19話・攻防
《住宅街フィールド》
「──かかってこい“機械共”」
リアンはそう言いながらタバコをふかし始める。
それと同時に、目にかかる前髪を左に流して鋭い眼光で大空に居るファルマー、ツインズらに睨みを効かせた。
“ビービービー”
その時、とある人物からリアンに対して通信が入る。
リアンはその通信がルアトからのものだと思い、呆れた声で言い放った。
「おいルアト、だから俺は───」
『──サグラだ。ちゃんと通信元を確認しろ』
「げっ、堅物のサグラかよ」
その人物の正体こそ、現部隊ランク一位“サグラ隊長”であった。
サグラはリアンとシャドと同期であり、その同期からは真面目な性格から堅物呼ばわりされている。
だが、そのひたむきな正義感と真っ直ぐな性格に惹かれている者も多く、市民からの評価も高い。
「お前が苦戦すると思ってな。なにせ衛兵型の機械兵一体に大苦戦したって話だが?」
サグラのその声はリアンの通信機を通してではなく、リアンの背後から聞こえてきた。
「うわ、もう来てるのかよ。俺のかっこいいシーンが台無しだぜ」
リアンは笑いながら、後ろから歩いて来るサグラに対して、敵の方向に目線を移したままそう答える。
するとリアンは突然、敵を殲滅させる“顔”に切り替えるとサグラへ喧嘩を売るように言葉を吐き出す。
「俺はお前の力無くとも、このクソ機械共をぶっ壊せる。あの時にやられたのは気の緩みだ。勘違いすんな堅物野郎」
「ふん、分かった。……じゃあさっさと終わらせるぞ」
サグラはリアンと同じ黒い戦闘服に裾や袖に黄色で装飾された物を着ていた。明るい赤色の髪に黒縁の眼鏡を掛け、右頬には大きな傷があるインテリのヤクザのような風貌。
背中にはマシンガンがぶら下がって威圧感さえ感じさせるオーラを放つ。そんな男であった。
そして赤髪のサグラはリアンの隣に横並びに立つと、リアンはサグラに対して嘲笑する。
「……まだ学生時代のあの傷残ってんのかよダセェな」
「お前が殴ったんだろうが」
リアンとサグラは昔からの犬猿の仲であった。
学生時代から二人は友人同士であり互いに嫌い合う存在。
リアンは昔からの不良気質で勉強が苦手な男で、対してサグラは優等生尚且つクラスの中心人物だった男。
しかし対になる二人はたった一つだけ“共通点”があった。
「……んなことより、俺の部下やられちまった。だから付き合ってもらうぞ」
「あぁ、それは“絶対に許せない”な。でも元よりそのつもりだった」
──そう、“仲間”に対する気持ちである。
その時、リアンはふかしていたタバコを右手で取りツインズに向けて鋭利な眼付きで睨みながら声を吐く。
「俺が部下のドレットを助けた時に力振り絞ってな、アイツこう言ってたんだ、“遠距離攻撃は無効にされて近距離に一気に詰めて来る”ってな。死にかけてるのにやべーよな」
「……つまり、俺があのツインテールで斧を持ったヤツを倒せば良いんだな」
サグラは指をツインズの片割れに向けて指を指すと、リアンが頷く。
「そうだ。お前の超火力、見せつけてみろ。多分奴らクソ驚くぞ?」
『敵性存在発見、解析中───』
するとその瞬間、大空を舞うツインズの片割れ、結晶を持つ女型が機械音を響かせながら解析をし始めたのだ。
それ同時にもう一つの両手斧を持つ女型が、リアンに向けて敵意を向けるように斧を思い切り回し殺意を露わにする。
『──リアン。別名“堅士”。進化能力は【異形種】の“硬質強化”。』
『──サグラ。別名“爆炎”。進化能力は【自然種】の“発火体質”』
『──了解。こちらは“堅士”を仕留める』
彼女らはそう言葉を繋げると、一瞬にして斧の女型がリアンに向けて距離を一気に詰めて来たのだ。
その姿を見たサグラは咄嗟に声に出すが、その時には刃がリアンの身体を傷付けんと暴れようとしていた──。
斧の女型は地面に降りるとリアンに向けて正面突破しようと突進し、斧を大きく振りかぶりながら素早く斬りつける。
一方のリアンはその素早い連撃を避けながら、様子を伺っていた。
『──“爆炎”標的。エネルギー弾、砲弾する』
そして結界を持つ片割れは“爆炎”、サグラに向けて両手を向けるとその手からエネルギー弾と称した黄緑色の光る弾が数個に分かれて打ち込まれていく──。
サグラはその攻撃にマシンガンで撃ち、弾がこちらにこないように避けながら、何かを考えている。
──その状況は、近距離が得意なリアンに対して長物の斧を持つ近距離最強である女型が挑み、マシンガンを持つ中距離遠距離が得意なサグラに対して遠距離攻撃を無効化する結界を持つ女型が挑むという、護衛団にとって非常に不利な状況である。
『……【アップグレード】を開始する。“阿修羅”』
その時、リアンに襲いかかってきた斧を持つ女型が呟くと、彼女の顔や身体に紫色が侵食していく。
それと同時に振り回す速さが加速し、リアンが攻撃を避けた後ろの建物達が半分に切り裂かれて崩落したのだ。
──だがそれは斧の女型だけではない、結界の女型も同じく隠し球を持っていた。
『……こちらも【アップグレード】開始。“阿修羅”』
結界の女型も同じく呟くと、彼女の顔身体と結界に紫色が侵食していき、結界が増大になっていく。
両手から放たれるエネルギー弾だけで無く、結界から直接紫色が混じった黄緑色の光る弾がさっきまでの速度とはまるで打って変わって速さを更に増していた。
