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慶長年鑑温泉合戦ノ記

作者: 川獺右端


 丘を駆け上がると上空はもう真っ黒で、振り返った空は城から出た炎で橙に染まっていた。

 俺たちはみんな、ぜいぜいと息を荒くして、昨日まで詰めていた城を黙って見ていた。

 足軽の群れは汗の臭いにまみれ、とりつかれたように火炎を見みていた。


「なあ、俺が逃げようと言わなきゃ、俺らはあの城の中で燃えてた所だよ」


 雑兵の頭が得意げにそう言った。


「真田に仕えていた、兄さは死んだべなあ」

「んだんだ、真田様は家康の肝っ玉を縮ませたあと、安居神社で討ち死にだとよ」


 雑兵たちは口々に、戦のうわさ話をする。

 俺は話に加わらず、燃える城をただ、じっと見ていた。

 百姓から一代で立身出世した男が作った荘厳な城が、次の一代で燃え落ちた。

 上り詰めるのが早い者は、墜ちるのもまた早い。


「おい、武蔵たけぞう、そろそろ行くべい、落ち武者狩りが来るでよ」

「俺はいい」

「なあ、心得ろや。足軽は武士じゃねえんだよ。おめえは逃げるのをいやがったが、あんな城にいたって死ぬだけだったべよ」

「別に怒ってない。しばらく城を見ている」


 頭の言う事は正しい。

 足軽が落城する城から逃げる事を咎める事は出来ない。足軽は金で雇われた兵であって、主君への忠誠なぞはない。


「そうか、武蔵よ、んじゃ、おさらばよ」

「おう、みんな元気でな」


 雑兵たちの群れはざわざわと去っていく。

 仲良くなった奴らが、何か言い足そうに俺の顔を見て去っていった。


 大阪城には一年居た。

 冬に外堀を埋められて、大阪城は城の体をなして居なかった。

 大阪方は戦争の力の前に、政治の力で負けていた。

 焼け落ちるのは、もう冬に決まっていたと言っていい。

 遠い天守閣がもうもうと煙を噴き上げながら燃えていた。

 時々の遠い破裂音は火薬に火が移ったものだろうか。

 黒煙がうねりくねりながらゆっくりと夜空に吸い込まれていく。


「すげえ、綺麗だよな……」


 落城の景色は、心にしみいるように綺麗だった。

 この光景を絵に描きたい。

 そう思った。

 豊臣の絶望や、徳川の非情、戦と人の事を墨に移して描き上げたい。

 心から、そう思った。



 不意に後ろから血の臭いがした。

 黒い霧のような覇気が地面を低く這って、俺の足下に寄ってきた。

 振り返ると、骨のように痩せた白い馬に乗った男がいた。

 見たこともないような痩せた馬だった。

 目に力があるから、病気ではない。だが、不吉な匂いのする馬だった。

 死に神が乗るのは、こんなものなのだろうと思わせる馬だ。

 痩せた馬には、髭の生えた大男が乗っていた。

 見上げるような体躯に、太い枝のような腕が生えていた。


 骨のような馬に乗っていたのは、俺の叔父の玄信だった。

 叔父は俺の方を感情の無い目でみて、それから、遠い炎上する城に目をやった。


「足軽で城にいたのか、成名」


 男は俺をいみなで呼んだ。

 俺と叔父は同じ名前なので、自然と諱で呼び合うようになっていた。


「あんたはよ」

「儂は水野の陣に居た」


 水野勝成の隊は徳川方の最前線で転戦し続けたと聞く。


「真田とはやり合ったか?」

「おお、良い武者振りであった。血が騒いだぞ」


 俺は羨望のため息をついた。


「浪人で大阪城に入れば良かったではないか、岡本武蔵の名であれば、真田の隊にて、儂とやりあう事もできたろうに」

「新免武蔵が、水野の陣に居るというのにか?」

「成名よ、名前を変えよ、この世に武蔵が二人いては、なにかと不都合だ」

「親が付けてくれた名前なんでな。それに俺はムサシなんかじゃねえ、タケゾーだ」

「剣を捨てろ、絵に生きるがいい」

「俺が、やりたいのは剣だ」


 玄信叔父は息をついた。


「では、死ね」


 ぶわりと音を立てたように、覇気がふくれあがった。

 馬上の玄信叔父は剣を抜き、高々と両手に持った刃を天に上げた。


「おもしれえっ!」


 俺も剣を抜いて構えた。

 玄信叔父とは、ひさびさの対峙だった。

 また、一段と剣気を上げてやがる。

 林の鳥が目を覚まし、おびえて夜空に一斉に舞い上がった。

 玄信叔父の後ろの空遠く、黒煙が大蛇のようにのたうっていた。


 覇気の固まり。

 それが新免武蔵という男だった。

 覇気で敵を呑み、その上で強力に任せた二刀で挟み込み、敵を烈断する。

 それが、叔父の戦い方だ。


 叔父は急に覇気を消し、剣を納めた。


「なんだよ」

「……迷っているお前なぞ、斬る気にもならん」

「なんだとっ」

「負け戦、しかも戦う場所が得られなんだ。負の気に飲まれ迷うておる」

「うるせえっ!」

「失せよ。惑いが消えたら斬ってやろう」


 そういうと、玄信叔父は骨の馬の脇腹を蹴り、歩み去った。

 俺は剣を納めた。

 小さく手が震えていた。


「くそっ」


 小さく舌打ちをして、振り返り俺は歩き出した。

 行く道筋に、点々と足軽の死体があった。玄信叔父のしわざのようだ。

 すさまじく滑らかな切り口で、皆、眠るように死んでいた。

 道ばたに足軽の頭の首を見つけて、俺は合掌した。

 あんたもついてなかったな。



 俺は奈良の宝蔵院に落ち延びた。

 胤舜は境内で掃き掃除をしていて、俺を見つけると破顔して天に向かって笑った。


「どうした、武蔵。落ち武者か」

「ああ、そうだ。かくまってくれ」

「馬鹿を言え、こちとら天下の槍の宝蔵院だぞ、落ち武者なんぞ匿えねえな」

「薄情な坊主だな」

「なにもこのご時世に落ち武者なんぞに成ることはねえのによ。あきれた酔狂だぜ」

「いやあ前線で戦えるかなと思ってたんだが、城の掃き掃除とかしてたな」


 胤舜は竹箒にもたれ掛かって爆笑した。


「なんだよ、足軽で入ったのかよ、本当に馬鹿だなあお前は。武蔵で入れとは言わねえが、二天で入ってもまだ良い扱いだったろうによ」


 二天とは俺の雅号だ。


「絵師で入ってどうするんだよ」

「襖の絵とか描いてれば良かったじゃねえか。掃き掃除よりはましだ」

「哀れな落ち武者を匿ってくれよ」

「笑わせんなって、落ち武者狩りなんざ、気にもしねえくせによ。よそ行けよそ。柳生でも行け」

「石船斎のじいさんは息災か」

「ああ、あのじじいは殺したって死なねえよ」


 胤舜の言うとおりだな。

 宝蔵院は興福寺の別院だが、どちらかというと槍の道場だ。

 十字槍で名高く、各国の武士たちが争うようにして習いに来る。


 かといって、柳生に行くのもな。

 石船斎のじいさまには会いたいが、宗矩が帰って来てそうだ。

 宗矩は柳生流を代表して、徳川家に使えている。

 落ち武者の俺が居たら、とっ捕まえられて、斬首されかねない。


「ああ、そうだ、だったら温泉でも行ってろ。半年もしたらほとぼりも覚めるだろうぜ」

「どこの温泉だ」

「紀州の山奥。だれも来ないような温泉でのんびりしろ。まて、紹介状と路銀を出してやるよ」

「すまねえな」

「そのかわり寺には入るな。誰かに見つかったら面倒だしよ」


 胤舜はすたすたと、寺の中に入っていった。

 すいっと、頭の上を蜻蛉が飛んでいた。

 温泉か。



 胤舜から路銀を貰って、俺は紀州に向かった。

 裏街道を使い、山また山を乗り越えて行く。

 丁度紀州の真ん中あたり、熊野街道をはずれてしばらく行った山奥にその温泉はあった。

 宿というほどの物はなくて、大きめの掘っ立て小屋の横に、大岩で囲った三間程度の温泉がある。

 立木に看板が掛けてあって、意外に達筆な字で『古座谷温泉』とあった。

 掘っ立て小屋の入り口に立って、訪いを入れると、むしろを上げて子供が顔を出した。


「湯治に来た。これは紹介状だ」


 俺は子供に紹介状を渡した。

 というか、書状が要るほどの温泉なのか、ここは。


「い、いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと」


 子供が俺を中に通した。

 掘っ立て小屋の中は結構広くて、囲炉裏が切ってあり、その奥に部屋があるようだ。


「食事は出るのか?」

「ばっさが……。あ、ばっさ、お客さんです」

「おお、これはこれは、いらっしゃいませ。ごゆるりと」


 なんだか山姥みたいなばあさまがにんまりと笑って俺を見た。


「お侍さんかね。とりあえず、こっちの部屋つかいなせえ」


 ばあさんが俺を部屋に通してくれた。

 狭くて汚いが、掃除はしてあるようだ。

 部屋の中に温泉の匂いが染みついているような、そんな場所だった。


 子供がお茶を運んで来た。


「ああ、リンさま、ばばがやりますだ」


 リン? 明人みんびとか?


