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第11話:多田楓と入部試験

「……残念ながら、キミを入部させることは出来なさそうだ」


「え……!?」


 榎戸えのきど部長の言うことに、頭が真っ白になる。


「……キミ、さてはリア充の巣窟そうくつを作りに来たね?」


「り、リア充のそうくつ……?」


 追い討ちをかけるように、彼女は意味不明なことを言ってくる。


「さしずめ、女の子と乳繰ちちくり合うための拠点を探していたんだろう? そして、この写真部という自分と自分の連れ込んだ女子以外は誰も入らなそうな部活を見つけた。窓のなく鍵もかけられる部室に、唯一の部員は3年生のよわっちそうなわたしだけ。こんなメガネ女は追い出すこともできるし、出ていかなくても2学期まで我慢すればあとは酒池しゅち肉林にくりんと……そういうわけだね?」


「はい!? そんなわけないでしょう!?」


「あいにく、そんなふしだらな部員はお呼びではないね。帰りたまえ」


 否定する言葉はスルーされて、しっし、と手のひらを返されてしまった。


 とはいえ、こんなあらぬ誤解で引き下がるわけにはいかない。


「信じてください。俺は本気で写真部に入りたいんです!」


「そうです! 吉田くんは写真部に入るためにこの高校に入ったって昨日言ってました!」


 多田さんも加勢してくれた。ありがとう……!


「写真部に入るため? そんな奇特きとくな新入生がいるはずないだろう」


「吉田くんは本当にそうなんです! えっと、あ……あん……」


「「……?」」


 突然、胡乱うろんな発言をし始めた多田さんを俺と部長が同時に見る。どうした多田さん……?


「あん……暗室! 暗室のある写真部はなかなかないんですよね? 吉田くん、昨日そう言ってました」


 ……暗室か。多田さんがどうなったかと焦ったわ……。


「だから、その窓のない暗室が目的なんだろう?」


「でも、暗室があるって、昨日の部活説明会でおっしゃってなかったですよね?」


「……それは、たしかに」


 その情報は、信用させるに値するものになったらしい。ありがたいなあ、多田さん。


「……それじゃあ、入部試験といこう」


「入部試験……?」


 部長は手近にあるフィルムカメラをこちらに差し出す。


「このカメラの中には、モノクロフィルムが入っている。これから1時間、学校の敷地内で写真を撮ってくるんだ。ここで現像して、その中にわたしが認める出来の写真があれば入部を許可しよう」


「認める出来って……そんなの、榎戸部長のさじ加減じゃないですか……!」


「なんとでもいいたまえ。試験を受けないなら、キミの不戦敗で、いずれにせよ入部は許可出来ないからな」


「……分かりました、やりますよ」


 ていうか何気に、これから写真を撮って、現像までやらせてもらえるということらしい。


 それ自体に、少し心が躍っている自分もいる。


「あの……私はどうしたら?」


「ああ、多田楓サンはカメラの経験は?」


「うつるんですとケータイのカメラくらいです」


「正直でよろしい。では、こちらを貸そう」

 

 俺も別に正直なんだけど……。


「では、試験開始だ。行ってらっしゃい」






 ファインダーを覗き込んで、レンズの具合を見る。ピントを合わせたり、画面の中になんの情報が出るか確認したり、各ノブの機能を確かめたり。


 手渡されたのは、俺の使っているカメラと同じメーカーの近い年代に出た機種だった。


「……よし」


 これならきっと大丈夫だ。


「なんか、吉田よしだくん、さまになってるね?」


「そうか?」


「うん。私も持たせてもらったけど、そんなにかっこよくは構えられないもん」


 そう言った多田たださんの手には、コンパクトデジタルカメラが握られている。


 いわゆる、レンズが出っぱっていない、ポケットに入るくらいのサイズのデジカメだ。


 多田さんの言う強そうなカメラ(一眼レフカメラ)は、フィルムだろうがデジタルだろうが、初心者には操作や設定が難しい。最初はボケまくっている写真や光が少なく真っ黒な写真や光が多すぎて真っ白な写真ばかり撮れてしまうものだ。


 しかもフィルムは、撮った写真が現像するまで確認できないため、設定をミスっているにもかかわらず撮りまくって、入っているフィルムを全部無駄にしてしまうということも少なくない。


 だから、多田さんのもっているような、シャッターを押せば勝手に光加減もピントも調節してくれるコンパクトデジカメは、失敗なしの素晴らしいカメラと言える。まさしく文明の利器りきだ。スマホのカメラは、ガラケーよりは全然綺麗だが、やはり専門のカメラには劣るしな。


「で、どこに撮りに行くかだなあ……。部長を認めさせる出来かあ……」


 何をどう撮れば彼女は納得してくれるんだろう、と考える俺に、多田さんが声をかけてくる。


「ねえ、それって、そんなに難しいことじゃないんじゃないかな?」


「どうして?」


「だって、榎戸えのきど先輩は、吉田くんのことを誤解してるだけなんだから。吉田くんがカメラを好きなんだってことが嘘じゃないって分かればそれでいいんだよ、きっと。上手いとか下手とか、そんなことは、どうだっていいっていうか」


「なるほど……」


 一理ある。というかそれがすべてな気がする。


「だから、せっかくなら、吉田くんの得意なものを撮ったら良いんじゃないかな? 写真にそういうのあるのか分からないけど。鳥を撮るのが上手いとか、お花を撮るのが上手いとか、風景を撮るのが上手いとか……あるの?」


「うん、あるよ。そうするか」


 俺は、ふむ、と考える。多田さんの言うことはもっともだ。

 

 俺の一番得意な被写体……。


「……じゃあ、多田さん、モデルをやってもらってもいい?」


「も、モデル!? 私が!?」


 俺の依頼に、彼女が全身を使って驚きを表現する。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。普通にしてれば俺が勝手に撮るから」


「それなら、わざわざモデルとか言わなくてもいいのに! 言われると緊張するよ……!」


「ごめんごめん」


「でも、吉田くんは、人を撮るのが得意なの?」


「……そうなりたいなと思ってる」


 俺は、人物を撮影するための構図ばかり研究している。その人の魅力をどうやって写すのが一番いいのか、そればかり。


「そっかあ、じゃあいいけど……。でも、多分、私、謙遜けんそんじゃなくて、写真写り悪いよ?」


 多田さんは、そう言って、困り笑いを浮かべた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインが集結しつつある感好き。 あそこにいたのは私だったかもしれない、いや、いたい!で来たと言う感じだから、この入部時点で一周目とだいぶ選択違いそう。
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