35話・一斉包囲
《住宅街フィールド》──シンside──
「……とんでもない逸材やな、シンってのは」
ゼフォドラの軍勢を前に現れたシンは赤いオーラを纏いながら両手を広げ、シャドに降り注ぐ弾丸の雨を防いだ。
そんな姿に感心したシャド隊副隊長キールは声を漏らす。
そしてそんなシンは体に血を流しながら、ゼフォドラへ視線をずらす。
その時の彼は同情などの薄れた感情ではなく、悲しそうで、悔しさを含んだ目をしていた。
「……こんなこと、やめろよ」
ゼフォドラに語りかけるシンは真剣な表情で汗と血が混じる液体を手で拭う。
一方のゼフォドラは理性を失ったまま一切表情を動かず、シンに向けて次の一撃を喰らわそうと脚が動き、自身の体重を駆使して体当たりを繰り出す。
その強靭な肉体はシンの身体に激突し、シンは後方へ吹き飛び瓦礫へと追突する。
「……がはッ」
体が引き裂かれるほどの痛みがあるのにも関わらず、シンはゼフォドラがいる前方を睨むように見ながら声を吐き出す。
「過去に囚われるのが良くないって言ってるんじゃねぇよ……」
自身の拳を握り、瓦礫から出るように一歩踏み出す。
そして息を切らしながら、ゼフォドラに向けて声を上げたのだ。
「未来を見ようとしないのが、一番良くないんだよッ!」
「全てを投げ出して、復讐に走ってどうすんだよ!そこからのアンタの道は!?どこにあんだよ!!」
シンは心にあるものをゼフォドラへ強く吠えるように訴えかける。だがゼフォドラは静止したまま、表情はどこか何かを失ったような、ただの器だった。
『……その先の道などない───』
そしてゼフォドラは悟ったかのように呟く。
その呟きを聞いたシンは疲れ切った身体が地面に叩きつけられるように崩れ去る。
しかし、その呟きを聞いた者で行動する者が一人いた。
その者は目を金色に輝かせた長髪の男”シャド”である。
彼はゆっくりとゼフォドラの前に立つと、闇を両手に纏わせ、一言だけ吐いた。
「今だ───Ω、実行しろ」
その一言を言い放った瞬間、シャド隊のセナ以外の隊員がゼフォドラに向けて突撃し始めたのだ。
「……“蛇”」
シャドはそう呟いて前方にいるゼフォドラに向けて黒く澱む闇を両手に纏わせる。そしてその闇は大蛇のようにうなり、勢いよくゼフォドラの足に絡みつく。
「……“乾坤一擲”」
シャド隊副隊長であるキールはロウガの部下には目もくれず、腰に巻き付けていた“鬼”のお面を顔に付ける。
そしてその瞬間、武人のような振る舞いに変化すると同時に自身の闘気を練り上げ、驚異的な跳躍力を見せたのだ。
跳躍した彼は自身の手斧をゼフォドラを上空から勢いよく振り下ろそうとする。
「────おりゃあ!!!!」
一方、ずっと姿を見せていなかったステラルは、ゼフォドラの後方面から突然現れ、彼が持つ短刀をゼフォドラの首元目掛けて突き刺さんとする。
「……“龍星群!!”」
青髪のオールバックの男、ザインは生真面目で静かな性格とは裏腹に、怒号と共に彼の背には翼が生え、身体からは青白い炎が立ち込めていた。
ザインはゼフォドラへ青く光る大量の炎を他の隊員に当たらないよう、”流れ星”のように降り注がせる。
そんなシャド隊で使われる作戦Ωが突如今、実行されたのだった───。
◆◆◆
《住宅街フィールド》───レイside───
シャド隊がシンと共にゼフォドラと戦闘する中、黒髪で短髪の謎多き者“レイ”がキリクモと共にシンの居場所を探っていた。
辺りのフィールドはゼフォドラによって崩壊し、もう一度攻撃がフィールドに当たると現実世界へ戻ってしまうことをレイは薄々感じていた。
「……レイよ、本当にいいのか?この先に恐らくシン様はおられる筈だが」
「こうする事で未来が少しでも変わるならなんだってする。このままじゃ、シンは───」
時代にそぐわない忍のような姿をしたキリクモは念を押すようにレイに問いかけると、何か焦ったようにレイは呟きながらシンがいる場所へと向かっていった───。