ちょっと綱渡り?
俺と飯塚は不機嫌そうでどこか恥ずかしそうにしている橋本を先頭に、喫茶店に入った。
喫茶店の前でしていた俺と橋本の醜く言い争いのせいか、俺たちの後ろに並んでいたカップルに「可愛い子が何かもめてる?」みたいな注目を集めているので、どうも落ち着かない気持ちになる。
元をたどれば俺が橋本に言い返したのが原因な気がするが……。
「こちらの席にお座り下さい。メニューが決まりましたらお呼びくださいね」
まあ、そんなこんなで奥の方の4人掛けのボックス席に案内される。従業員の服装は可愛く、一般的なメイド服のイメージを落ち着かせた感じだ。
さらには従業員さんのレベルも高く、どの子も可愛い。
「……ふん、デレデレしちゃってみっともない」
橋本が不機嫌そうに去っていく従業員を横目に、ボソッと嫌味たっぷりで俺と飯塚にしか聞こえない声量で呟きながら、飯塚の隣、俺の斜め前の席に座る。
「………………」
うむ……なんか、橋本に気を遣う必要がない気がしてきた……。
いや、俺に非があるっぽいから、悪いとは思うが……まあ、この数日理由を聞いても教えてくれないし、こっちも妹に接するぐらいの態度はとってもいいだろう。
「はっ、男なんてそんなもんだ。舐めるな。むしろ、今のメイドさんみたいな美少女を前にして無反応なのは男として終わってる」
「……偉そうに。さも自分が正しいみたいな感じで言わないでくれる? とても不愉快」
「自分が正しいからな。何も問題ない。むしろ問題があるなら教えて欲しいぐらいだ。男はエロで動く」
「うわっ…この男開き直ったよ。気持ち悪い……久我峰崎、なんか私に遠慮なくなってきたね。ムカつく……これだからボッチは」
「いや、ここまで敵意を向けられたら、もう開き直るしかないだろ。伊達に陰キャをやってない。まあ、遺産関係で怒らせてるなら、悪いとは思うけど……」
俺がそう言うと、橋本の表情に焦りが見え、驚いたように目を見開く。俺の言葉に酷く動揺しているようだ。
「ば、馬鹿…! そ、それをここで言ったらダメでしょ!」
「えっ…?」
橋本の態度は今までの敵意むき出しものとは打って変わりどこか、心配しているようなそぶりだ……あ、あれ? どういう……あああああああ!!
そ、そう言えば、我が妹様に『遺産のことは橋本先輩以外には絶対に秘密だからね! さもないと死ぬよ……1000億は人が死ぬ額……だよ?』って言われたんだった!
「ん? 遺産……? 遺産ってどういうこと?」
俺、飯塚の存在を忘れてた!!!
「あ、あ、あ、あの……そ、その今のこの馬鹿が言ったことは気にしなくていいのよ? だって、こいつの言葉は妄想が9割だから」
な、何で橋本がそんなに慌ててるんだよ! って、言いたかったが、今はそれよりも……・
「あ、ああ、橋本の言う通りだ。俺、時々ゲームと現実と夢との区別がつかなくなるんだよ。俺設定だと、大富豪で女を侍らしてるし」
「久我峰崎……その妄想は純粋に人間としてどうかと思う」
おい、いきなり梯子を外すんじゃねぇよ。
「あはは、大丈夫。ゲームの話でしょ?」
「えっ?」
「えっ?」
俺と橋本のこえが被る。
いつもなら「気持ち悪い」とか言われる場面だが、今は気にしてる余裕はない。このビッグウェーブに乗るしかねぇ!?
「あ、ああ、そうだ。実はこいつはゲームのことで喧嘩しててな……」
「えっ? はぁ?」
は、橋本さん、「テメェ、何勝手に余計なこと言ってるんだ?」って顔に書いてありますよ? その顔、恐いですよ?
「…………そ、そうなの。私ゲーム好きで…………久我峰崎は元ゲーム友達…………元。元……元」
その最高に「苦渋の決断しました!」みたいな顔は俺の心にダメージがある……そ、そんなに嫌? 俺とゲームしてた思われることが……。
「へぇ~! そうなんだ! そう言う仲なんだね! 橋本ッちもゲーム好きなんだ~! なんだぁ、私も同士だし、隠さなくてもよかったじゃん」
「えっ、ま、まあ……い、イメージと違うと思われそうで隠してたの。あはは……」
「よし、じゃあ、今日は3人でゲームのことを語りあかそうよ!」
「そ、そうね……」
あー、橋本が俺を睨んでる……そ、それもそうか。せめて橋本がゲームに詳しくないということがバレないようにフォローしよう……。