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シンギュラリティ  作者: ラーメン
入団式編
18/42

18話・正直者の罪


 《住宅地フィールド郊外》


 『“オーガ・ノイド”爆進する──』

 

 今まで出現した人型アンドロイドとはかけ離れた異彩を放つ赤色のボディに鬼の様な頭角を持つ“オーガ”と自ら称したアンドロイドが両手で槍を構えながらメリカ、ドラークの目の前に立ちはだかる。

 

 そしてその背後には敵意に満ち溢れた衛兵型のアンドロイド“G500型”の二体が目を赤く光らせ、オーガに付き従うように彼らを睨みつけた。


 「やっと、ですわ──」


 その三体を目にしたメリカはニヤリと笑うと両方の掌を合わせる。その両手が合わせた隙間からは紫色の光がうっすらと見える──。


 「昼寝したいのに……」


 一方、ドラークはその三体を目の前にして呆れるように失笑し、ポケットに左手を突っ込みながら右手でボサボサに乱れたの自分の髪をポリポリと掻いてそう言った。


 するとその時、赤い鬼の様なアンドロイド“オーガ”が機械音が入り混じる声を上げる──。


 『ガガガ──武人と手を合わせるのは久々である。“あの御方”に直接感謝申し上げたい──』

 「……は?」


 その時ドラークは思わずはっとして頭を掻くのをやめる。

 ドラークはその機械が発した言葉に疑問が生じたのだ。

 彼はその疑問を確かめるためメリカの方を見て、その疑問を投げかける。


 「……メリカ、そう言えばなんでここに機械兵がいるんだ?今回襲来したのは昔反乱したリーダー格だったよな」

 「確かにそうですわね。なんでこんなところに──」


 ドラークとメリカが疑問を持つ理由。

 その理由は至ってシンプルであった。


 二人を含む新人団員百名は副団長から『ゼフォドラ』という反乱因子が発生した為、撤退命令を出しただけ。

 しかし何故か機械兵がそれと同時で突如各地に発生し、自分ら護衛団に攻撃をしようとしている。


 「もしかして、最近機械自体古くなってきてるのかもしれないですわね。老朽化で、とか──」

 「いや、明らかに違うだろ。俺は少なくともコイツみたいないかにもヤバいの見た事ないからな。俺はもっと違う、何かが関係してる気がするんだ。……んでこういう俺の悪い勘は大体合ってる」


 ドラークだけは“何か”が後ろで動かしているかのように見えて仕方ないのだ。

 何かが糸を引いて自分達を人形を踊らせている人形劇かのように──。


 『──(いくさ)で敵から目を逸らすとはなんとも傲慢、己の力を見誤ったようだな。ここで“死”を感じろ』


 その瞬間、話をしていたメリカの顔に“死相”が浮かび上がったのをドラークは感じ取ってしまったのだ。

 “死相”とは死に近づいた時の相。顔つきのことである。


 「ドラークさんッ……逃げ──」


 そういうものを昔から数多く見てきたドラークにとって、その彼女の顔が胸が締め付けられるほどに焦燥と不安が押し上げさせる。


 「……ッ。嘘だ…ろッ?」


 そしてドラークは目線を機械兵らに移そうとするが、もう既に“オーガ”の姿は元いた場所には居なかったのだ。それもそのはず、メリカに向けて槍先を向けて今まさに猛突進を始めている。


 『メリカ殿、御命頂く。我が一閃受けてみよ』

 『”迅速形態じんそくけいたい”へ移行する』


 オーガはそう言うと、槍の鋭利な部分が三つに枝分かれする様に変形し、オーガ自身の足も細くなり小型のジェットが脚から現れる。


そしてその槍先を思い切りメリカの喉元に向けて突き刺すように爆進し、オーガは武士(もののふ)のように(たけ)り、吠える。


 『鬼神一閃きしんいっせん”ッ──』


 ──光が通り過ぎたような異常な疾さであった。

 その疾さはあの雷神レイゲンを遥かに超えている。

 だが、槍先はメリカの喉元には届くことはなかったのだ。


 『……喉元に攻撃をするのが読まれていたか。貴殿の“進化能力(エボル)”で槍を止めたか。なるほど……』

 

 オーガは槍の攻撃が当たらない事を悟ると、槍を持ったまま後ろに下がりながら様子を見始めた。


 『……超念力、か。厄介だ。では──』


 メリカの進化能力は『超念力』という、物質自体に変化を与えたり物質の動きにも変化を与えたりできるものである。

 そして今、オーガが突き刺すために槍へ推進力を与えたがメリカの超念力により停止させることに成功したのだ。

 更に、超念力には物質に与える力だけでなく相手の行動や思考を限度はあるものの、操る事ができるという強力なものでもある。そのためオーガの攻撃パターンを喉元という場所にあえて行動を制限させて守るという動きがメリカにはこの一瞬の間で出来ていた。


 「……メリカ、お前やべーな」

 「当たり前ですわ、私は───」


 ドラークはメリカに見えていた死相が見えなくなっているのを確認するとゆっくりと胸を撫で下ろす。

 ──しかし安心は束の間だった。


 『──女子(おなご)に守られる男程、無様なものはないぞ』


 オーガはドラークの背後まで急接近し、槍で薙ぎ払う攻撃を彼に向けて行う。

 

 「今の時代、その発言まずいんじゃないッ──」


 ドラークはそう言って殺気に気付き、その場でしゃがみ込んで薙ぎ払いを回避し、次の攻撃に備えて距離を取る。

 だが、その行動にオーガは何かに気づいたのか攻撃をせずにドラークに声を掛けた。


 『貴殿は何故私と“本気”で手合わせをしないのだ、何か理由があるとでもいうのか。メリカ殿のように“進化能力”を駆使し、私を破壊してみよ』

 「……俺は力を出さない」

 「ドラークさん!?反撃をしなきゃ貴方が死んでしまいますわッ!?貴方が力を出すことでみんなが救われる事があるかも──」


 ドラークには自分の力を出せない理由があった。

 人に言えない、内に秘めたものが──。

 

 (俺の進化能力(エボル)なんて救うだとか大層なものじゃねぇよ、もう()()()()は勘弁だ──俺はもう自分の力で誰かを失いたくない、強さなんて要らない──)


 「……俺の最強の“進化能力(エボル)”を出すまでもねぇよ、しかもお前みたいなキモいオニになんてよ」

 

 正直者の彼は今日、誰かの為に初めて“嘘”を付いた。

 ──とある過去の罪から逃れる為に。

 

 『ギガガ……承知した。では私から行くぞ。“強力形態(きょうりょくけいたい)”へ移行する』


 オーガの体はまさに名の通り、細々とした身体から鬼のような強靭な体へと変形していき、持っていた槍も大きな棍棒のような型へと姿を変える。

 そして頭角は更に大きく、おとぎ話に出てくるような鬼の象徴ともとれる姿へ変容したのだった──。


 

 


 








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