「いいですよ、ばっさ、私がやります」


 子供はお茶をおぼつかない手つきで入れた。


「お、お侍さんは、宝蔵院胤舜さまのお知り合いのようですね。お強いのですか」

「まあまあだ」


 なんか、目が大きくて猫みたいな顔の子供だな。

 子供はその大きな目で、じっと俺を見つめている。

 どこかで、見たような。

 誰かに似ているような。

 そんな気がした。


「なんだ?」

「い、いえなんでもありません、失礼します」


 子供は赤くなって行ってしまった。

 公家の娘のように色白で、あまり田舎の子供という感じではないな。



 部屋に荷物をほどき、茶を飲んで一服する。

 涼しい初秋の風が室内を渡って、戸口の筵を揺らしている。

 矢立を出して、墨を擦り、紙の上に燃え上がる城の姿を描いた。

 墨が滲み、煙となり、絵の中の火炎が城を燃やす。


 外から、ざやざやと樹のなる音がする。

 線で形が取ったあと、すこし目から離して眺める。


 あまりいい出来ではない。

 あの時の空気が微塵も出ていない。

 絵は現実をそんなには写し取れない、だけど、ごくたまに、現実以上に真実を写せる時がある。

 ごくたまにだがね。

 まだ、あの燃える城は、俺の中でおちついて居ないようだ。

 描けるようになるのは、もう少し先だろう。


 俺は紙を丸めて捨てた。

 立ち上がってのびをする。

 さて、温泉にでもつかるか。


 部屋を出て、きしむ廊下を行くと、厨房で婆が蕎麦を打っていた。


「お侍さま。風呂かね」

「ああ、婆は蕎麦か」

「ああ、晩飯に蕎麦さね、楽しみにしてくりゃい」


 俺は笑って廊下の奥へ歩いた。

 形ばかりの脱衣所があって、そこで着物を篭に脱いだ。

 温泉の色は茶褐色で、澄んでいた。

 掛け湯をしたあと、しずしずと湯の中に入る。


 じんわりと温泉の熱気が体に染み渡り、おもわず俺は吐息を漏らした。

 奥の岩から、どうどうと湯がはき出され、湯船に流れ落ちてくる。

 湯口に硫黄が黄色い花を咲かせていた。

 遠い森からカッコウと山鳥が鳴いた。


 良いところだな、ここは。


 ざぶざぶと音がしたので、見ると子供が入ってくる所だった。

 子供は俺の視線に気が付くと、小さく頭を下げて赤面した。

 茶褐色の湯に、子供の白い肌の色が写って、細かく揺れている。

 大阪城では子供も女も、沢山死んでいたな。

 血の海からにょっきり生えた白い腕や、獣のような女の悲鳴が頭によみがえる。

 合戦は無慈悲で圧倒的だった。


「あのっ」


 子供が俺に話しかけた。


「なんだ?」

「あの、あのっ」


 そこまでいうと、子供は下を向いて赤くなってもじもじしていた。


「お、おねがいが、その、あるんです」

「なんだ?」

「えーと、その……」

「はっきり……」


 その瞬間、温泉の中央で爆発が起こった。

 お湯しぶきが豪雨のようにあたりに降り注いだ。


「温泉合戦の開始だっ!! わしは縞豆温泉が代表の三好政康っ!! お前が古座谷温泉の代表だなっ!! いざ勝負勝負っ!!」


 温泉の真ん中で全裸で仁王立ちした、肥満体の大男がいきなり現れて、訳のわからない事をがなった。


「……なんだ、温泉合戦というのは?」

「あのっ、おねがいですっ! 戦ってくださいっ!」

「温泉合戦の規約は単純であるっ!! 寸鉄を持たず全裸であることっ!! 温泉の外に出たら失格!! 気絶し合戦を続けられぬ場合は失格っ!! いざ勝負勝負っ!!」

「……意味がわからねえっ。大体、お前、真田の三好晴海入道みよしせいかいにゅうどうじゃねえか、なにしてんだ、こんな所で」


 俺がそう言うと、晴海は、顔をくしゃくしゃにして、泣きそうな顔になった。


「いいから戦ってくださいっ! お侍さんっ!」

「よくわからねえなあっ」

「よくわからなくても良いから戦ってくださいっ!!」


 子供の金切り声で、耳がきーんと鳴った。


「そうじゃそうじゃ、戦うのじゃっ!」


 俺はしぶしぶ立ち上がった。


「温泉合戦? 温泉の中で戦うのか?」

「そうですっ! 敵をたたきのめすか、温泉の外に出したら勝ちですっ!」

「くくく、お前が何者か知らんが、温泉合戦には剣の腕など意味が無い、単純な腕力だけが勝負よっ!!」


 三好晴海はそういって、ぐふぐふと笑った。

 なんだかよくわからないが、俺は腰を落とし、構えた。

 湯が腰の位置にあって、足はお湯の中に没している。

 足の裏に岩床の感触が伝わる。ぬるぬるして、かなり滑りそうだ。


 晴海はゆっくりとすり足で湯の中を俺に向かって近寄ってくる。

 腰を落としたその姿勢は、相撲の物だった。

 俺はつかみかかってきた晴海の胸に向け、拳を打ち込んだ。

 晴海はニヤリと笑って俺の拳を二の腕で受けた。

 俺はそのまま体重を前に掛け、拳をひねり打ち上げ、晴海の胸に肘を打ち込んだ。

 晴海は後ろに吹き飛び、盛大にお湯を巻き上げて倒れた。


 水音が沈むと、山鳥がカッコウと鳴いた。


「き、貴様、なにか徒手の技をやっておるな」

「おうよ、長崎で明人に拳法をな」


 俺の拳法の師匠は陳元贇ちんげんぴんと言って、書と作陶と漢詩をやる人で、陶絵付けの方で知り合ったのだが、ついでに拳法も教えて貰った。

 ちなみに、今の技は、猛虎なんとかかんとかというカッコイイ名前が付いていたのだが、技の動きだけ覚えていて、名前の方は忘れた。


 晴海は吠えて、湯を蹴散らし、掛かってきた。

 勢いのある張り手をいなして、左右から拳を打ち込んだ。

 晴海の体は弾力があって、餅を殴っているようだ。

 意外に頑丈そうだ。


 晴海は腰を落とし、俺の肩をつかんだ。

 重心を崩して、投げに持ち込もうという腹だ。

 俺は崩された重心の方へさらに姿勢を崩し、湯船の底を踏みこみ晴海に体当たりを食らわした。

 あまり使ってない拳技だが、意外に覚えているものだ。


「すごいっ! 強いですっ!」


 ちょっと子供の褒め言葉に気をよくして、油断した。

 晴海にがっちりと組み付かれてしまった。

 相撲は組んでからが勝負だ。

 金剛力で晴海は俺の体をかんぬきにして締め上げてきた。


「し、しねえいっ!」

「はなせこらっ!」


 肩に思い切り力を入れて、かんぬきをはずし、四つに組んだ。

 晴海のアゴが俺の肩に乗って、ふひふひと鼻息が掛かる。


「組んだらこっちのもんじゃいっ!」

「そうでもねえぜっ!」


 重心を落とし、前方に体を預けて、俺は晴海を湯の中から引き抜いた。


「な、なにいっ!」

「おうっりゃっ!!」


 晴海の体重を左腰に乗せて、俺は湯船の外に投げ捨てた。

 ぐおっふっ。とうめいて、晴海は洗い場に落ち、血を吹き出しながら三回転して、岩場にぶつかって動かなくなった。


「強い強い、お強いんですねっ!」


 子供が駆け寄って来て、ぴょんぴょんと湯の中で跳ねた。


「あらあら、良い感じの人じゃない」


 なんか、婀娜あだっぽい、狐みたいにしなやかな女が岩の向こうから顔を出してそう言った。


「これで、なんとか、温泉は守れそうね」

「は、はいっ、今年はがんばれますっ!」

「誰だ、あんた?」

「晴海さんの雇い主よ」


 女は気を失った晴海に近寄ると、背中を踏みつけた。

 ぎょぶっ。という感じの音がした。


「お、奥方さまっ!」

「晴海さん、あなたは馘首くび

「そ、そんな殺生なっ。平に平にっ」

「弱い代表なんかいらないわ。じゃあねえ」


 ひらひらと手を振ると、婀娜っぽい女は去っていった。


「誰だい、あれは?」

「同じ連山にある縞豆温泉の精霊さん、ミリカさんですよ」

「精霊?」

「はい、温泉には精霊が付くんですよ」

「馬鹿ぬかせ、子供め」

