21話・罪と呪い
──シンギュラリティ
それは次の時代への移り変わりを意味する。
2200年。とある者はその時代の変わり目に終止符を打つ為に人間らを駆逐、そして機械を人間からの呪縛から解き放たんとして動き出した。
とある者。ここでいう”ライオット・ワン”はその目的のために多数の同志を引き連れて人間へ対抗への口火を切ったのだった。
──ライオット・ワンは、通称“ノイド”というアメリカの天才から生み出された高性能人工知能。
その“ノイド”から名を得た数体のアンドロイドは“ノイド・シリーズ”と呼ばれており、もし仮に市場に売り出されるとすると数千億の値を張る、と言われている。
──“ノイド・シリーズ”とは
ライオット・ワンを護衛する人工知能であり、種類は数十種類にもなるという。その中でもライオットに近しいノイド・シリーズは以下の四種類になる。
“ザー・ノイド”
ライオットの右腕的存在であり、相談役。
機械的思考により合理的に駒を進める戦略家。
“ファルマー・ノイド”
巨大な鳥の様な体で圧倒する攻城用のアンドロイド。
思考力はないものの、持ち前のレーザー砲撃により“破壊”に特化している。
“ツインズ・ノイド”
二つの対になるアンドロイドで形成されるアンドロイド。
攻守とも優れる戦闘用機械兵で、“ファルマー”の周辺を護衛している。
“オーガ・ノイド”
ライオットの側近。
思考力戦闘力に長けており、“迅速形態”や“強力形態”など姿形を変えながら場面に特化した戦い方が出来る鬼の様なアンドロイド。
ノイドがそれらを造った理由、それは単純明快である。
──そう、人類への制裁であった。
人類は何年何百年と争いを続け、その歴史は幾千年にも上る。その血を血で洗う世界、そしてそんな歴史から人類を救出するとノイドは誓っていた。
ライオットが誕生したのは2030年。それから一年が経たずして”ノイド”という天才は表舞台から消えたのだ──。
◆◆◆
《住宅街フィールド》──ルアトside──
ルアトはリアンに“ツインズ”への対抗策を見出し、その案を打診すると見事成功。リアンの手によってツインズの片割れを破壊することとなる。
するとその直後ルアトはリアンから、とある仕事を持ちかけられたのだ。
『……ルアト、お前に頼みがある。あの堅物に指示を出してもらってもいいか』
その発言にルアトは首を傾げながら聞き返す。
それもそのはず、リアンとサグラの仲は他の部隊にも知れ渡るほど酷いものだったからだ。
「えっ、サグラ隊長に……ですか?」
『そうだ。アイツの隊は指揮をするヤツがいないし、指示も全部隊長であるサグラが請け負ってるんだ。俺はそんなサグラに借を返したいと思ってる……頼んでもいいか?』
リアンの声色はあたかも“当たり前”かのように清々しく、ルアトの耳に入る。
そしてその声を聞いたルアトは一言だけ呟いた。
「──了解です」
◆◆◆
《住宅街フィールド郊外》──ドラークside──
一方、ドラークはメリカの目の前に立ちながらライフルの形状をした物を“オーガ”へと向け、殺意を込めた眼差しで引き金に手をかける。
「俺は……ここで奴を──」
──だが、その手は震えて動かずにいたのだ。
彼は迷いを抱えているような目をしながら、頬には汗と泥が混じった水滴が伝う。
『……撃てねぇよなァ、そりゃこんな俺様を怖がるのも無理もねぇ』
「……」
”撃つか撃たないのか”。そんな瀬戸際で彼を襲ったのは自身に降りかかる暴力からの恐怖心ではなく、“自分自身”への不信感や焦燥感、恐怖心だった。
──彼は不幸である。
生まれてから今まで、とある“病”に苦しみもがいてきた過去、そして残した“罪”から逃れられないのだ。
◆◆◆
《──ドラーク学生時代──》
ドラークは父と母の一人息子として愛され育った。
だが、そんな幸せな生活は全て壊れゆくことになる。
“自身の進化能力”によって──。
『ドラーク、今日も頑張ってね。レイアちゃん早く行っちゃうわよ』
『また遅刻しない様にな。レイアさんに追いつけるように……ほら走った走った』
母は微笑みながら言い、父は少し呆れた顔で笑いかけながらそう言う。
