自己顕示欲君
「分かってくれ。」
「俺の決意は固い。」
「信じてくれ。」
「俺のできる限りをするから。」
「みんなに迷惑はかけないから。」
軽い男の言葉がこだまする。空っぽな部屋の中で男は必死に訴えている。聴衆はいない。聞かせる相手はいないのに男は話すのを止めない。
「昔からの夢だったんだ。」
「遂に叶えるときが来たんだ。」
「このために頑張ってきた。」
「ここまでの努力が報われたんだ。」
「だから分かって欲しい。」
「だから認めてほしい。」
男は何に向かって話しているのだろう。空虚な壁に音が反射している。
壁から光が差してくるのが見えた。どうやら壁が少しずつ薄くなり消えているようだ。男は構わず話し続ける。
「俺の夢だったんだ聞いてくれ。」
「聞いてくれれば分かるはずだ。」
壁の外には人がいた。忙しく男の前を通り過ぎる。誰も男の方を振り向いたりはしない。しかし、男は話し続ける。自分の期待通りの答えが帰ってくるまで。