「あー、信じてないんですかっ! 本当なんですよっ!! 私も温泉の精霊なんですよっ!!」


 俺は子供の頭に手を置いて、ぐりぐりとつかんだ。

 頭が俺の手にすっぽりと入った。


「目を覚ませ」

「い、いたたたたっ!」


 軽くつかんだだけなのに、子供は涙目になっていた。

 サラサラとした髪の感触が手に伝わって来た。

 遠い日、子供の頃の、思いが手に蘇る気がした。


「お願いです。古座谷温泉の代表として戦ってください」


 子供が俺の方を向いて頭を下げた。

 髪の端が湯面に落ちて、複雑な波紋を作って広がった。


「はっきり言おう。めんどうくさい」


 ばっと、子供が顔を上げた。

「あ、あの、今年負けると大変なんです。最下位に落ちてしまって、その、この温泉無くなっちゃうかもしれなくて、だから強い人が泊まってくれるのをずっと待っていてっ」


 ああ、それでだな、胤舜め。

 奴は槍が無いとまったく戦えない。

 それで、俺を送り込んだわけかよ。



 婆さんの打った蕎麦がきは旨かった。

 引きの荒いそば粉で打った黒い蕎麦で野趣がある。

 それを辛み大根を摺り入れたつゆに付けて食べる。


「これは旨いな、婆さん」

「たんと食べな、まだまだあるがね。リンさまも沢山食べるだよ」

「はい」


 晩飯は、蕎麦に、岩魚の塩焼き、山菜の漬け物、山芋の汁と、意外に豪華だった。


「まったく、旨いですな」

「晴海は、なんで当然のように一緒になって食べてるんだ?」

「それはつれないぜ、兄貴、俺は兄貴と一緒に温泉合戦を戦うって、決めたんだ」

「勝手にきめんなっ」

「あのっ、あのあのっ」

「なんだ?」

「お名前、お名前聞いてませんでした。わ、私はリンといって、温泉の精霊をやってます」

「俺は三好政康、晴海入道って呼んでくれよ、兄貴」

「お前の名前なんか聞いてねえよ。俺はー」


 子供と晴海が身を乗り出した。


「俺は岡本武蔵たけぞうだ」

「たけぞうさん」

「岡本……。宮本武蔵っ!!」

「ええっ! あの有名な武蔵さまっ!!」

「違う、宮本武蔵なんて奴はいねえ、居るのは叔父の新免武蔵だ」

「えっと……?」

「では、叔父上が佐々木小次郎を倒したんですな」

「あれは俺だ」

「では、吉岡一門を下したのは?」

「それは叔父だ」

「叔父上と業績が混じってしまったんですか?」

「ああ。字で書くと同じ武蔵の名前なんでな」

「絵を描かれるのは?」

「俺だ、叔父は彫刻だ」


「それでも、あの武蔵様が、この温泉の代表に」

 子供が胸に手を当てて、目をきらきら輝かせた。

「代表になるとは言ってねえ。だいたい何なんだ温泉合戦ていうのは?」

「四年に一度、温泉の精霊たちが代表を出して、この国の首位を掛けて戦うのですよ」

「精霊ってのは暇だな」

「倭の国一番の温泉となれば、お客さんも鈴なりになって殺到してきて、湯の薬効効能も上昇して、良いことずくめなんです」

「そこで温泉に来た客の中で、武道に優れた者を選び、代表として出すわけですな」

「精霊同士で戦えよ」

「逆に、温泉合戦で最下位を続けると、温泉の資格なしって事で、ただの泉に格下げされてしまうんです。お願いです、武蔵さま、古座谷温泉の代表として戦ってください」


 子供は板の間にぺったりと座り、額を床につけて土下座した。


「悪いが、気がすすまねえな」

「報奨金は結構でますぞ、武蔵どの。あと、温泉合戦に優勝して、その年の温泉王者となれば、全国の温泉に四年間入り放題」

「そんなに温泉好きでもねえよ」

「あ、あの、その、参加してくれるなら、その、私を、その、蹂躙しても良いです」


 子供は頬に手を当てて赤くなってそう言った。

 どこのませ餓鬼だおまえはっ。


「子供を抱く趣味はねえ」

「私、大人です。生まれて三百年ですよ。武蔵さまよりおばあちゃんなんですから」

「見た目が子供だ」

「あ、あと、優勝すると、死んだ人を一人生き返らせる事ができます!」

「……へえ」

「拙者も、無き殿を蘇らせようと、参加したのですよ」


 晴海が寂しそうな声でつぶやいた。


 脳裏に、おかっぱで目の大きい、妹の姿が浮かんだ。

 生きていれば……。もう、嫁にいって子供の一人でも出来てる歳なんだよな。

 あにさまー、と草原の遠くから呼びかける声が、俺の耳に鮮明に蘇った。

 死者が蘇る……。


「わかった、参加しよう」



 夕餉の後、自室に引っ込んだら、リンが後をついてきた。

 リンが、俺の前に紙を置いた。


「合戦の日程表です。だいたい三日に一度戦います」

「そうか、何回ぐらい戦うんだ?」

「勝っても負けても、八回ぐらいです」


 勝ち抜きと復活戦をするのか。


「なんか気をつける事があるか?」

「が、がんばってくださいっ」


 特に助言は無いようだ。


 俺は矢立を出して、墨を擦った。


「リンの字は?」

「え? 燐光の燐ですよ」

「へえ、綺麗な名前だな」


 日程表の開いた部分に燐と書いて、似顔絵を描いた。


「わあああっ、すごい、上手ですっ」


 燐は手を打って喜んだ。


「これやるから、帰って寝ろ」

「あの……」


 燐が恨めしそうな目で俺を見た。


「夜伽を……」

「いらねえ」


 燐は、焼いた餅のようにプウとふくれた。

 そんな顔する子供を抱けるかよ。

 俺は燐を無視して寝床に入った。


「わ、私を狐狸のたぐいだと思ってるんですね」

「……」

「精霊って、神様ですよ。偉いんですよ。それを子供扱いしてー」

「やかましい、帰って寝ろ」

「武蔵さんなんて、だいっきらいです」


 燐はとととと床を踏みならして、駆け去って行った。

 そういう所が子供だって言うんだよ。


 夢を見た。

 遠い日の思い出の夢。

 青々とした田んぼ。

 遠い霞がかぶった山。

 岡山の田舎だ。


 妹が居た。一緒に子犬の兄妹のようになって遊んだ。

 夕暮れ。カラスの鳴き声。お地蔵さま。

 叔父が居る。まだ若いな。剣を教わる。

 親父もまだ生きて居る。剣を教わる。

 妹は外で遊んでいる。

 遠く、秀吉公の合戦の噂が聞こえてくる。

 妹が草原の向こうで俺を呼ぶ。

 黒い髪、黒い目、赤い着物。

 武芸者が居て、そして……。

 血。


 はっと目を覚ますと、体中びっしりと脂汗をかいていた。

 ふうと息をつく。

 外を見ると、まだ空は藍色で、日は昇っていなかった。

 部屋に入り込む風が冷たかった。

 硫黄の匂いが風に乗って香った。



 朝餉の食卓でも、燐はむくれて、そっぽを向いていた。


「燐殿は、どうしたのでござるか?」

「俺が嫌いになったらしい」

「それは一大事ですなっ!」

「今日は朝から試合ですからねっ」

「そうかい」


 朝餉の後、俺たちは着物を脱いで、温泉につかった。


「ここで合戦をするのか?」

「いえ、移転の法術で、試合のある温泉へ飛びます」

「移転?」

「温泉の精霊は、温泉の湧く場所ならどこでも移動できるんです」

「ああ、この前、晴海が現れたのも……」

「ミリカさまの術で飛びもうした」

「へえ」


 燐は温泉の真ん中で印を切って、なにか呪文みたいなものをぼそぼそと唱えた。

 目の前が一瞬真っ暗になったと思ったら、爆発音が響き、あたりは湯のしぶきで真っ白になった。


「信州川野辺温泉にようこそ~、温泉合戦の始まりですわっ」


 温泉の真ん中で妖艶な美女が全裸でくねくねしていた。


「女じゃねえか」

「おほほ、女だからって甘く見ないことですわ~。温泉合戦の規約は単純っ!! 寸鉄を持たず全裸であることっ!! 温泉の外に出たら失格!! 気絶し合戦を続けられぬ場合は失格っ!! いざ勝負勝負~っ!!」

