4話・ライオット・ワン
時を遡ること2030年。アメリカとロシアを初めとする主要国家は、新たな技術である“人工知能”の高みを目指して世界は発展していった。
ある国ではコミュニケーションにおける“友”として。
またある国では戦争の手段としての“道具”として。
そしてその中で異彩を放つ“完璧な人工知能“が誕生した。
──その名はRIOTである。
ライオットは人間によって生み出された最初の“高性能対話式戦闘アンドロイド”である。
機能は様々だがこの機体が唯一持っていたもの、が存在していた。
……それは他機械への干渉性。
つまり、他の誰かが作った機械のプログラムへの強制干渉が出来るというものだった。
いくらセキュリティーを強化しようが、プログラム自体を捻じ曲げる。
そんな機械は世界中で注目だった。
──だがしかし、この機体は世界で一体のみしか創ることが出来なかったのだ。
そうなるとどうであろうか。
醜い人類達はこう思ったのだ、
『RIOTが欲しい』と。
人間はこれを求めるが故に“とあるもの”を引き起こす、
世界を終末へと誘う“核戦争”を。
そして2050年、世界は核によって一度滅びを迎えるのだった。
だが人類は諦めずに2105年、世界には“政府連邦”が誕生し、
人類の再興を目指すこととなった。
◆◇◆
夕日が辺りを照らす最中、シンは息を切らしながら街を駆けていた。
街の建物は崩れ落ち、機械兵達の足音が辺りに響き渡る。
「……ッ!」
手には“小さな包”を持ち、鳴りやまない機械の行進の中“東側護衛団”本部へと足を運んでいく。
その道中には東側護衛団を象徴する“鷹が描かれている緑色の旗”がいたる所で倒れ、ビリビリに引き裂かれている。しかもその旗には英語で《RIOT》と描かれていた。
(……機械反乱軍……)
シンは走りながらそう思考した。
機械の異常なまでの執着、そして謎の文字がシンの胸に引っ掛かりを覚えさせたのだ。
(……RIOT。どこかで聞いたことがある、なんて意味だ……?)
だが、その思考も足も数秒で止まってしまう光景がシンの目の前に現れる。
機械兵の数体が白髪の若そうな男に刃を向け、突撃をしようとしていたのだ。
『ガガガガ……』
『グギギギ』
『生命不明……不審物。排除対象。ハハハハハ排除』
「……」
そう、あの時と同じだ。小さな女の子がブレードで引き裂かれようとするあの時と──。
シンは思いとどまることなく、なんの躊躇もなく、足を動かしていた。
「……“西側護衛団シン”今助けに参りましたッ!」
シンはそう言って、機械兵の頭の部分に目掛け、両足でドロップキックを入れる。
攻撃は見事に直撃はした。
──だが、倒れずにすぐに体勢を戻してしまう。
まるで誰かに小突かれただけかのように。
(ま、まじかよ……全然効いてねぇ……。ぐッ…足が……)
『……ガガガガガガ。“シン”、ハハ排除対象』
シンの攻撃は全く効いていなかった。
効いてないならともかく、シンの脚はさっきの蹴りに耐えられず挫いてるようだ。
痛みがジンジンと広がり、血も出ている。
「……お前が“シン”なのか。思ったより若いな」
そんな時、何処からか声が聞こえてきたのだ。
聞いたことがない低い声であり、特徴がある声だ。
(……は?)
「僕の見込みだと、“人間の年齢”としては40歳は軽く超えてると思ったんだけどな」
その直後、その声の主が機械兵の間を縫って目の前に出てくる。
声の主は白髪の男。それは、シンが助け出そうとした人だった。
(人間……!?な、なんだ、何が起こってるんだ)
(……ちょと待てよ。なんで機械兵達は攻撃を急にやめたんだ……?まるで意思を持ってるかのように、いやまさか……そんな事って──)
「いや、なんでって“僕”がやめさせたからね。コイツらは“僕”が絶対さ」
(なんだよ……どうなってるんだ、まるで心を読まれ──)
「実際には読んでないよ。僕は“統計的”に人間が何を思い何を言いたいか分かるだけだから」
「……お前は誰なんだ。何を知ってるんだ」
シンは勇気を振り絞り、声をひねり出す。
相手は感動するように手を叩き、シンを称え始めた。
「お~お。統計外の反応だ。いつぶりだろう。すごいね。キミ面白いし気に入ったよ」
「……何が面白いんだ?人が死んでるんだぞ、ふざけ──」
「“ライオット・ワン”。機械反乱軍の首謀者さ。」
その男はそう言った。
その名は“ライオット・ワン”
最初に作られた“高性能対話型戦闘アンドロイド”のプロトタイプである。
西暦2030年から、姿をくらましており、存在はそれから確認されてないという。
「レ、レジ……スタンス……だと……?」
シンは怒りを露にし、拳を強く握って声を出す。
「ミレイは何処へ───」
シンは思ってもいなかったのだ。
人工知能の残酷さを、そして恐ろしさを。
「──ミレイって女はこの手で殺した、愚かな奴だったよ」
その時、“ライオット・ワン”は今まで作らなかった表情を、
満面の笑みでそう言ったのだ。