39話•ライオットの両翼
《西側護衛団上層部》
ゼフォドラが登場してから何時間も経った後、上層部では団員達が防衛する姿を会議室にてモニター越しで見入っていた。
その広い会議室には団長補佐、副団長補佐、副団長ロギの三人がテーブルを挟んでいる。
「な、なんじゃと!?副団長!いまなんと!?」
団長補佐の白い髭を生やした老人は勢いあまってそう叫ぶと、副団長ロギは口を開く。
「……もう一度言う。この防衛戦に意味は無い」
「副団長、何を仰っているのかさっぱりで……」
「そうじゃよ、この戦いに意味がないなどと…」
メガネをかけた副団長補佐の女に便乗し、団長補佐は声を荒げてロギに問いた。
そしてロギはモニターに目を通して重く閉じた口を再度開け、息を漏らしながら声を出す。
「東側護衛団が壊滅寸前という報告を受けた。敵は例のレジスタンスによってだ。敵兵は何十万という規模らしい。しかし我々に襲いかかってきたのは数百程度、どういうことか分かるか?」
ロギは重く沈んだ声で響かせると、幹部二名は驚いた表情で一瞬声が出なくなる。
「……東側護衛団が……」
「か、壊滅寸前じゃと……?」
二人の驚いた表情を見たロギは更に言葉を重ねる。
ロギは落ち着いた声色で語るが、その声には焦りが見える。
「東側護衛団は六傑で対応したが二名が死亡、三名が重傷だそうだ。我々の六傑も苦戦中との状況報告を受けている━━」
「所詮ただの機械じゃろ!?何故そんなにも…!?」
団長補佐が慌ててそう発言すると、副団長補佐が恐る恐るロギにとある事を聞いてきたのだ。
「も、もしかしてですが。我々が相対する敵兵が数百で済んでいる理由というのは、我々が東側護衛団に増援を送り込むのを阻止する為の“ブラフ”というもの、ということでしょうか」
「……そうだ。恐らく我々西側護衛団だけでなく、他の護衛団にも多少なりとも被害は行っている筈だ。そして……その首謀者というのも皆も知っているであろう、“ライオット•ワン”というアンドロイドだ」
ロギは真面目な口調でその名を語ると、その場で立ち上がり二名に対して言葉を乗せる。
「……ライオット•ワンは決して過去の産物として侮ってはいけない。ヤツは”両翼”を持っている」
「……両翼……?」
団長補佐は息を呑み、副団長補佐は自身の唇を噛みながらロギの言葉に耳を傾ける。
「正確にはライオットが野放しにしている二体の最強と呼ばれる“ノイド•シリーズ”だ」
「ノイド•シリーズ……聞いたことがあります。奇怪な博士が創り上げた最高傑作のこと、ですよね?」
副団長補佐がそう言うと、ロギはゆっくり頷き話を続ける。
「その最高傑作の中でも異質な存在が二体ある」
「混沌を好む残虐性の鉄塊“カオス•ノイド”」
「ライオットへの歪んだ心を持ちライオット自身に擬態する性質を持つ“ジョーカー•ノイド”」
その説明に団長補佐は口を開けてヤジを入れようとする。
「た、たかが機械じゃよ!このまま戦っていたら勝てるかもしれん!何を語り出したかと思えば機械の説明じゃとぉ!?」
たがそのヤジにロギは一切の躊躇なく冷静に答える。
「“たかが機械”に我々の仲間は殺されている。その現実を身に染みてわかるよう君達に見せてやろう」
ロギは二名の幹部に向けて先程見ていたモニターに現在の東側護衛団の状況を映し出す。
その映像には燃え盛る炎と人々の骸が散らばっており、機械兵が次々と行進して団員達に斬りかかる姿が映る。
そして団員達は切り伏せられ、その団員の隊長と思われる人物に団員の骸を投げつけていく。
軟弱な市民も勇敢な団員も皆平等に切り伏せられ、押しつぶされ、焼き尽くされる。
人々の骸の中には“東側護衛団副団長”の姿も見られ、そのずっと先には銀色に輝く体を持つ異質な機械“カオス•ノイド”が笑いながら女子供に地鳴りが鳴る程の強烈な拳を叩きつけている。
「……これは」
「……うっ」
団長補佐は目を開き仰天、副団長補佐は吐き気を催してその光景を眺めていた。
「……これが現実だ」
ロギは衝撃的な映像をモニターから映し出すと、立ち上がらせた体を上層部会議室のドアまでゆっくりと歩みを進め、とある言葉を二人へ言い放つ。
「━━我々の戦いを無意味に終わらせる訳にはいかない。増援を東側護衛団へ送る手筈にしておけ。それと……」
「偽物のライオットには気をつけろと触れ回っておけ。今後多数の犠牲者が出ない為に━━━」
ロギはドアを開け、どこかへと歩いって行ったのだった。