「……」


 どん。

 勝負は一瞬でついた。

 くねくねした馬鹿女を殴るのも気が引けるので、まわりこんで背中を蹴った。

 そのまま、くねくねと女は湯を盛大に跳ね上げて杉の湯船の外に転げ出た。


「一本! それまでじゃ!」

「うう、強いですわ~。お兄様って呼んでもよろしくって~?」


 洗い場につっぷして、くねくね女はつまらないことをほざいた。


「だめだ、ふざけんな」


 合戦の代表ってのはこんな物なのか? 晴海は意外に上位の代表だったのかもな。


「おぬし強いな。良い代表が来たの、祖父谷の」


 赤旗白旗を持った大狸が、笑いながら燐に言った。


「今年はがんばれますよっ! 長老様」

「そうかそうか、優勝を目指せるの」

「長老なのに代表は弱いな」

「なに、あまり最下位の温泉が続くと、泉に降格になるでな。ご祝儀の代表じゃ」

「ひど~い、前回は古座谷に勝ちましてよ~」


 前回の代表は、あんなお色気担当に負けたのかよ。


「純朴な木樵の人にいやらしい事して勝ったくせにっ!」

「お若いの名前は?」


 古狸が俺を見上げて笑った。

 髭が長くて、目が笑っていた。


「岡本武蔵だ」

「おお、高名な武蔵どのか、これはこれは」

「タケゾーだ。高名なのは叔父の新免武蔵だ」

「ほほ、それでもすばらしい強さじゃ、これからは本戦、儂が審判をするでの、よろしく」

「よろしくな爺さん」


 とりあえず、三日に一度温泉合戦をするだけで、あとは大体だらだらを絵を描いたり、剣の稽古をする毎日だった。

 拳法の方の感をだんだんと思い出して来たので、くねくね女の後、俺は勝ち続けた。

 代表も、町人、渡世人、山伏と、あまり強くなかったので、短時間で終わり、俺は無傷だった。



「今日勝ったので、もう、温泉の効能があがりましたよ。打ち身、ねんざ、切り傷に効く効果が追加されました」

「凄く早くほうびが出るんだな」


 ばあさんの掘っ立て小屋も、湯治客で満員になっていた。


「温泉精霊講社の仕事は正確迅速なのよ~。おにいさま~」

「あんた、よその部屋でしょっ!! あっち行きなさいよっ!!」

「なによ~、お客様に向かってその態度はないわよ~」

「あ、兄貴を誘惑するのは良くございませんぞっ!」


 なんだろうなあ、この変な取り合わせは。


 あのくねくね女は美都と言って、合戦が終わった後、信州からこっちへ転移してきて、泊まっていた。

 小唄の師匠らしいが、俺にへっついて、くねくねしている。

 それを見て、燐がカンカンになって怒り、晴海がおろおろして、婆さんは大量の湯治客に蕎麦を打つのにてんてこ舞いだ。

 窓の外から、大工の威勢の良い声と、鋸の音、玄翁の音がひっきりなしに届いてくる。


「新しい温泉宿が建つんですよ。堺のお金持ちが出資なんです。あと、紀州藩がここに道を延ばすそうなので、もっといっぱいお客さんが来ます」


 燐はすごく嬉しそうだ。


「順位は今、番付けで真ん中あたりですが、優勝したら凄いことになりそうですな、兄貴」

「婆さんの蕎麦が口に入らなくて寂しい」

「ははは、流行るのはわるくねえべさ。明日明後日に頼んでおいた人手がくるでよ。そしたら、婆がたんと蕎麦うってやるでな。堪忍すれよ、たけぞうさ」


 婆は通りがかりに、茶を取り替えて、俺に笑った。

 掘っ立て小屋の飲み物も、前は白湯だったが、今は番茶だ。そのうち、緑茶になり、玉露になるんだろうな。


 夕暮れの古座谷を歩いて見た。

 あちこち木が切り倒され、岩が削られて台地が出来ていた。

 人家もあちこちに増えていた。

 優勝すると、紀州白浜の温泉みたいに街になっちまうのかね。

 大工がそろそろ上がるのか、ぞろぞろと道を降りてくるのに会った。

 にっこり笑って挨拶してくる。

 まあ、栄えるのは良いことだ。

 後に待つのは衰退だとしても、栄えてる途中は心が燃えて楽しい。

 遠い山に落ちる夕日が、あの城のように真っ赤に燃えてあたりを橙に染めていた。


 ……こんな事をしていて、俺の迷いは取れるのか?


 いつか、叔父に勝てるだけの腕をもてるのか?

 剣鬼佐々木小次郎を倒してから、俺はたいした試合をしていない。

 滅びる城の中で一年、腐っていただけだった。


「どうしました」


 ひょっこりと足下の岩陰から燐が顔を出した。

 こいつが、妹に似ているから、だから、俺は……。


「武蔵さまって、時々、すごく寂しい目をしますね」

「そうか?」

「なにか、忘れてきた物、残してきた者があるような、そんな遠い目」

「幸せでない者は沢山いるからな。いろいろ見たよ」

「そう、ですか」

「普通の人間っていうのは、鬱屈の中にあって、うごめいて生きるんだ」

「そういう物ですか?」

「古座谷も大きくなって、燐も、きっと、そういう奴らを沢山見るよ」

「でも、でもですね。私、みんな私の温泉に入って、幸せになって欲しいです。うれしいな、たのしいなって思って、帰ってほしいです」

「そうか」

「悲しいこととか、苦しいことがあっても、古座谷に来ればみんな笑顔になる。そんな場所にしたいです。ううん、します。なりますよっ!」


 燐はにっこりと笑った。

 俺も笑っていた。

 燐の頭に手を置いて撫でた。

 燐は嬉しそうに微笑んで目を細めた。

 足下の森を夜の風の吹き始めが揺らして、こちらに動いてきた。

 暮れていく山々を、俺と燐はじっと見つめていた。



「残すはあと三戦です。だんだん強くなりますよ」

「そうだと良いけどな、晴海ぐらい強くないと腕がなまる」

「ほっほー、兄貴に褒められましたぞ。感激でござる」


 俺らは、いつものように、温泉の真ん中に向かって全裸で歩いていた。

 頭の上でヒバリが鳴き交わし、良い天気だった。


「次の相手はね~。ちょっと強いよ~。名門秋保温泉だから~」


 燐が温泉の中で足を止めた。


「なんで、美都さんは毎回毎回、あたりまえのようについてくるんですかっ!! あなた関係ないでしょっ!!」

「え~、だって~、おにいさまの試合みたいし~。ほら、入道さんも関係ないじゃない」

「拙僧は控えの代表でござるよ」

「じゃあ~わたしは控えの控えで~」

「いりませんっ!! 転移の法術の妖力がもったいないですっ!! 帰ってくださいっ!」

「そんなにキーキー言うと、燐ちゃんの好きな武蔵おにいさまに嫌われちゃうぞ~」

「た、武蔵さまは、わ、わたしのこと、嫌いになったりしません……」


 下から燐が俺を横目で見上げていた。


「そりゃ、まあな」


 燐がにぱっと笑った。


「もともと好きでも嫌いでもないから。変化はない」

「……」

「……」


 ばちゃっと燐がしゃがみ込み、温泉に顔をつけた。


「あ、兄貴、それはかわいそうでござるよ」

「おにいさま~、それは~……」


 ……うむ。失言という物だ。


「だ、だが、最近はちょっと好きになってるかもしれない」


 ぶくぶくと燐の顔の横からあぶくが出てきた。

 晴海と美都は無言で、もっと持ち上げてというように、手のひらを返して、両手を上へ上へ上げた。

 俺はめんどくさくなって、燐を抱き上げた。


「きゃっ! なんですかっ!」

「ほーら、泣きやめー」


 こうやって、抱いてゆすると、妹は何時もすぐ泣きやんで……。


「きいいいいっ!! 何時も何時も子供扱いしてぇ!! 私は精霊なんですよっ!! 神様なんですよっ!! もっと敬いなさいっ!!」


 燐は、俺の腕の中で大暴れした。

 暴れたんで、ぼしゃんと温泉に落としてしまった。

 温泉のお湯の中で、両手両足をばたばたさせて、燐はしばらく暴れていた。

 それが子供だってば。


「悪かった、あやまるから、機嫌なおせよ」

「……今晩、夜伽してくれますか……」

「そりゃ駄目だ」


 うわーんと泣いて、また燐は暴れ出した。


「というか、夜伽したことあるのかお前は」

「……、は、初めては武蔵さまと、昔から決めてました」


 嘘をつけ。


「したことないんだな」

「ないです……」

「すごい痛いぞ」

「えええっ」

「うん、あれは痛いわよ~、両手で口の中に指を入れて、左右に思いっきり引っ張った時みたいな~」


 いや、試すな晴海……。燐も…。

 燐はうつろな目をして、温泉の水面を見ていた。


「大きくなって、いい女になったら抱いてやるから、しばらく待て」

「……本当ですね」

「武士に二言はない」


 燐はだまって、小指を突き出した。

 俺の小指を燐の小指に絡ませた。


「ゆびきりげんまん~ うそついたら~ はりせんぼんのーます~」

「……針を千本なのかしら~、ふぐのはりせんぼんなのかしら~」

「いや、美都どの、素朴な疑問は良いですから」

「では、秋保温泉に転移しま~す」


 燐はニッカリ笑って、印を切り始めた。

 機嫌がすぐ直るのも子供だよな。

 ふわりと浮遊感。目の前が真っ暗になって、そして水しぶきの白い膜。

 こおと、冷たい風が吹いてきて、俺は震えた。


「うわあ~、陸奥の国はもう寒いのね~」

「こりゃたまらん」


 美都と晴海が肩までお湯につかった。


 ぶおーぶおーとホラ貝が鳴った。

 後ろを振り返ると、騎馬武者、鎧武者が山のように並んでいて、陣幕が張られ、鎧を付けた侍大将が居た。


「うわはははっ! 良く来たな、紀州の田舎温泉め。ここまで勝ち上がって来た事を、独眼龍、伊達政宗が褒めてやるわっ!」

「うわ、政宗公?」

「上位の温泉では、国を挙げて合戦を支援している所も多いんですよ」

「まあ、戦うのは一人だけでな。にぎやかしにすぎんよ」


 爺さん狸がいつの間にか来ていて、露天の石の上でそう言った。


「さあ行け、奥衛門よっ! 伊達藩の恐ろしさをみせてやれっ!!」


 のっそりと、大男が浴衣を脱ぎ、全裸で温泉に入ってきた。


「おにいさま~、そのひと得物つかうから、気をつけて~」

「武器ありなのか」

「ふふ、それがしの武器はこれよ」


 奥衛門は手ぬぐいを前に出した。


「手ぬぐいだけは武器としてつかってよいという決まりがあるんじゃな」


 大狸さまがふがふが言った。


「水手ぬぐいでたたき合うのかよ。村の子供かお前は」

「さてな」


 奥衛門は笑った。


「さて、温泉合戦、開始じゃ!」

「温泉合戦の規約は単純であるっ!! 寸鉄を持たず全裸であることっ!! 温泉の外に出たら失格!! 気絶し合戦を続けられぬ場合は失格っ!! いざ勝負勝負っ!!」

「おうっ!」


 奥衛門の身のこなしは確かだった。

 柳生……。いや、一刀流か。

 ざぶざぶとお湯をかき分けながら、俺と奥衛門は円を描いて、回った。

 殺気がしたので、無意識に後ろに避けた。

 手ぬぐいが真剣のような勢いで目の前を走った。

 伸び上がった切っ先が、風呂の外の桶に当たった。

 檜の桶が手ぬぐいでまっぷたつに切れた。


「うわっはっは、奥衛門の手ぬぐい殺法じゃ、逃げ場はないぞっ!! 切り刻まれて死ねいっ、山猿っ!」


 ぶおーぶおーとホラ貝が鳴った。


「良い腕だな、お手前は。名は」

「岡本武蔵」

「おお、あの武蔵かっ!! これはすばらしい獲物じゃ、かならず倒せっ!! 奥衛門っ!!」

「武蔵殿とあれば、相手にとって不足無し、いざ、まいるっ!!」


 くそっ、難敵だ。

 腰の乗った一撃が、目の前を通り過ぎた。

 布に気を込めて、高速で振る事によって、刃物と同じ威力を持たせてるのかよ。

 湯殿以外で使い道のない武道だが、温泉合戦では恐るべき威力を発揮するな。

 だが、鉄じゃねえ、布だっ!


