8話・“模擬演習“と“強制監査“
“護衛団入団式“
それは勇猛果敢な者も、頭脳明晰な者も平等に訪れたことのある式典である。
そして今宵、シンはその式典を始めに兵士として幕を挙げることになるのだった。
◆◆◆
《西側護衛団 大講堂室》
護衛団が所有している大講堂室は人が何百人も入ることができる施設であり、大人数での模擬演習や講演会等のさまざまな用途で使用される。
“やっと俺も護衛団に〜!“
“……楽しみだなぁ“
“私入るならサグラ部隊に入りたい〜“
そして今日、合計100名の選ばれし新団員の晴々とした入団式が数分後に行われることとなる。
“サグラ部隊って確か部隊ランク一位だよね?“
“そうそう私憧れててね───“
「……」
だが、そんな中シンは大勢の新団員達がいる講堂で悩む様子で佇んでいた。
◆◆◆
《西側護衛団リアン部隊室》──入団式前日──
──午後10時頃──
シンが悩む理由、それは“ザー“を政府連邦軍が襲った日まで遡る。
「“強制監査“ッ…!?」
任務から帰ったリアンがそう言って、驚いた表情で四人の隊員達に対して疑問を投げかける。
その言葉に対してドレット、シンはピクリと肩を震わし、レイゲンは黙々とパンを頬張っていた。
「はい、先ほど話した通り、上層部には機械革命軍に関して触れられたくないそうです」
ルアトは神妙な面持ちでそう話す。
その一方で欠伸をしながら、レイゲンが声を漏らす。
「ふぁ〜。強制監査かぁ。そういえば俺シン君、明日“入団式“じゃなかった?たいちょ〜、どうするんすか?」
「……あーそれがあったか。……面倒だな」
「叔父さん、なんでだ?」
シンはリアンの言葉に疑問を抱き、声に出した。
「毎年、副団長の意向で新人団員達の模擬演習があるんだ」
「模擬演習……?」
「正規隊員になり、各隊に配属させる為に模擬という名のバトルロワイヤルを新人同士で争わせる“しきたり“がある」
“模擬演習“とは──。
新人団員が課される最終試験であり、その順位によって待遇が変わる入団式の醍醐味である。
“醍醐味“と言われる所以こそ、そのバトルロワイヤルで上位三十位になれば、所属したい部隊に絶対に入ることが出来る権利が手に入るのだ。
「……え?でもレイゲンさんが───」
シンは困惑していた。
それはそのはず、レイゲンという男が口走っていたのが原因である。
『おぉ~!!俺にもやっと後輩ができたんだぁ~!おっほん!俺は“西側護衛団”リアン部隊所属ッ!キミの指導役のレイゲンだ!これからよろしくな!!!』
レイゲンは申し訳なさそうにパンを咥えながら答える。
「……あぁ…確かに言ってたよぉ〜な?」
「ったく、しかもレイゲンには後輩いるだろ。ドレットって男が」
リアンは呆れたように言うとレイゲンは当たり前かのように声を発する。
「“ドレ“はなんか天才肌っていうか〜なんつうか後輩って感じしないんすよね〜」
その言葉にルアトは表情が固まり、ドレットに説教しようと言葉にする。
「レイゲンお前バカッ────」
「伍長、またその呼び方やめて下さい。というか、僕はこんな“茶番“のためにこの時間まで──」
先程まで座っていたドレットはレイゲンの言葉に反応し、すぐさま立ち上がって話を続けようとした。
「まぁまぁ、リアン隊長。続けて下さい」
だがルアトはすぐさまその二人をなだめるように制し、リアンに話を託す。
「……あ、あぁ。おっほん。先に言っておくがシン。お前は俺のよしみで今この隊に居ることが出来ているが、うちの隊の正規隊員じゃないんだ」
「……なるほど」
シンがそう言うと、レイゲンが言葉を発する。
「でも、俺さ〜。シン君の精神力はすごいと思うし、うちの隊にいたらめっちゃ強くなると思うんだよね。し・か・も!隊長と血縁ならやりやすいってのもあるし!」
そしてその言葉に呼応するようにドレットがシンに対して声を発する。
「……僕も伍長に賛成です。精神力もさることながら、“機械“への知識、そして応用力がある。少なくとも僅かながらも戦力にはなるかと思います」
シンはそんな言葉に感銘を受け、改めて声を出す。
「……俺も、みなさんと一緒に頑張りたいです。でも、俺のせいで“強制監査“が────」
「……シン。お前が気にすることはない。よし!わかった。監査は俺ら3人だけでやる。レイゲンはシンのサポートを頼む」
「……りょうかいひまひた」
レイゲンは二つ返事でパンを貪りながらそう答える。
「シン。お前は入団式の模擬演習“バトルロワイヤル“の上位三十位以内を目指すんだ」
「わかったよ叔父さん。……いや、分かりました。“リアン隊長“」
シンは自身を奮い立たせるようそう言い、頷いた。
◆◆◆
《西側護衛団 大講堂室》
「……」
(とは言ったものの……三十位以内……か。俺に出来るのか…?)
シンは悩みにふけっていると、自身の後方から声が聞こえてくる。どうやら向こうはシンが聞こえないと思っているようだった。
「───進化してないヤツみっけ」
「例の“東側護衛団“のミレイってやつ探してるバカっすよソイツ」
「……へ〜。ミレイなんてあんな可愛いヤツ、奪ってやろうぜ。進化してないヒヨコにはあの女なんてもったいねえしな…ッ」
シンはその言葉で確信したのだ。
“ミレイ“はまだ生きていると───。