◆◆◆
《上層部会議室》
その頃、上層部では団長補佐と副団長補佐が慌てた表情でその様子をロギ副団長と共に三人でモニター越しに見ていた。
「こ、これはまずいッ!リアン隊長ならともかく、サグラ隊長まで苦戦しているんじゃッ!副団長ッ、これは六傑を呼んでこの場を鎮火させるべきじゃッ」
大きく目を開き、声を荒げる白髭の団長補佐。
その声に呼応するかのようにポニーテールのメガネの副団長補佐が声を出す。
「……そ、そうです。団長補佐の言う通りですッ。このままでは本部までやられてしまいます。六傑に向かわせましょうッ──」
「……六傑は不在だ。今東側の復興支援中だ」
その声達に向けて、副団長であるロギが冷ややかな目で二人に向けて声を出す。
「……六傑はそう簡単に出せない。分かるだろ」
「しかしこれは非常事態じゃ!!現に我が本部の施設内で──」
団長補佐の怒号がロギに振りかかった瞬間、彼は無表情で言葉を使う。そう、軽視の意味を込めて。
「そんなに命が惜しいか、二人とも」
「……ッ」
「……ひっ、いいえ!」
ロギの言葉に対して二人は顔をしかめながら、返事をする。怯える表情とは違い、図星をつかれたような表情や声が二人の補佐からは感じられたロギはまた言葉を続ける。
「私達の立場はなんだ、私達の意義はなんだ」
「……」
彼ら二人はその場で黙り込むが、ロギはまたまた続けて声に出す。
「私達の居る意味は害から市民を“守り抜く”ことだ。その害はオーダーもレジスタンスも含まれるからな、それを忘れるな」
「……あと、あの新型はリアンとサグラで十分だ。なにせ”最強の防”と”最強の攻”を持つあの二人だ。きっとやってくれるはずだ」
ロギがそう言うと、二人は頭を下げて“分かりました”と発し、モニターに向けて目線を向け始めたのだった。
◆◆◆
《住宅街フィールド》
リアンは戦う内に、サグラと距離が離れてしまい連携が取れなくなっていた。
「……イライラしてきたぜ。一切攻撃する隙がねぇ」
するとリアンは怒りに任せてポツリと呟く。
その声が通信機を通じて聞こえていたのか、“誰か”がリアンに対して提案したのだった。
『……リ…隊……長』
リアンは斧の攻撃を必死に避けながらその声に少し怒りを交えながら答えたのだ。
「……あ?だれだ?」
声は途切れていたが、かろうじて聞こえてはいる。
……だがその声にリアンは違和感を覚えたのだ。
『……よし直ったッ……隊長。俺です、ルアトです。今から策を講じますので攻撃を避けながら聞いてください』
「……お前ッ」
その声は副隊長であるルアトだった。
ルアトは驚くリアンを尻目に、淡々と指示を伝える。
『アイツの攻撃をそのまま身体で受けてください──』
「いや、それじゃ俺の身体は真っ二つに──」
ルアトが出した指示はあまりにも突発的に考えたような物にリアンは思え、反論をしようとする。
しかし、その反論を見透かしたようにルアトは言葉に重ねて自慢げに答えた。
『……ヤツの攻撃力を分析して分かりやすく数値化したら、“150”と言う数値が打ち出されました。これは凶暴化したクマの三倍の威力になります』
「……マジかよッ」
『……そして同時にリアン隊長の攻撃力を調べたところ、“100”という数値が表示されたんですが──』
──ルアトはそう言い、更に続けた。
『ついでに隊長の防御力も分かりやすく数値化したらですね、なんと“1500”と言うとんでもない数値が打ち出され、しかも成長性も伴うことが分かりました──』
ルアトは部屋でコンピュータをいじりながらリアンに向けて指示を出すと、ニヤリと笑い言うのだった。
『指示は簡単です。暴れて下さい。得意分野ですよね?』
「……ルアト、助かった───」
リアンは闘争心が昂ったのか歯を見せて笑うと、声を荒げて自身を鼓舞するように声を発する。
「──こっからは俺の番だッ!!」
『隙発見、追撃する──』
昂るリアンの隙を見て、彼の肩に目掛けて斧を大きく思い切り振るうツインズの片割れ。
『排除する───』
───しかし、刃はまるでダイヤモンドに当たったかのような感触だった。
そして斧はその硬さに耐えられずに折れて地面に落ちると同時に斧の持ち主は、想定外の事実に驚いたのか警告音のような音を発する。
『……何故。不明。分析───』
だが、そんな暇すら与えないようにリアンはすぐに懐に潜り込み、拳に力を込めて言葉と共に拳を放つ。
その声には、やられたドレットに対して守りきれなかった後悔の気持ちやレジスタンスに対する許せない気持ちがハッキリと乗っていた。
「そんな時間があったらよかったなぁッ!!“最大出力”ッ!!」
その一撃は斧のツインズの腹を貫くと、爆発したような音が鳴り響き、リアンと彼女がいた地面がクレートが出来るほどに割れていたのだ。
『……不……明。再起……不……能』
斧のツインズからは目から発せられた赤い光が消えて、後ろへ倒れていく。
「……ルアト、助かった。改めて俺はお前がいないとダメなんだなって思ったぜ、ありがとう」
『……まぁ、そうですね。隊長達は脳筋ですから』
「そうかもなッ」
リアンはルアトと通信を交わすと、とある仕事をしてほしいと、リアンは言い放つ。
ルアトはその言葉に対して“了解”と快諾し、その仕事へと颯爽と動き出したのだった──。