「いえええいっ!」


 俺は横降りの手ぬぐいの腹を拳で打ち、水面にたたき込んだ。

 そのまま、斜めに回転して、蹴りを打ち込む。

 奥衛門は蹴りを右肩で受け、左手を背中に回した。


 もう一本、手ぬぐいがあった。


 くそっ!

 俺は、水面に潜り、床を蹴った。

 頭の上の水を、手ぬぐいが斬り割るのが見えた。


「徒手の技も使いなさるか、さすがは武蔵どの」


 奥の助はおちついて、両手の手ぬぐいをゆんゆんと回していた。


「武蔵さまーがんばってーっ!」


 がんばれって言われてもな。

 武器もないのに……。


「武蔵殿に二刀、いや、二手ぬぐいでお相手できようとは」

「二刀は俺の叔父の武蔵だっ!」


 奥衛門が、ずいっと距離をつめてきた。

 もうすぐ、奴の手ぬぐいの間合いに入る。

 温泉合戦の難しいのは、足下がお湯だということだ、速度のある足運びが殺される。

 武器があれば……。

 裂帛の気合いを込めて奥衛門が手ぬぐいを振った。


 その瞬間、俺は武器を見つけた。

 拳を水面に打ち下ろし、そのまま、思い切り打ち上げた。

 塩分を含むしょっぱいお湯が砲弾のように奥衛門と手ぬぐいに襲いかかった。

 やっぱりだ、手ぬぐいの切っ先は湯を斬れる。だが、横の布に湯が当たり、手ぬぐいがひしゃげ曲がっていた。


 そのまま、姿勢を落として、前に出る。

 湯を掻き出すようにして、奥衛門に拳を打ち上げる。

 顎を上に打ち抜き、そのまま半身を回転させ、後ろ向きに左肘を胸に打ち込む。

 さらに回転して、中段突きを腹に打ち込んだ。

 ぼきりと、アバラの砕ける感触が拳に伝わった。

 奥衛門が力を失い、お湯の中に膝をつき、枯れ木のようにばさりと倒れた。


「一本! 勝者古座谷温泉」


 ふー、やばい奴だった。

 奥衛門は、ぷかりぷかりと温泉に浮かんでいた。

 陣幕の中で、政宗公が怒り狂って怒鳴っていた。



 俺の部屋で、婆さんの蕎麦がきをたべる。

 なんでか知らないけど、燐が居て、晴海が居て、美都がいて、奥衛門が居る。

 みんな、箱膳の中の料理を食べ、清酒を飲み、語り合い、笑い合っていた。

 奥衛門は政宗公に、俺に弟子入りしてこいと言われて藩を追い出されたとの事。

 ちなみに奥衛門の折れた肋骨は、古座谷の湯につかったとたん、みるみる治ってしまった。

 準決勝まで勝ち進んだので、効能がまた上がったらしい。

 優勝とかすると、死人も生き返る温泉になるんじゃねえのかな。


「あの、武蔵さま、この宿も建て直す予定があるんですけど、その間、小屋を建ててくれるそうなんです。そっちに移りませんか?」

「ここも建て直すのか」

「ああそうだよ、お金が余ったでな、こぎれいな宿を建てて、顧客満足度をあげるのよ」


 婆さんのボロボロだった着物も、今では紺絣のしゃれた内袖になって、だいぶ若返った感がある。


「温泉合戦が終わってからにしてくれ、俺はここが好きなんだ」

「そうかえ。まあ、たけぞうさがそう言うなら、あとにすべえかの」


 ここが畳敷きのこぎれいな宿になったら、落ち着かない。

 板の間、筵の幕(今は木綿の布になっているが)、飾り気のない掘っ立て小屋が、俺は妙に気に入っていた。

 夕餉の後、みんなぞろぞろと引き上げて行った。

 晴海と奥衛門は気が合ったと見えて、赤ら顔で肩を組んで、がはがはと笑いながら温泉の方へふらふらと行った。

 なんで、俺の部屋でみんな食事をとるんだ?

 まったく。


 大人数で食事をするなんて、子供の頃以来だな、と思った。

 窓辺で見上げると、大きな満月が掛かっていた。

 青白く、清潔な光が降り注いでいる。


 紙を取り出して、床に引く。

 筆を取って、紙に向かう。

 行灯の火を吹き消すと、紙は月光の下、白々と光る。


 城を描く。

 炎を描く。

 墨を滲ませ、ぼかし、調子を合わせる。

 紙の中の城は、空っぽだった。

 中に居た人間の思いがなにも籠もっていない。

 このまま、描けないのかもしれない。


「お城ですか?」


 振り返ると燐が俺の肩越しに絵をのぞき込んでいた。


「城だ、この城はいま空っぽで燃えてるんだ」

「人はいないんですか?」

「まだ、見あたらない」


 じっと城を見つめる。

 天守閣にも、大手門にも、焔硝蔵にも、多聞櫓にも、人の気配が無い。


「火を消しましょうよ」

「消すのか?」

「そうしたら、みんな帰ってきますよ」


 これは大阪城なんだと、言う言葉が途中で消えた。

 これは、本当に大阪城なのか?

 墨を筆に含ませ、火を塗り消した。

 火は空に消えた。

 ふと、気配がした。

 気配のままに筆を動かすと、にじみは人となった。


「あ、私だ」


 燐なのか?

 気配を追って描いていく。

 櫓の奥で蕎麦を打つ婆がいた。

 晴海が大手門をあわてて駆けていく。

 美都が三味線をもって、階段を上がる。


「すごいすごい」


 奥衛門が手ぬぐいを腰に、広間で正座していた。

 桜門のあたりに強い気配がある。

 黒々とした、鬼。


「誰ですか? これ……」

「俺の叔父だ……」


 ふうと、吐息を吐いた。

 これは大阪城じゃない。

 俺だ。

 いつの間にか俺自身を描いていた。


 描きたかったのはこれじゃない。

 俺は紙を丸めようとした。


「捨てるならください。広間に飾っておきますから」

「てれくさい、貸せ、捨てる」

「駄目ですよ、みんな喜びますよ」

「かってにしろ」


 おれは筆をしまった。

 燐は小走りで絵を持っていってしまった。

 遠くで美都の笑う声がした。

 月を見上げた。

 ――君には幸せなんか似合わないね。

 小次郎の声が、俺の脳裏に響いた。

 うるせえ、死人は黙ってろ。


 夜半、寝床に誰かが近づいてきた。

 月の光に照らされて、枕を持った燐の姿が浮かんだ。


「あのですね」

「帰って寝ろ」

「今日の副賞に、すこし妖力を貰ったんですよ」

「それで?」

「大きくなれるんです」

「……」


 大人の体になったら、俺は燐を抱けるか?

 ……わからなかった。

 燐は手の前で印を組み、呪を唱えた。

 床から燐光がキラキラと舞い上がり、燐の体は大きくなっていく。


「どうですか?」


 燐が小声で聞いた。

 元の体が、だいたい八歳ぐらいの感じだとすると、今の体は十歳ぐらいだ。


「たいして変わってねえ、帰って寝ろ」

「じゃあ、こうしましょう、あの局部にだけ、術を……」


 燐の頭を無意識にはたいた。


「ぶ、ぶたなくてもいいじゃないですかー」


 術が溶けて、元の姿に燐は戻った。

 俺は、寝具の裾を開いた。

 燐はいそいそと、入ってきた。


「湯たんぽ代わりに添い寝だけだ」

「えーっ」

「だまって寝ろ」

「じゃ、じゃあ、今日の所はそれぐらいで勘弁してあげます」


 横になった燐が俺の胸の中で丸まった。

 さすが温泉の精霊だけあって、暖かい。

 かすかに硫黄の香りがした。

 あたたかい。

 犬の兄妹のように、丸まって俺たちは眠りに落ちた。


 夢を見ている。

 カラスの群れ。

 黄昏。遠い鐘の音。

 お社。赤い鳥居の下。

 石畳を真っ赤に染めて、妹は動かない。


 殺された。殺された。

 武芸者に殺されて、真っ赤になった。

 魚釣りに行っていた。

 ちょっとの間だった。

 涙は出なかった。

 さむざむとした風が体をただ通りすぎた。


 ごつとした真っ赤な固まりが胸の奥から吹き出して来て、凶悪な絶叫を放って俺は走り出して走り出して行く、うごかないうごかないうごかない、妹がもう動かない。草原に幕をはり、有馬喜兵衛の旗を立てている。嗤う嗤う、何人もの門弟がいる。嗤う嗤う。

