥ずかしいから……だめかな?」


「俺はいいけど……」


 俺は礼奈を見る。


「……じゃあ、そこに並んで」


 まあ、ダメって言う意味もわかんないもんな。


「2アシスト……」


 ぼそぼそと呟きながら礼奈はカメラを構える。


「じゃあ、撮ります」


「はーい……!」「うい」


 俺と多田さんが応じると、


 カシャ


 と、シャッターが音を立てる。


 そして、礼奈はカメラをみながら、多田さんは口元を抑えながら、


「「ツーショット、撮っちゃった……」」


 とつぶやいた。


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