34話・野望
《住宅街フィールド》
理性を失ったゼフォドラは創られたフィールドを咆哮で崩壊させ、その咆哮により洗脳した新人団員や機械兵を呼び出したのだ────。
「……」
シャドは自身の髪を結ぶと、またもや両手に闇が纏った剣が生成される。だがそれは先程だしたものより長く、多く覇気を纏っていた。
「俺が先に行く。お前らは俺の指示があった後に続け」
「…了解」
「ッはい!!」
───ゆっくりと瞼を閉じ、歩くシャド。
歩くたび、体からは闇が溢れ出し、紫色や黒色のオーラを背負っているようにセナとザインには見えたのだ。
(シャド───お前を救ってやる───)
シャドには聞きたくもない声が頭に流れていた。
その声を打ち消す為に闇を練り上げていく。
「偽善者は……上には相応しくない─────」
シャドには自分自身の闇に染まっていく過去の手が脳裏をよぎり、シャドのかつての仲間達の断末魔が耳を裂く。
『……ガッ!』
すると一体の機械兵が飛び上がり、シャドへ攻撃を喰らわそうとした。
だがそれも一瞬で目を瞑るシャドによって切り伏せられ、大きな斬撃音と共に真っ二つの鉄塊へと変わる。
──その姿を見たセナはザインに問いかけた。
「……な、なんか隊長ちょっと様子がおかしいような?」
「……」
ザインは沈黙を貫きながら、前へ歩いていくシャドの背中を見て、自身の唇を噛んだ。
そして重く閉じた口を開くザインは、いつもの余裕のある表情ではなく、焦ったような顔を見せる。
「……セナ、お前に話す時が来たか」
「へ…?」
「あの人の戦い続ける理由と、俺とキール副隊長が背中を追う理由だ」
ザインが話し始めると同時にシャドは閉じていた瞼を開け、ゼフォドラへ一直線に走り始める。
「今から話す話は隊長には黙っておいてくれ」
ザインがセナの目を見ながら念を押して言うと、セナはゆっくりと頷きながら耳を澄ませる。
「……シャド隊長は当時副団長だったゼフォドラの部下として可愛がられていた。いうなれば今のステラルみたいな感じだったらしい───」
「……え?ステラルくんみたいに……?」
その瞬間、シャドは両手に掲げた闇の刀を襲いかかる多数の機械兵の前で見えないほどの速さの剣技で次々と切り伏せる。
「……シャド隊長は若い頃はやんちゃをしてたみたいで、親もいなかった。でもその境遇なのにも関わらず、健気で元気な性格からゼフォドラだけでなくアラギ元団長にも気に入られ、順風満帆だった。……だがしかし、そこでゼフォドラが反乱を引き起こすことになったんだ」
「反乱!?そ、それは聞いたことがあります!」
刹那、シャドはゼフォドラに向けて刃を振りかざし、その一撃を何度も何度も打ち付けていく。
しかし、その多彩な剣技ですらゼフォドラは自身の大爪によって全て防ぎ切っていた。
「当初はアラギ元団長も反乱に加担していたんだが、当時の幹部連中や“中央護衛団”が介入し、アラギ元団長はやむなくゼフォドラに制裁を加えることになったんだ。
……そしてそれと同時に、この時のシャド隊長はゼフォドラとアラギ元団長との板挟みになった───」
その時、シャドは剣技を魅せた後、ゼフォドラの大爪に向かって後ろ蹴りを放つ。その蹴りは見事的中し、大爪に当たったゼフォドラは大きく体制を崩してしまう。
そのかわり、シャドの片脚は爪によって傷がついてしまい痛みを伴っているような表情を見せる。
「そして、アラギ元団長は衝撃的な事をシャド隊長に命じたんだ。ゼフォドラの部下を“殺せ”と───」
「……」
「シャド隊長は今まで良くしてもらった“優しい”アラギ元団長が”悪魔”に変わったようになったのを見て、今まで弟に掛けるような優しい言葉は実は偽物で、自分自身が組織の駒であるかのように思い始めたのが最初だったんだと思う」