 たたき込まれた技は出ない。ただ、ただ、力任せに殴る、蹴る、石を持って頭をつぶす。血が赤い。骨が白い。ごうごうと吠えながら、ただ動く物を殺戮する。


 有馬喜兵衛は剣を抜いた、夕焼けにギラギラと刀身が光る。輝く。きらめく。石に当たって折れる。砕ける。石を振り上げ、降ろす。何度も何度も降ろす。鳴き声を聞く。悲鳴を上げる。血が骨が油が見える。ねじ曲がり砕け腫れ、もう人の形をしていない。

 草原に動く物は無くなったが、胸の奥の無言の絶叫が止まらない。

 ぶわりと黒い覇気があたりを包み、叔父が立つ。ひげ面で笑う。


 あっぱれ、成名。


 かかと愉快そうに笑う玄信叔父の向こうに血を流し込んだような真っ赤な夕暮れの空。


十一


「今日の相手は、紀州白浜温泉ですよ。前回の優勝温泉です」

「そうか」


 ふわりと足下が不安定になり、闇に包まれ、轟音とともに湯しぶきが俺たちを包み、ばざばざと音を立てて湯面を叩いた。

 鴎の飛ぶのが岩の合間から見えた。

 岩窟のような露天に碧い湯が溜まっていた。

 洞窟の向こうには海が広がる。

 そこに立っていたほっそりとした侍は、俺の知り合いだった。


「柔心か」

「やれやれ、成名どのか」

「おしりあいで?」

「関口柔心。柔術の専門家で、陳元贇師匠の元で一緒に拳法を学んだ同門だ」

「ややっ! それは難敵でござる」

「似たような戦い方と思えば、同門かの、これは面白くなりそうじゃな」


 まったく狸爺さんは気楽だな。


「か、勝てますか?」

「一緒に組み手していた時は……」

「はい」

「柔心に一度も勝った事がねえ」


 燐が引きつった。


「あ、あの、ここまで来れれば本望です。無理をして大怪我とかしないでください。負けても良いですよ」

「気が抜けるから、あっち行って見てろ」

「は、はいっ」


「ご無沙汰しております、成名殿、拳法の手の方は上がりましたか」


 修行してた頃と全く変わらない色男面で、はんなり笑って柔心は構えを取った。


「温泉合戦が始まるまで、練習の一つもしてねえ」


 あいかわらずですね。という目で柔心は俺を見た。


「それでは、温泉合戦の準決勝をおこなうっ!」


 狸爺さんが旗を振り上げた。


「温泉合戦の規約は単純だっ!! 寸鉄を持たず全裸!! 温泉の外に出たら失格!! 気絶し合戦を続けられぬ場合は失格っ!! さあ勝負だっ!!」


 今回は俺が口上を言う番と、さっき燐に聞いて、あわてて覚えた。


 同門の対決は時間が掛かる。

 俺の技は柔心が知ってるし、柔心の技も大体知っている。

 なんども組み手をやった間柄だ。

 柔心の場合、拳法の他に日本古来の組み討ちの技を持っている。


 俺と柔心は死力を尽くして、温泉の真ん中で打ち合った。

 小技を掛け合い、中技をすかして、大技を跳ね返す。

 俺たち二人は、どちらも決め手に欠けて攻めあぐんでいた。

 だんだん息が上がってくる。


 温泉合戦で、ここまで勝負が長引くのは異例だろう。

 一刻近く、撃ち合い、蹴り合い、仕掛け合った。

 白浜温泉は湯温が高く、水深も深くて、腰までお湯につかる。

 体やたら火照るのに、温泉と蒸気で、熱の逃げ場がない。

 かなり朦朧としてくる。


 ふっと気が付くと、柔心の拳が目の前にあって、とっさに顔を振って避け、潜り込んで下から腹に拳を打ち上げる。

 その手を左手で押さえられ、柔心の腰が回り、俺の目の前が奴の背中だけになる。


 やべっ!


 どん、と脇腹に槍を打ち込まれたような勢いで後ろ回し蹴りが当たった。

 くそっ、良いのをもらっちまった。

 とどめを刺そうと勢い込んで踏み込んで来た柔心めがけて、頭突きを放った。

 がんっ! と衝撃とともに火花が散って、目の前が真っ暗になり、瞬間頭を振って活を入れ、俺は体勢を直した。

 頭突きは良い感じに決まっていたようで、柔心もよろよろと構えを直す所だった。

 ぽつり、湯面に血が落ちた。額が割れたようだ。


 ゼイゼイと息をする。

 これはだな。

 勝負を制するのは技術じゃないな。

 今回だけは、温泉の湯への耐性が勝負を分けそうだ。


 道場なら勝ち目はないが、体力勝負ならば、わからねえぜ、柔心っ!