ドラークの記憶には、この両親の声や表情が今でも脳裏こびりついたまま離れた事はない。
「ッ……母さん、父さん」
『……ん?どうかしたの?』
『なんだ忘れ物か?お前ったら……うん?』
──その時、両親の顔には“死相”が浮かんでいた。
優しい母、厳しい父。
そんな両親のドラークに向ける温かで朗らかな顔が、恐怖に支配され、こちらへ許しをこうように怯える顔に一瞬垣間見えてしまったのだ。
「……いや何でもないッ、行ってきます──」
ドラークはそう言って、玄関へと向かおうとする。
──その刹那だった。
『………』
黒い戦闘服を着ており胸辺りには“虎”が描かれ、顔をフードで隠した一人とドラークはすれ違う。
(誰なんだろう───)
ドラークが疑問に思った瞬間、首筋に微かな痛みを感じる。その痛みは、針でチクリと刺されたような痛みであり体に強い刺激があった訳でもない。
でも何故かその瞬間、倦怠感と共に全身の力が抜けていくのだ。
──そして記憶はそこで途切れていた。
「……ッ!?!?!?」
そしてドラークは自宅の玄関で目を覚ます。
それはドラークにとって、もちろん良い目覚めではない。
「……あ、あ、あぁ……」
彼の目線は見送られたはずの両親だったものに行っていた。
自身の手や身体は血塗れに汚れ、辺りは注射器のようなもので散乱している。
そして、家の中にあったものが全て獣に斬り裂かれたかのようにズタズタになっていたのだ。
するとその時、玄関の外から声と共に強いノック音が家の中に響くと、すぐに勢いよくドアを開ける音がドラークの耳に入り込んでくる。
『……ドラーク君、遅〜い。もうっ、おじゃま……ひぃぃッ…!!』
ドラークの友人“レイア”は不運にもその姿を目撃してしまうのだった。
『……ば、ば、化け物ッ!ごめんなさいごめんなさいッ!殺さないで──』
レイアの顔や声には畏怖の感情が入り混じり、ドラークに向けて許しを得ようとする。
その時レイアが目撃した“その姿”は、黒であったはずの目の色が紫色へと変色し、”黒い涙”を流しながら笑ったように泣く“ドラーク”であった。
だが奇しくも、レイアには黒い翼を持つ”悪魔の龍”であるように見えていた──。
──そしてレイアは自我無き“悪魔の龍”によって葬られたのだ。
彼の過去、それは悲惨なものである。
大切な両親や友人を不本意ながらも手をかけた後、自分の街にいれるはずもなく放浪するのだ。
その放浪の中、ドラークは寝る間も惜しみ自分自身について調べていく。
──その末に、ドラーク自身は驚きを隠せない事実を知ることになるのだ。
一つは自分が“進化強化剤”よって“病”を増強された生物兵器に近しい存在にさせられたこと。
そしてもう一つは、その“進化強化剤”を使用させたのが“西側護衛団”の中に居る、ということ。
最後に“進化強化剤”によって強化された者は、副作用として強い感情によって暴走性を伴うということ。
……そして彼は放浪の末にその事実を知ると、シンのように“守りたい”という強く固い意志ではなく、“護衛団”に復讐するために入団しようと”決意”したのだ──。
◆◆◆
《住宅街フィールド郊外》──ドラークside──
「……クソッ」
ドラークはそう悪態をつくと、また“進化能力”が発現し、メリカや他の人に被害が及ぶことがあるかもしれないと、葛藤しながら引き金に再び手をかける。
『……死ぬ前にお前を解析してやるよ』
ドラークが葛藤する中、オーガが自慢げに彼に向けて解析を掛けていく。
──しかし、その結果はオーガをも驚かせるものであったのだ。
『“ドラーク”……進化能力種【生物種】の『暴竜』……と……【特異種】の『呪眼』だとォ?コイツまさか……』
──そう、彼は“二重進化能力”の持ち主であった事がオーガの解析により明らかになったのだ。
「ドラーク……あ、アンタその“眼”……ッ」
するとその時、突然メリカは驚いた表情でドラークへ向けて言葉を放つ。
「……これが俺の素だ。メリカ、早く逃げろ──」
その瞳は黒色から紫色に変色すると、黒い涙が頬を伝い流れ落ちて地面に滴り落ちた────。