5話・5人目のリアン隊
──世界は2つの勢力により均衡が保たれていた。
人類の7割を占める旧人類の大組織“政府連邦“
世界連邦は核戦争のあった後、バラバラになった国々をまとめ上げ、彼らのことを世界の救世主と呼ぶ者もいた。
だが、2200年現在は10代目総帥である“ハイラー“の謎の失踪から、内部での覇権争い、更には腐敗した政治が横行するほど失速しつつある。
対する人類の3割を占める超人類の組織“護衛団“
ガーディアンは2200年現在、東西南北の4つの支部と中央地区街に構える本部を持ち、最も自身の人種に対して敬意を示している自警団である。
だが、発足当時は戦争屋として世界の崩壊を望んでいる者が多く、非常に統制が取れていなかった。そして今でもそのような思想を持つものがいるとかいないとか。
そして2200年、レジスタンス首謀者“ライオット“の登場により、世界の均衡が崩壊の危機に直面していた。
◆◆◆
【東街】
「ミレイって女はこの手で殺した、愚かな奴だったよ」
“ライオット・ワン“はそう言った。
邪悪な笑みを浮かべ、こちらに目線を合わせてくる。
「……そんなはずない」
だが、シンは否定した。
目線を下げ、強く声に出す。
「ミレイは生きてる……!」
「……ほう」
「アイツが死ぬなんて事はないッ!!」
「……ふ……ははは」
ライオットは笑うように呟く。
「……また統計外の回答か、“オーバー“の連中にしてはとんでもない奴を持ってきたもんだ」
その時、ライオットは何かを“オーバー“と称し、話を進める。
「シン。お前はこれから後悔することになる」
「……はぁ!?」
「“オーバー“と“オーダー“も双方お前を……いやこの話はよそう」
(“オーバー“、“オーダー“……?なんの話を──)
そしてゆっくりとシンに近づいて行くライオット。
「そんなことよりシン、今はお前はまだ未熟で欠陥だらけ。でも俺は力があると見出してる。今後、全てを塗り替える何かをね」
ライオットがそう言うと周りにいた数体の機械兵がシンに向けて歩き出す。
『ガガガガガギギ!』
「……ッ!」
「……だから、出る杭は引っこ抜かないと、な」
◆◆◆
【西側護衛団・リアン隊室】
同時刻、副隊長のルアトは通信を行なっていた。
「こちらルアト……隊長、辺りの敵機はレイゲンと一緒にお願いします。」
『こちらリアンだ。……は?何言ってんだ俺一人でも十分だ。レイゲンをシンの護衛に付けてやれ。俺はこれくらいの数どうってこと──』
ルアトは呆れた口調でリアンに返す。
「怪我してる状態での戦闘は危険です。それに、シンの周囲に“オーダー“の生体反応を感じます」
『“オーダー”だと…?なんで連邦の奴らが……』
“オーダー“
それは旧人類の政府連邦軍を指す蔑称であり、
護衛団らが軽蔑の意味を込めてそう呼ぶ。
また、対して政府連邦軍も護衛団をガーディアンと呼ばずに“オーバー“という蔑称で呼ぶことがある。
「……そこでオーダー対策にウチの“蒼龍“をシンの救出に出します」
『……まじかよ。シンとアイツを深く関わらせるなよ。絶対合わないからな』
「…はぁ、確かにそうですね。了解です、隊長」
ルアトは通信を切り、後ろで椅子に座っていた“蒼龍“と呼ばれていた男に声を掛ける。
「ドレット、えっとぉ、」
「……副隊長、僕はやりたくありません。僕はヘタレ新人の尻拭いの為に護衛団に入ったわけじゃないですから」
「今の通信聞こえてたのかよ……」
ドレットという男は入団してから一年足らずで一等兵級レベルの高戦績を叩き出したエリートである。
髪は青色であり、武器は長刀。頭脳明晰であり強靭な力を持つ姿から“蒼龍“という称号と一級兵士という上兵士級を僅か二年で授かった。
「あ、あのなぁ、」
「ルアト副隊長、今は上官である貴方に従いますが、ああいう“情“に付き従った人間はいつか堕ちます。優秀な貴方ならわかるでしょう。副隊長という階級についている貴方なら」
◆◆◆
“上兵士級“などの階級とは───。
護衛団には戦績や市民からの支持率により階級がつけられ、その階級よって給与額などが変わってくるのだ。そして階級は大きく分けて四階級ある。
“下兵士級”
上から準一級兵士、二級兵士、準二級兵士、訓練兵士が存在する。
下兵士級とは、兵士の中で下位に位置し、若い兵士は必ず訓練兵士から始まる。
“上兵士級“
上から隊長、副隊長、伍長、一級兵士が存在する。
兵士の中でも上位に位置し、一級兵士以上で、レイゲンの“雷神“やドレットの“蒼龍“のように称号を与えられる。
“皇兵士級“
兵士の中でも選ばれし階級であり、六傑と呼ばれる六人の最高戦力が存在する。そして、団の長である団長にも引きを取らない実力者だという。
最後に“指揮官級“
上から団長、副団長、右臣、左臣が存在し、主に指揮を執る最上位の立場である。
◆◆◆
「……めんどくさいなぁ」
ルアトは気だるそうに一言、ドレットに聞こえないように言う。
「副隊長」
「……あい?」
「僕は必ず貴方達上官を超えます」
ドレットは真っ直ぐ目をルアトに向ける。
だが向けるその目は暗く濁っていた。
「……そんなに上に行きたい理由はなに?」
ルアトは一つ、足を踏み込んだ質問をした。
だが、ルアトの考えていた答えとはまるっきり違う答えが返ってくる。
「……そんなの貴方には関係ありません。そんなことより対象地は“東街“救出対象は“シン“、でしたか?」
「え?あぁ、そうだよ。え、行ってくれるの?」
「“上官の命は従う“と言ったでしょう。はぁ…副隊長、しっかりしてください。それでは行ってきます。」
ドレットはそう言って、部屋を出て行った。
その姿を見てルアトは大きなため息をつく。
「部下に恵まれねぇなぁ…俺」
ルアトは疲れた表情でそう呟いた。