 柔心を休み無く動かす為に、俺は速度のある技を中心にして、矢継ぎ早に拳を放った。

 足裁きが死ぬので、蹴りは封印した。

 くっと顔をゆがめて柔心は防戦する。

 詰める、詰める。浴槽の隅に詰める。


 一瞬の隙をついて、柔心は俺の拳に指を絡ませた。

 本当に上手い。


「いえええいっ!」


 俺の腕を取り懐に入り込んで、柔心は一本背負いの体勢に入った。

 このまま、風呂の外に投げ飛ばそうという了見だ。


「うらああっ!」


 がしっと、俺は柔心の胴をつかんで、逆に体を崩す。

 居ぞり投げという返し技だ。

 俺と柔心は一瞬膠着して、そのあと横に倒れた。


 水の中でぐねぐねと鰻のように柔心がうごめき、俺の腕関節を取ろうとした。

 俺は半腰になって立ち上がり、柔心の上半身をお湯の中に沈めた。

 俺の左腕は伸びきり、もう少しで完全に関節が決まるという所で、柔心の息が切れ、ぶはあっと温泉の中にあぶくが舞った。

 俺は右手で、水の中の柔心のみぞおちを打とうとしたが、水を強く叩いただけで柔心の体は無かった。

 柔心は間合いを取って浮かび上がり、ぜいぜいと息をした。

 俺の息も荒く、体が熱くて熱くてたまらない。背を丸め、よろよろと動く。ひゅーひゅーと息が音を立てる。

 柔心ものぼせ上がった表情で、よろよろと動く。ときどき、ケンケンと咳をして、その音が洞窟内に反響する。


 柔心は、いきなり俺の居ない方向にざぶざぶざぶと直進した。

 そのままどんどんどんどん直進して、岩壁にあたると、拳を放ち、岩を殴った。


「なんと岩のようなっ!」

「岩だそれは」


 はっと柔心は振り返ると、焦点の定まらない目で俺の姿を追い。よろけ倒れ、そのまま、お湯の中に沈んでいった。


「一本! のぼせ勝ちじゃの、温泉合戦でもめったにない勝ち方じゃ」

「はっはっはっ! 仕官してノンビリしてる奴が、浪人武芸者に勝てるかよ」


 俺は笑った、笑った。大笑いした。

 はっと、気が付くと、視界が水の中にあって、温泉の湯越しに天井が見えた。

 俺ものぼせたのか。

 泣き顔の燐が水の向こうから手を伸ばして、なんか言っているようだった。


十二


 なんだかものすごくのどが渇いて目を覚ました。


「うう、水くれ水」

「いま、麦湯をあげますよ」


 燐が居て、水差しで俺の口に覚めた麦湯を含ませてくれた。

 口の中に香ばしい味が広がる。

 俺は古座谷の掘っ立て小屋に戻っていて、いつもの寝床に寝ていた。


「合戦は?」

「おぼえてませんか? のぼせ勝ちで、古座谷温泉が勝ちましたよ」

「そうか、柔心に初めて勝ったな……」

「決勝進出ですよっ!! 凄いです、柔心様ほどの敵はもういませんから、次も勝てます、優勝です。古座谷温泉が日本一になれるんですよっ!!」

「よかったな」


 燐は潤んだような目で、俺を見て、抱きついてきた。


「武蔵さまが好きです。大好きですっ! もー、もーっ!」

 俺の胸に顔を埋めて、燐はぎゅうぎゅうと俺を抱きしめた。


「燐」

「はいっ」

「麦湯くれ」


 むうと唸って、燐は離れ、麦湯をくれた。


「武蔵さま冷たいです」


 俺は起きあがって肩を揺すった。


「だ、大丈夫ですか、もっと寝てた方が」

「病気だったわけじゃねえ、のぼせが治ったら平気だよ」


 少しふらつくぐらいで、体調の方は変わりなかった。


「あら~、武蔵お兄様~、目が覚めましたの~」

「おお、兄貴、凄い戦いだったでござるな」

「すばらしい戦い、拙者、魂が震えました」

「もー、武蔵さまは寝てたんですよっ! みんなして来ないで、さわがないでっ!」


 ふと、俺の頬がゆるんでいるのが解った。


 ああ、そうか、俺はずっと孤独だったんだな、って、初めて気が付いた。

 胸に何か暖かい物が湧いてきた。

 不快な感じではなかった。


 素振りをしばらくやると、体のだるさが消えた。

 汗をぬぐったあと、古座谷を歩いた。


 大きい旅館は、だいぶ出来ていて、大工が忙しそうに立ち働いていた。

 施工主だろう、太った商人が満足そうな目で建物を見回していた。

 崖から下を見ると、沢山の人が古座谷に歩いて来るのが見えた。

 また、風呂が混み合いそうだな。

 騎馬の武士が早足で道を駆けていた。

 俺の近くで、武士は馬を下りた。


「成名殿、朝は不覚をとりましたな」


 柔心だった。

 紀州白浜温泉は、古座谷から馬で一刻ほどの距離にある。


「なに、体力勝負になったからな」

「成名殿は拳法の修行を熱心にやられましたな」

「いや、全然」

「腕が上がっております」

「そんな事は無いだろう。一度も練習なんかしてねえぜ」


 柔心はいぶかしげに俺を見た。


「寝修行という奴ですかな」

「しばらく間をおくと、自然に手が上がるというやつか」

「技が体の中で、熟成されたのですかね。いますこし確かめさせていただきたい」

「ああ、試合か?」

「はは、一日に二度も負けるのは詰まりませぬ、組み手で一つ」


 尻はしょりをして、柔心と組み手をした。

 しばらく打ち合った。

 温泉合戦の時は気が付かなかったが、確かに、記憶していたよりも柔心の動きが鈍い。

 軽々と機先を制する事が出来る。


「柔心が弱くなったんじゃないか?」

「失敬な。私は絶好調に近いですよ」


 ふむ、では、俺の腕があがったのか。

 武道でも絵でも、時々、そういう事がある。

 練習を休み、しばらく置くと、自然に手が上がってる現象がある。

 それを、寝修行と人は言う。


 汗をかいたので、柔心と連れだって温泉に入った。

 沢山の客が入っていて、なんともおちつかない。

 初めて来た頃の閑散とした景色が嘘のようだな。

 柔心を見つけて、晴海と奥衛門が寄ってきて、やあやあと挨拶を交わしていた。

 日が連山に向けて傾き始めていた。


十三


「さて、ついに明日は決勝戦ですっ!」

「相手は、出雲の玉造温泉ね~。代表は金剛山関、相撲の関取さんですわ~」


 今日の夕餉は新しく出来た旅館の広間を借りて、討ち入り宴会となったようだ。

 婆さんが女中に指示を出しながら、ご馳走をみんなの前に並べた。


「かなり強いのか?」

「大阪相撲では、古今無双と言われておりますな。ですが、柔心殿ほどではありますまい」

「そうか、まあ、当たってみないと解らんな」


 燐がとっくりを持って、俺の方へずりずりと膝行しっこうしてきた。


「今日は、ごゆっくりお楽しみくださいね」


 俺は杯を出して、燗酒を受けた。


「たけぞうさ、蕎麦がきが上がったぜ、たべろ」

「ありがとう、婆さん」


 美都が三味線をぺぺんと弾き、明るい小唄を唄いだした。


「柔心は金剛山と戦ったことがあるのか」

「前回破りましたね、かなりの芸達者ですよ」

「相撲を破るのは、やはり足か?」

「ええ、足で攪乱して頭部の急所を打つのが定石です」


 相撲取りはでっぷり太っているので、胴体の急所に技を打ち込みにくい。

 頭部を鍛えるのは限界があるので、組技系の格闘技には、頭部攻撃が効くのが道理だ。


「武蔵さま、がんばってくださいね、うふふふ」


 燐が酒を飲んで、真っ赤になって、俺の膝にしなだれかかった。


「子供が酒を飲むな」

「子供じゃないですよーっ」


 燐は、気持ちよさそうに俺の膝に頭を置いた。

 髪を撫でてやると、燐は目を細めて微笑んだ。

 さらさらと、細い絹糸のような髪の感触が手に伝わる。

 勝負はやってみないと解らないが、明日はたぶん大丈夫だろう。

 俺は、温泉合戦で優勝して、そして……。


 そうか、妹が生き返ったら、ここに置いて貰えばいい。

 燐と妹は良い友達になれるだろう。

 俺は時々ここに帰ってこよう。

 ああ、それは、すごく良いな。

 武者修行の旅に出て、疲れて古座谷に帰ってくる。

 婆さんの蕎麦がきと、燐と、妹が迎えてくれる。

 その光景は、なんだか心が痺れるぐらいに甘美で、幸福な色をたたえていた。


 夜半、宴はほどけて終わった。

 俺は酔いつぶれた燐を抱きかかえて、歩いた。

 温泉に近い小道から、湯の中に居る晴海と奥衛門が見えた。

 奥衛門は手ぬぐいを振り回して、晴海はそれに湯を撃ちかけ無効化させようとしいているようだ。


「もうすこし、滴が小さくないと、拙者の手ぬぐいの峰で切れて意味がないでござる」

「ふむ、難しいよの。とっさに湯を使うと考えた兄貴は天才じゃの」

「まこと、すばらしいお方で。お、この湯弾はよろしいぞ」

「よし、掴みかけたわい。次の合戦では、湯を使う技で兄貴を倒すのじゃ」

「ふふ、拙者も湯弾をすべて切り落とせるよう修練いたす。武蔵殿を倒すのは拙者じゃ」


 俺は歩きながら笑っていた。

 真剣勝負のようなキリキリした緊迫感はないが、なんだか、温泉合戦は楽しい。

 技術を競い合う、明るくて爽やかな感触がある。

 俺も四年後が楽しみになっていた。


十四


 朝、いつものように、温泉の真ん中に歩く。

 柔心まで付いてきたので、古座谷から出るのは俺と燐をまぜて六人の団体だ。

 俺以外は野次馬だけどな。

 朝の湯治の客を婆さんが追い出す。

 人の多い温泉だと合戦に行くのも大変だ。

 燐が呪文を唱える。

 宙に浮いたような感触。闇。白い爆発。

 歴史ある出雲の玉造温泉に俺たちは転移した。


 待っていたのは相撲取りではなかった。

 骨の馬が温泉の脇で一声いなないた。

 石で囲われた露天風呂に玄信叔父が全裸で立っていた。


「良く来た成名」

「叔父」

「あれが、新免武蔵……」


 それは筋肉で出来た山岳だった。

 どっしりとした色黒の巨体がのっそりと立つ。

 巨木のような腕。厚い胸。手入れのない髭や髪が風に揺れている。伝説の山丈と言われても皆信じたろう。

 やや猫背でこちらを表情のない目で見つめていた。

 口元だけが笑っていた。楽しそうに笑っていた。

 猛獣のような覇気が温泉中を包んだ。


「急遽代表が昨日替わってな。出雲の玉造温泉の代表は新免武蔵どのじゃ」


 狸爺さんが、旗を持ってそう言った。


「な、なんでだ? 玄信叔父」


 金への欲望も、名誉への渇望も、死んだ者への愛着も、玄信叔父にはない。

 あるのは、ただ、一剣への執着。戦い勝つことへの一念しか、叔父にはない。

 なぜ、温泉合戦なぞ。


「紀州白浜の試合、遠くで見ておった」

「ああ」

「お前の迷いが消えておる」

「……」

「儂は勘違いをしておったよ。お前は孤独の中に牙を研ぐ獣だと思うておった。儂と同じ生き物じゃと、さすがは一族よなと」

「俺が緩いと?」

「ああ、ああ、ちがうちがう、お前は違う獣だったのだ」

「なんだと?」

「緩いのではない、護る獣だ。護る者がないお前は不完全で、未完成じゃ」

「護る?」

「誰かを護る時。そして、護りきれなんだ時、お前の獣は目をさまして暴れる。今でも目に浮かぶ、妹を殺され、怒ったお前が、石を持って有馬喜兵衛を撃ち殺した姿がな。目も止まらぬ速度で石を振り、剣を打ち折り、すりつぶすように、有馬の一党、十五人を殺しおった。儂はうっとりしたよ。そして、お前の中の獣と戦いたい、そう渇望したぞ。背が伸び、術を覚え、剣客として成長したお前とな」

「……」

「護る者を得たお前は獣となる。それを無意識に知っていたからこそ、お前は孤独を守った。これまで誰とも親しもうとしなかった。獣はいっこうに現れなんだ」

「……叔父の気のせいだ」

「それを試す。そのために金剛山とやらの関取はつぶさせてもらった」


 巌のような巨体が、俺を圧した。


「やってみろっ!」

「で、では、温泉合戦を始めるぞ。決勝戦はじめっ!!」


 ふらりと、叔父の体が揺れた。


「温泉合戦の規約は単純である。 寸鉄を持たず全裸にて行う。温泉の外に出たら失格である。気絶し合戦を続けられぬ場合は失格。ではまいろうか、成名……」


 きゅうっと叔父の顔が歪み、笑った。


「もう一つ個人的な規約を付け加える。成名、お前が負けたら、お前についてきた、有象無象をひねり殺す」


 ざわっと、背中に稲妻が走った。

 叔父は一度口にした事はする。


「あの子供も殺す。有馬喜兵衛がお前の妹にやったように、……犯して殺す」


 一瞬大気がかたまったような気がした。

 吠え声が胸の奥から爆発して、肩に伝わり、拳の速度となって、叔父の胸に打ち込まれた。

 あたりが固まったわけではない。

 俺が神速で動き始めた、と気が付いた。


 叔父は、歓喜して笑った。

 獣の笑いだ。

 卑しい修羅の剣鬼の笑いだ。


「それだ、それだ、成名っ! 待っておったぞっ!!」


 左の拳が、叔父の胸に入った。

 柔らかい岩を叩いた。そんな気がした。拳の衝撃は幾重にもまとわれた筋肉の鎧にはね返され効き目がない。

 関係ねえっ!

