38話・到達点
《大講堂室(住宅街フィールド)》━━シンside━━
「……はぁ……はぁ……」
シンは息を切らしながら倒れた体を起き上がらせようと奮闘し、目の前の状況に目を通す。
そこで彼は初めて、サグラ隊の援軍が来た事に気が付いたのだ。
「……サグラ隊だって?ま、まずい。ヤツが殺される……」
だがシンは何故かその援軍に対して焦燥感を覚えていた。
そう、サグラ隊の増援によってゼフォドラが討たれる事を予見して━━━。
「……あ、あれは」
荒れる息を整えながら、周りを見回すシン。
そこにはサグラ隊の副隊長と伍長と人狼の隊員が負傷しているシャドを援護する形でゼフォドラに対峙している。
そして、ゼフォドラの背後に”謎の人物”が見えるのをシンは見逃さなかった━━━━。
「……ライオット……!?」
その背後には白髪の姿をした“ライオット・ワン”そのものであったのだ━━━。
“ライオット・ワン”らしき者は造られた笑顔で腰の後ろで手を組んでいる。
彼の目線はシャドやサグラ隊に向けたものではなく、”こちら側”に向けた不敵な笑みを含むものにシンは見えた。
◆◆◆
━━レイside━━
「……やっぱり、この眼の通りだった」
レイはキリクモと共に壊れかけている住宅街の瓦礫に隠れながら、自身のエメラルドに輝く眼の近くを撫でて、“とある”一点を見つめる。
そしてその視線の先を一緒に見つめるキリクモは口を開く。
「……これがその“最悪の未来”の始まり、か」
その視線の先、それは施設内からの火災によって舞う黒煙や機械兵の侵攻によって破壊されていく重要機器達であった。
そして、レイのその視線の先の奥底に黒い髪で端正な顔立ちをした見覚えのある男が這いつくばりながら唇を噛み、立ちあがろうと奮起している。
━━その情景を見たレイは足が既に動いていた。
そしてその反応にキリクモは思わずレイの腕を掴む。
「……何をしている!今出てしまえば━━━━」
「━━━わかってる!!!」
レイはその叱責に重ねて珍しく声を荒げる。
「……でも、ここで行かなきゃ、私達の夢が━━━」
「夢……?」
彼女はいい掛けた言葉を飲み込むと、キリクモの手を振り払い、その視線の先へと歩み出す。
「……いや、何でもない」
「……“団長”になってこの”狭苦しい世界を変える”、か?」
キリクモのその言葉にレイは歩みを一瞬止めた。
彼女は驚いた様子でキリクモの顔を伺うと、彼は真面目な顔で真っ直ぐ彼女に伝える。
「アラギ様から聞いていた。『どうやら息子達が夢を持ち始めた』とな。笑ってそう語っていた」
キリクモの話を聞いたレイは目を逸らして顔を前を向き直す。
「……そう、私達には夢がある。その夢に近づく為に私は、今まで夢に近しい未来を選んできた」
レイは瞼を手でなぞりながら黒煙が上がる場所に目をやる。
「でもたまに今日みたいにこの眼に乱反射するんだ、最悪の未来が。……でも私はそんな未来は絶対に認めない」
「……」
「もう、死ぬことなんて怖くない。私が怖いのは”後悔”することだから。もう”あんなこと”は繰り返さないために」
「……」
キリクモは、前に進む彼女に何も言えなかった。
覚悟を持って前に進む彼女には言えるはずないのだ。
……そしてキリクモは知っていた。
レイがシンに対して罪悪感を抱えながら生きている事を。
◆◆◆
《大講堂室》━━シンside━━
「……なんで、ライオットが……」
シンは驚きを隠せない顔でライオットらしき者の方を這いつくばりながらも視認する。
そんなライオットは両手を後ろに回し、ニヤリとこちらに目を配る。その表情は機械的だが凄まじい狂気が感じられ、シンの背筋を凍り付かせる。
「……みぃつけた。“ジェット”」
ライオットらしき人物がそう呟くと、自身の両掌を地面に向けて“気流”が発出されたのだ。
それは強烈なものであり、なんとその動力によって一瞬にしてシンの目の前までたどり着いてしまう。
「……うへへへじゃあね、”誰か”さん」
狂気の目をした機械は体から蜘蛛のような機械の脚を背中から剥き出しにし、シンへ向けて一斉に飛びかかる。
それは“速い”なんてものじゃなく、瞼を閉じた瞬間に目の前に迫る程のワープに近い程の速さであった。
(コイツ……ッ!!)
シンは避けるほどの余力すら残されているはずもなく、目の前には蜘蛛と化した機械が自身を捕食しようとしている恐怖感だけが体を震わせているだけだった。
「……セナ!!」
「はい!光壁ッ!!」
しかし、その機械の脚はシン届く前に低く轟くシャドの号令と共に光の壁に阻まれる。
「あぁ…?なぁんでじゃまするのぉ?」
「…え?なんで私の壁が割れて━━━━━」
猫撫で声で機械はセナに向けて発すると同時に、長い蜘蛛脚で振り払うと、彼女の光の壁を一瞬で壊してしまう。
「……ねぇなんでなんでじゃまするのぉ?教えてよ!!」
「……がはッ!!」
━━瞬間、機械はセナの首元まで迫ると片手で首を締め上げながら笑って尋問し始めたのだ。
「く……くる……しい…ゲホッ」
セナは機械の手に抵抗しようと強く力を入れて振り払おうとするものの、機械は離すどころか力を増していく。
彼女の目は生気を失いかけていたが、必死に抵抗を続ける。
「……きひゃひゃひゃ!!死ぬってこんな感じなんだぁ!俺初めて知ったぁ!!”死”って面白いね!」
シンはその姿を見て、何かがはち切れそうなほど怒りで震えていた。だが身体は思うように動かない。
(……クソったれ!!!なんで“今”身体が動かねぇんだよ!!動け!!早く動け━━━!!)
セナの身体は抵抗すらしようとせず、身体に力が抜けていく。目から涙が出ているものの、身体には余力は残されていない様子だ。
(━━━俺を助けてくれたのに、なんで俺の身体はこんな時に動かないんだよ!!)
だがしかし、その瞬間黒い影が機械の背にある蜘蛛脚に向かって高速で飛んでいく。
その影は機械に当たると罰印のように刻まれ、機械は機械音を鳴らしながら喚き散らす。
「……ギガガガガガカギガガガガガカ!!」
機械の手はセナから離され、彼女は地面に落ちていく。
幸い息はしており命は守られたようだった。
「……」
「ガガガギガガガギガ……何したぁ?だれ?」
その攻撃の主こそ、シャド隊隊長であるシャド。
だが彼はゼフォドラとの戦闘によって満身創痍であり、立っているのもやっとのレベルだけであった。
シャドは無言でライオットらしき個体に闇の刃を向けると、一言だけ呟く。
「……惨たらしく破壊されるのが似合いそうだな、貴様」
その目は金色でより一層輝いていたが、先ほどの雰囲気と全く異なり、重く押しつぶされされそうな威圧感を持っていた。
「なぁにいってんの?てか━━━━━」
「━━━黙れ」
……言い終わる前の瞬間、機械から発せられた声は止まると身体が闇で覆い尽くされていき、機械の内部に闇が染み渡る。
ライオットらしき機械はぶるぶると震えながら眼が黒目で染まり、ついには全身が闇で染まっていく。
「”死”というのは面白いものではない。誰しもが課された到達点なんだ。そう簡単に到達していいものではない━━」
シャドの表情は無表情を貫いていたが、誰かを思いながらそう言っているんだとシンは強さと共に感じ取っていた。