突き刺さる殺意
すみません……諸事情でタイトル変更しました
◇◇◇
数日後――。
教室、ホームルーム15分前――。
「…………」
俺はいつも通り楽しそうに話しているクラスメイト達を遠巻きに見ていた。教室には20人ほどの生徒がいて、騒がしくも、和やかな空気が流れていた。
『今日の小テストの勉強した? 赤点取ると補修らしいよ?』
『ああ……知らん! 俺はその時考えるのが得意だ……そんなことよりも今日学食でとんかつの割引があるらしいぜ』
『ぎゃはは、現実逃避するなよ!!』
(うむ……楽しそうに話してるな……まあ、俺みたいなボッチ陰キャには関係ない話だ……だけど……)
ふと、橋本の方を見る。
『ふふっ、新しくできた駅前のケーキ屋さん美味しいの? 今日帰りに言って見ようかな?』
『おーお、言ってみなよ! 橋本さん絶対に気に入ると思うよ!』
橋本は仲のいい女生徒と話している。
あれから数日が経過したが、橋本と話せていない……と言うか、謝るために人がいない時に話しかけても――。
『ふふふっ、話しかけないでもらってもいい? あなたと話すなら丸坊主にする方が大らかな気持ちになれるわ』
と、取りつく暇もない……。
あ、ああ……本格的に嫌われてるな。目に殺意があったもん……やっぱり俺が持ちかけた取引が原因だよな……。
(はぁぁ……気を悪くしているんなら謝りたいんだけど……でも意外なこともあるんだよな……)
どうやら橋本は俺との一件を誰にも話していないっぽい。
もしあの件をクラスのメイトの誰かに話してたら噂になり、陰キャの俺とアイドルの橋本では……10対0で橋本に正義がなりたち、今頃俺は針のむしろだっただろう……。
具体的に言うと男子に殺されてる。
橋本の性格的に言いふらしたりはしなさそうだけど……俺相手には手段を選ばない気もする……謎だ……。
「…………はぁ」
なんか、考えるのがめんどくさくなってきたな……金は欲しいが、慌ててもどうにもならん……ここは息抜きでもするか。
俺はスマホを取り出し、今流行りのソシャゲを起動させ、お気に入りの電子カードゲーム『グランド・ニート』をプレイする。
俺の教室での過ごし方はいつもこうだ。ゲームをしているか、ネットサーフィンをしている。スマホがお友達。
俺のボッチオーラのせいか誰も話しかけてこないから、気兼ねなく自分の世界に入り浸ることができる。寂しい気もするが……俺も鈴奈ほどではないが、身内以外と話すの苦手だしな……クラスメイトとのこの距離感が丁度いい。
『あっ、そのカード持ってるんだ。いいなぁ~!』
その時、1人の女生徒が俺のスマホを覗き込んだ来た。
「わっ!」
「あっ、ご、ごめん、ごめん。驚かしちゃった!?」
「いや……」
び、びっくりした……。クラスメイトに話しかけらるの数か月ぶりだ……しかも相手はクラスメイトの『飯塚由香』。
見た目はまさに今時のJKと言った感じで、薄い化粧に派手な金髪の肩までのショートカットで、可愛らしい容姿で橋本ほどではないが人気のある生徒だ。
「えっと……名前何だっけ? あ、あはは……ごめんね」
「いや、俺目立たないから……久我峰崎」
「あー! そうそう! 珍しい苗字で忘れてた……ほんとごめんね。それで久我ちゃん!」
久我ちゃん!? 初めて話すのに距離近いな!?
「久我ちゃんってそのゲーム詳しいの!? ねぇねぇ、『アライブワールド』をリバースして、『クロスワールド』をロスト、『ヤクザニート』にバンプして上手く効果発動したいんだけど、いいコンボが思いつかないんだよね……」
「…………」
ほう、こいつ結構詳しいな……これマイナーゲームなんだけど。
「それは『アライブワールド』をリバースして、『バリアンソウル』をロストで『年金ニート』をバックに置けば、特殊裁定で『ヤクザニート』にマネーが流れる」
「ああああああ!! そっか!! 本当に詳しいんだ!! ねぇ、もっと話を――」
お、おお、クラスメイトとゲームの話ができるなんて……た、楽しい。
『ふふふっ、飯塚さん、日直だから準備しないといけないんじゃない? まだ余裕はあるけど……』
その時、気が付いたら、飯塚の後ろに……橋本が笑顔で立っていた。
「ああ! そうだった! 忘れてた! ありがとう! 橋本っち!」
「ふふっ、どういたしまして……それで、飯塚さんはこのゴミと仲いいの?」
「えっ?」
「えっ?」
橋本は俺と飯塚に近づき、小さめの俺たちにしか聞こえない声量で飯塚に聞く。
品行方正で優等生な橋本が人のことをゴミと呼ぶことが衝撃過ぎて、俺と飯塚は唖然とする。
「ああ、失礼。久我峰崎と仲いいの?」
橋本はさわやかな笑顔で言い直したが……呼び捨てだ……橋本が誰かを呼び捨てにするのは初めて聞く。飯塚も俺と同意見なのか、動揺している。
「い、いや、今初めて話たけど……」
「ふふふっ、久我峰崎と話すと妊娠させられるから、あまり話さない方が良いよ? 気持ち悪かったら私に言ってね。そいつ殺すから」
と、言って、笑顔で橋本は去っていった……。
橋本の声が小さかったため、他のクラスメイトに聞かれていないのは幸いだが……
「…………」
「…………」
俺と飯塚は見つめあい、微妙な空気が流れる。
「あ、あんた、橋本っちに何したの? あんな感情の橋本っち初めて見たんだけど」
「…………さ、さあ?」
原因はわかるんだけど……理由はさっぱりわからん。
むしろ教えてくれ……。