 殴った、殴った、ただ殴る。吠え声をあげながら、殴る。

 神経は針のように尖って鋭敏に叔父の動きをつかむ。

 叔父の拳を避け、膝蹴りを打ち込み、肘を打ち込み、かかと蹴りを落とし、中段突きを打つ。


 一方的に打ち込んだ、だが、叔父を止められない。

 鋼のような筋肉がすべての打撃を無効化する。

 叔父が腕を振る。俺は肩でぶち当たる。

 馬がぶつかったような衝撃。

 衝撃を読んで、斜めに力を受け流して、なお、打撃力が残る一撃。


「凄まじい、何という兄貴の速度かっ!」

「しかし、新免殿の肉体には、効き目が薄いでござるっ!」

「成名殿、急所をねらうのですっ!」


 辺りは白黒で、色がない。

 わあんわあんと音が籠もり、思考力が干上がっていく。

 ただ、前に前に打ち込む、けり込む、踏み込んで行く。

 はっ、と気が付くと、奥義の打ち込みが出ていた。練習では成功したこともない高度な打ち込みだ。

 だが、それも急所を外され、かするだけで、効果が出ない。


「うおおおっ!」


 叔父の拳が下から跳ね上がる。

 受け、ようとしたのが間違いだ。

 受けた腕ごと持って行かれ、俺は宙に浮く。

 ギシリと骨が鳴る。

 くるりと世界が回転して、俺は膝を使って、湯底に着地する。

 腕に真っ黒に拳の跡、そこに湯しぶきが掛かり流れる。


 打ち合う。

 俺の方が手数が多い。

 当たれば岩をも砕く威力が、肉に阻まれ散らされる。

 叔父の拳が、蹴りが飛ぶ。

 一撃一撃が骨に伝わるほど重い。


 腕を取り、関節を固めようとする。振りほどかれ、飛ばされる。

 力の桁が違う。

 叔父は竹の節を握りつぶすほどの筋力を持つ。

 片手の剣で人をまっぷたつに出来るほどの筋力だ。

 その力がまっすぐに俺にぶつかり、骨がきしみ、皮膚を破り、血が噴き出すが、気にならない。

 痛みは感じない。衝撃だけがずんずんと骨の奥に響く。

 技が、叔父の肉体の中に入らない。弾かれて体勢をくずした所に、芸のない振り下ろしや、突きが来る。

 湯の中を引く。そして、また押し込む。


「儂の戦い方は剣ではない。武蔵の闘法よ。剣を振るために鍛えた肉が、お前の小賢しい技を防ぐ」


 恐ろしい肉体だった。

 恐ろしい修練だった。

 ただ人を斬るそれだけの目的に、長い長い年月をかけて積み重ねて来た身体だ。


 ずっと叔父が好きだった。

 無口で怖い人だったが尊敬していた。

 滅多に見せない笑顔に邪気が無くて、純粋な人なんだと思っていた。

 いつか叔父のような強い侍になるんだと、ずっと願っていた。

 叔父は人を斬る剣客だった。

 時々血の臭いをさせて帰ってきた。

 強情で一度言い始めたら曲げない所があって、良く父と喧嘩をしていた。

 ずっと叔父を超える事を夢見て、俺は剣を振っていた気がする。


 ゴンとぶち当たった叔父の拳を抱えて投げを打った。

 風呂の外に出すつもりだったが、ねらいが狂い、風呂端にぶち当たり、湯殿が揺れた。

 叔父は改心の笑みを浮かべて立ち上がる。

 風呂端が崩れて、湯がざあざあと外に漏れだし、水流が俺の腿を撫でて行く。


 風体にこだわらない人だった。

 ほっておくと、半年も風呂に入らないと、母があきれていた。

 金にも無頓着で、出世にも感心が無い人だった。


 叔父の養子の伊織に聞いたことがある。

 なぜ、手柄を全部伊織に渡して、自分は出世しないんだと。

 伊織は笑って答えていた。

 養父は人とつきあうのが煩わしいんですよ。剣で敵に触れて居たい人なんです。

 叔父の手柄を譲って貰い、伊織は今、家老職になっている。


 叔父に良いのを貰ってしまった。

 俺の顎に頬に、二連の打撃が綺麗に入った。

 骨が砕けるのを感じた。

 ああ、やっぱり叔父は強いな……。


 枯れた草原が目の前に広がった。

 遠く妹が居る。

 妹は微笑んで、手を振った。

 お前も行ってしまうのか?

 妹は頷いた。

 くるりと身を翻して、黄金色の草原の中、どこまでも遠く駆けさっていく。


「武蔵さまっ!! がんばってーっ!!」


 燐の悲鳴で我に帰った。

 ほんの刹那、気を失っていたようだ。

 叔父の拳が肉薄していた。

 とっさに身をかわし、拳を無意識に打った。

 受けた叔父の左腕に拳をねじ込むようにして打ち上げ、腰を前に出して、肘を打ち込んだ。


 猛虎硬爬山もうここうはざん


 そうだ、そんな格好が良い名前なんで、師匠と柔心と俺は笑ったものだ。

 さらに腰をひねり、叔父の重心を崩して手刀を袈裟懸けにたたき込んだ。

 左右の小打で幻惑したあと、顎に掌底を打ち込んだ。

 ゴキリと骨が砕ける感触がした。

 叔父の巨体が温泉の隅まで吹き飛び、そこで踏ん張って止まった。


「……。さても……。徒手の試合は手数がかかるな」


 叔父は肩で息をしていた。

 口の端に血が滴っていた。

 俺も肩で息をしていた。

 右拳にひびが入った感触がある。体のあちこちの骨がきしんでいた。

 だが、後ろから支えてくれている感触がある。

 まだ、俺は守る為に戦える。


 叔父が、邪気のない笑い顔を見せた。

 俺も笑っていた。

 苦しくて、痛くて、辛いけど、どこか、楽しい。

 叔父に殺されるかもしれない。叔父を殺すかもしれない。

 戦いは先が全く見えない。

 叔父の筋肉の所々が腫れて、傷ついて、血を流していた。

 俺の体も、叔父の打撃で、腫れ、ひびが入り、血をながしていた。


「両者、失格!!」


 狸爺さんが、二本の旗を下で交差させた。

 俺と叔父は動きを止めた。


「足下を見てみい」


 砕けた風呂端から温泉の湯がすべて流れ落ちて無くなっていた。


「温泉から出たら失格じゃわい」


 叔父の覇気が消えた。

 ふうと太い息をついた後、叔父は笑い出した。


「では、仕方があるまい」

「決勝戦は両者失格。同率二位として、今回の温泉合戦は終わる」


 わあっと歓声を上げて、燐と仲間たちが駆け寄って来た。


「成名よ、次の時は真剣で立ち会う」

「ああ」

「お前の神速を破る術を編み出す。お前も修練を怠るな」


 剣の勝負なら、神速で振れる俺が有利か。だが、叔父は半端じゃないからな。

 叔父は湯船から上がり、去って行った。

 また、戦おう。玄信叔父。


 楽しかった。


「あの、長老様、今回は人を蘇らせるのは?」

「ああ、そうじゃった、同率二位じゃから、両方に蘇らせてやるぞ」

「新免さま、帰っちゃいました~」

「まあ、要らないならしょうがないわい。あとで行くかの」


 燐がやってきて、俺の手を取った。


「だれか一人だけ生き返らせる事ができますよ」


 ……。

 狸爺さんに引かれて、狸の婆さんがやってきた。


「この際じゃ、誰でも蘇らせてやるぞ」

「ええっ! それは気前が良いですな、で、では、無き真田の殿を!」


 晴海が吠えると、狸の婆さんは洗い場に膝を突き、数珠をじゃらじゃらと言わせた。


「おうおう、俺はいま極楽で安楽にくらしているよ~。おまえたちも体は元気かよお~」

「と、殿~っ!!」


 晴海はしゃがみこんで、泣き出した。


「どうですか? だれか蘇らせたい人は?」

「なんだよ口寄せかよ」


 仲間たちは口々に、死んだ人を狸の婆さんに呼んで貰っていた。


 俺は……。

 もうさよならは言ったからな。

 愛していた奴は、遠い黄金色の枯れた草原の向こうへ、笑いながら駆けていった。

 あいつが俺にしがみついていたのではないのだろう。

 俺が、あいつが必要だったような気がする。


「さあ、帰りましょう、祝賀会を盛大にやりますよーっ!」

「ああ」


 燐に手を引かれながら、空を見上げる。

 大阪の城にも、幸せがあったのだろうと、ふと、思いついた。

 誇り高い死を望む武将が居て、平穏な、そのままの暮らしを続けたい凡庸な人が居て。

 折り重なる幸福に、不幸が押し掛かって、縄のように絡みついて。


 俺は不幸しか見てなかったな。

 今なら城の絵が描けそうな、そんな気配を感じながら、俺は湯船から出た。


(了)

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませて頂きました 温泉でマッパなので男の弱点がぶらんブランしてるはずなのに 男は誰も攻撃ないのが不文律の作法としてありそうですね
[良い点] 今話題のアレとタイアップして「激湯!温泉むすこ!」として格闘アプリゲームに出来そうですねw
[一言] 武蔵ものなのにまさかの徒手空拳! 名勝負の連続ですばらしかったです。 シリアスと緩さのバランスがちょうどいい。 試合相手が遺恨を引きずらないのも読後感が爽やかですね。 なんやかんやと一番…
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