表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳喰い-NOGUI  作者: けい
1/1

序章

行方不明者が2日間で3人。

人口5000人の小さなこの町に、何かが起こっていることは確かであった。


この駐在所で勤務し始めて9年。

こんなことは初めてだった。


「娘がいなくなった」

そう言って、行方不明届を出しに来た夫婦に

「家出だろう。おそらく2~3日で帰ってくるよ。」

と言って、一度帰宅させたのが昨日の昼のこと。


昨夜に2組の夫婦が

「娘がいなくなった」

と駐在所を訪れてきた。


いくらなんでもおかしい。

昼に来た夫婦を電話で呼び出し、

3枚の行方不明届を受理した。


行方不明になった子たちの年齢は21,19,17

住んでいる地域もバラバラ。

共通点があるとは思えない。



〈無事故無事件3300日〉

駐在所の前の掲示板にはそう掲げられている。

この平和な町に何が起きているというのだろう。


(とりあえず近所に聞き込みに行くか。)


〈巡回中〉の札をかけて、駐在所を施錠する。

小型のバイクに乗って、出かける。


9年もいれば、町の高齢者のほとんどがわかるようになった。

山間部にあるこの町では隣の家との間隔が広い。

若い人たちは都会にあこがれを持ち、出ていくばかり。

都会からこの田舎に戻ってくる人は少ない。

だから空き家も増えてきている。

近所付き合いは希薄になる一方である。


だから特に一人暮らしの老人の家には1月に1度は訪れ、顔を見るようにしていた。

ちょうどいい。

聞き込みついでに訪れよう。


「山田のおじいさん?今月も駐在所から来たよ」

返事がない。

(いつもこの時間なら家にいるのにな…)


郵便受けには新聞が5通。

足元には宅配牛乳が2本。


2日間は家にいないということか。

庭のほうに回り込んでみるが、やはり気配がない。


しかし、電気がついている。

これはおかしい。


田舎ではよくあることだが、扉にかぎはかかっていない。

「山田さん、上がらせてもらうよ。」

そう声をかけて、家の中に入る。


電気がついていた部屋に向かう。

テレビからの小さな音が廊下に響いていた。


居間の扉を開く。

そこに山田さんの姿はなかった。


つけっぱなしの電気。

つけっぱなしのテレビ。

床にひっくり返った茶碗とごはん。

倒れたコップ。


箪笥のすべての扉が開き、床には物が散乱していた。


まるで、強盗にでも入られたかのようだ。


ひと月ほど前の山田さんとの会話をたどる。

………

「隣町で空き巣が起きてるから、いくら田舎とはいえ

 玄関にかぎぐらいかけないと危ないよ。」

その注意に、山田さんは

「こんな老いぼれが大金などもっとらんよ。大事なものは台所の隠し金庫の中にあるからね。簡単には見つけられんよ。」

………

そんな会話をしたのはつい最近の事。


居間の横にある台所に行く。

床は割れた皿で足の踏み場もない。


金庫の扉は壊されていた。

というより曲げられていた。

熱して開けたとしか思えないが、周囲には何かが燃えたような跡はない。



(いったい何があったんだ。)

家の中を探していくが山田さんは見つからなかった。


誰か親戚を呼んで、行方不明者届を書いてもらおう。

連絡先を書いた調査票は駐在所だ。

(一度戻ろう。)


バイクを駐在所に走らせる。


(本署に応援を求めるか?)

(いや、明確な事件性がない)

今の状況では事件が起きたと証明することはできない。


そんなことを考えていると人だかりが見えてきた。


(なんだ?)


その人だかりは他でもなく駐在所の前にできていた。

「皆さん!何があったんですか」

慌てて、駆け付ける。


「事件が…」「連絡が…」「お隣さんが…」


口々に話し始めたので、

「一人ずつ聞かせてください。」

と止める。


「まずはあなたから…」


「沢田さんと連絡がつかない。」

「うちも嵯峨さんと連絡がつかない。」

「うちは加藤さんと連絡がつかない。」

「うちも同じだ」

「うちもだ」


結局口々に話し出す住民。

3つの名前は聞き覚えがある。

(行方不明届を出した3家族だ)


「あなたは?」


青ざめた顔でいるのは、確か地元の高校の校長。

「事件だ。人が…人が…死んでいる。首から上が…ない。」

あまりの衝撃に言葉を失う。


「うちの、アパートの廊下にも…血だまりができている。」

「バラバラ死体が…」

「人の…足のようなものが落ちている。」









この日、18人の死亡が確認された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