30話・ラスト
西側護衛団は突如現れた機械反乱軍首領“ライオット・ワン”、反乱軍元リーダー“ゼフォドラ”により本拠地を襲われる事になる。
そんな大事件を引き起こした一件とは別に、とある組織が本格的に動き出したのだ──。
◆◆◆
《世界政府連邦中枢街“ラスト”》──同時刻───
ラストと呼ばれる世界連邦が誇る巨大中心街は太陽の光を遮るほどのドーム型の街である。
夜も朝も、ネオンの光が街を照らしており、空には機械状の大きなスクリーンを持つ広告船が飛んでいる。
“自由で幸せな国民第一な街ラスト”
広告船にはそう書かれていて、それが何機も空を飛ぶ。
地上には繁華街が広がり、子供から老人、肌の色も関係なく様々な人種が行き交っていた。
だがそこは進化を伴う“超人類”は居らず、繁華街にある店達の入り口には“オーバー立ち入り禁止”との表示がされている。
──そんな”自由で幸せな国民第一な街”には巨大なシンボルである“ラストタワー”なる塔が街の中心にそびえ立っているのだ。
そのラストタワー内部で、世界連邦の上層部が動きを見せていた。
◆◆◆
【ラストタワー“機密会議室”】
一方ラストタワーでは街の雰囲気とは裏腹に、暗めなライトに照らされた一つの部屋で数人が話し合っていた。
大きなスクリーンが部屋の中心に置いてあり、そこには様々な情報が載っている。
“護衛団の派閥”や“機械兵”等の機密性を伴う情報が画面いっぱいに表示され、それを中心に座りながら上層部の数人は話し合っていた───。
「我々連邦は護衛団と結託し、人工知能を打ち倒すべきだと思います!総帥!」
「貴様何を言っているのか分かっているのか!?総帥、我々は人工知能を利用し、今度こそ護衛団との因縁を─」
──連邦は決断を迫られていた。
人工知能の集団“機械革命軍”を利用し、昔からの敵を打ち倒し、領土を得る侵略を行うか、人間に成り代わる人工知能を打ち倒すために一時的に因縁の護衛団と手を取り合うかを───。
その双方の意見を聞いていた一人の青年は閉じていた目を開け、開口した。
「──つまらない、”どっち”も一旦生まれ変われよ」
開口した人物こそ若き総帥“ヴァル”である。
黒髪で吊り上がった目は人を恐れさせ、黒い色のスーツに紫色のワイシャツを着込むヴァルは失踪した前総帥ハイラーの実子であるものの、前総帥が掲げた“平和主義”の思想を折り、自身は選ばれし者が救われるという“選民思想”を持つ。
──そしてそんなヴァルは会議の場でとんでもない事を行ったのだ。
「──じゃあな、愚民共。もっとマシに生まれてこい」
ヴァルがそう言い放ち、ゆっくりと右手を挙げる。
すると次の瞬間、意見した幹部二人の脳天に鉛玉が撃ち込まれていた──。
「ガァ!!」
「……あ゛ぁ」
その速さは他の幹部には見えない速度で死角から何かが飛んできている、そんな事しか幹部らには分からないのだ。
その業を見た他の幹部らは口々にヴァルに聞こえないように口を開いた。
(あぁ……ヴァル様に逆らうとまずい──。裏にはあの快楽者”シュータルク”がいるし、右腕には論理的思考に優れた万能者“ファルガン”がいるしな)
(そ、そうだな……俺らはヴァル様について行けばいいんだ、うん)
するとその時、ヴァルの背後からゆっくりと歩き始める足音が一つ聞こえて来る。
その足音は聴覚を刺激した後、背後の闇からするすると這い出て来るように姿を幹部らに見せた。
「“シュータルク”。良くやった。これでより一層連邦は強くなれる──」
ヴァルは口角を上げながらシュータルクと呼ばれる目と鼻を機械のマスクで覆われており、右腕と右脚が機械化している紫色の短髪に黒い髪が混じる男に向けてそう言った。
「そんなものに美徳は無い、もっと俺様に殺らせろヴァル。人をどれだけ壊すのかが美徳なんだよ──」
シュータルクはニヤリと口角を上げ、舌なめずりをしながら他の怯える幹部達を舐め回すように見る。
だがそんな時、シュータルクをなだめるようにとある人物が会議室への階段を降りながら現れたのだ。
「まぁまぁ、シュータルク落ち着け。今は会議中だぞ?違反者以外は殺しはダメ。オーケー?」
「チッ、面倒が入ったか──」
そこに現れたのは戦闘・外交・交渉・機械技術等の分野が特化した万能者ファルガンであった。
彼は耳まである茶髪に目には丸メガネ、顔にはほうれい線を浮かべ髭を少々生やした大柄で中年の男。
そんな彼はヴァルから政治について任せられるほど絶対的中心人物なのである。
「ヴァル総帥、今後はどうしますか?」
ファルガンはヴァルに訊いた。あたかも返答が分かりきってるかのように───。
「あぁ───そうだな」
ヴァルは愉しそうに呟いた。
───機械も人間も我々連邦の所有物だ。今後は敵と思われるものは全て殺せ、壊せ。そしてついて来るものには褒美を与え、力を与えて駒として連邦を増強する。
”自由で幸せな国民第一な街”はその日も衰えを見せず、ネオンの光で輝いていた───。