「……ゼフォドラの部下、言うなればシャド隊長の同期を手にかけて、周りから人は居なくなった。そしてそこから彼は人を“信用”しなくなったんだと、俺は思う」
「シャド隊長が裏でなんて呼ばれてるか知ってるか?“処刑人”だの“無情者”だとか酷い言われようをされて恐怖されてるんだ」
シャドは無表情でそのゼフォドラの隙をつくように闇がまとう刀を横一文字に切り裂くような構えをする。
そしてその一刀をゼフォドラの胴部に目掛けて闇を放出する─────。
「……シャド隊長は二度とそんな事がないような組織にする為に、自分のように外道に堕ちるような者が生まれないような世界にする為に」
「自分が団長になる“野望”を持っている────」
ザインはそう言って体に青い焔をたぎらせ、戦い続けるシャドを見据え、シャドの指示を待つ───その時だった。
「……がッ!!」
大きな銃声と共にシャドは肩を撃ち抜かれ、その痛みから声が漏れ出す。
するとその銃声の方向をシャドが目視すると、建物が立ち並ぶ闇に政府連邦軍の“銀狼ロウガ”が部下を連れてこちらに銃口を向けているのだ。
「チッ……外しやがった……大物狩りはそんな上手くいかねぇかァ。ザコ共!ブチ抜け!!!」
突如現れた銀髪のオールバックの男“ロウガ”は一声すると数人の部下がこちらに向けてライフルの鉛玉を雨のように撃ち込む。
「……“盾”」
シャドはそれに即座に対応するように自身の闇を盾のように手に纏わせて肥大化させて鉛玉を防いだ。
しかし、その瞬間ゼフォドラの怒り狂う体当たりという一撃がシャドに向けて放たれる。
その攻撃に対応出来ず、自身の体が吹き飛ばされて背中から地面に突き落とされたシャド。
彼はその衝撃から悲痛な声を殺しながらゆっくりと立ち上がろうと奮起する。
「……やべぇなァ!あの一撃食らってまだ立てんのかよォ、殺し甲斐があるじゃねぇか───」
ロウガは不敵に笑いながら、部下に更に撃ち込ませようと合図を送ろうとする。
そしてその直後、ザインは体が動く。
「……手を出す……な……」
「…なっ」
シャドは痛みに耐えながらザインに向けて声を上げる。
ザインはその姿と声で足が止まる、とてつもない威圧感で凍り付いたザインとセナは動けなかったのだ。
「ぶははは!!!仲間を守らせるつもりかよォ、かっこいいねぇ。お前、やっぱり殺し甲斐あるわァ!!!」
ロウガは笑いながら手を振り上げ、部下に撃つ合図をかける。そしてその笑う顔は真顔へと変わる。
「……死ねよ」
部下の銃口とロウガの視線はシャドへと向けられ、銃弾が放たれる───。
「た、隊長!!」
「……く!遅いか!!」
ザインが擊ち出されて走り出すものの、あまりにタイミングが遅く、誰もが間に合わないと思ったその時だった。
「……なぁ」
ロウガの背後から謎の声が聞こえたのだ。
「……アンタ、うちの大将になにしとんねん───」
「なッ─────!!」
ロウガが後ろを向いた瞬間、シャド隊副隊長“キール”が目の前にいるのを視認した。だが、その間に何も銀狼はできないままキールに頭上へ銃弾を撃ち抜かれたのだ───。
その瞬間、その襲撃にロウガの部下は気づかずにシャドに大量の鉛玉を既にシャドに撃ち込んでいた。
だがキールはその銃撃に対して止める様子はなく、少し笑いながら声を漏らす。
「……とんでもない逸材やな、シンってのは」
銃撃の先にはシンが自身の体を持ってシャドを守っていた姿がキールに映っていた───。
シンの体は赤いオーラを纏っており、銃弾がシンに当たることなく地面に落ちていく。
「……き……さ……ま」
「俺はあんたと違って外道になりたくないんだよ。仲間を見捨てるなんて事は絶対にしない───」
その時、シャドはそのシンの後ろ姿がアラギやリアンのように猛々しく見えていた。