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シンギュラリティ  作者: ラーメン
入団式編
17/42

17話・期待


 《住宅街フィールド──ドレットside──》

 

 『“ファルマー・ノイド”推進』


 ドレットが空を見上げた時、大きな鳥の形をした目が赤く光るアンドロイド“ファルマー”はレーザーのような光線を長いクチバシに溜め、ドレットに向けて今にも撃とうとしていた。

 

 (“ファルマー・ノイド”か。以前シンから聞いていた“ザー”という存在と似ている)


 ドレットはそう思考ながら自身の武器である長刀を鞘から取り出し刀を前方へ構えると、まずは攻撃をしてから相手の様子を伺うことにした。


 「……まずは一撃ッ」


 彼がそう言うと、長刀の刃先から手元まで青白く綺麗な光が立ち込める。その現象と同時に旋風(つむじかぜ)が巻き上がって刀全体を包み込む。


 そして巻き上がりきった旋風をファルマーの体へ撃ち込むかのように、ドレットはファルマーへ向けて声を上げながらその長い刀で空気を切り裂いた────。


 「鎌鼬(かまいたち)ッ───」


 空気を切り裂く青光る斬撃が空を舞い、ファルマーに向けて飛び上がる。

 斬撃はそのまま敵へ直進し撃墜する、かと思われた矢先、

予想だにしない事がドレットに待ち受けていた。


 「がはッ──!」


 なんとファルマーに放ったはずの斬撃が自身に直撃し、自身の体を斬撃が必要以上に痛めつけたのだ。

 その衝撃により身体を住宅が密集する場所へと吹き飛ばされ、身体中が血だらけとなるドレット。


 (……まさか反射された!?)


 ドレットはファルマーに反射されたかと思い、ファルマーに目線を上げる───。

 だがそこにはファルマーだけでなく、二体の女型のアンドロイドがドレットを見下ろし、同時に声を上げたのだ。


 『『“ツインズ・ノイド”進撃いたします』』


 二体の女型のアンドロイドは大翼を持ち、一体は髪が長く目を赤く光らせ、手元には結界のような物を持つ。もう一体は同じく目を赤く光らせながら、ツインテールに両手斧を掲げていた。


 (コイツらを逃しちゃいけない、ここが正念場だ。奮い立たせろ僕───)


 「……暴風刃(ぼうふうじん)ッ!!」


 その姿を見たドレットは焦ったかのように、長い刀を地面に突き刺し、身体中に“暴風”をまとわせる。

 そしてその時、ルアトからの通信がドレット宛へと届く。


 『…ド……ドレ……ドレッ……』


 だが電波が弱いのか、ドレットにはその声は届く事はなく、ドレットがまとわせた暴風がツインズを襲い始める。

   

 そして彼は刀を上段の構えを保ちながら、更に風の力を刀へ注ぎ、身動きが取れないと考えられるツインズに向けて“鎌鼬(かまいたち)”をもう一撃お見舞いしてやろうと必死に奮起する。


 「……ッ。父上、母上。そして兄、僕はあなた達に今ここで見返して見せるッ───」


 ドレットはそう言って身内への怒り、それに類似する感情をぶつけたのだった───。


◆◆◆


 《──ドレット青年期──》


 「ドレット様、御父上様がお呼びです──」

 「わかった──」


 ドレットは名門出身の剣士として育てられた。

 父は護衛団指揮官級“右臣”。

 母は護衛団“監査委員長”。

 長兄は護衛団皇兵士級“六傑”。

 次男は護衛団シャド隊“伍長”。


 そんな彼は小さな頃から“強さ”を両親や兄弟に期待されていた。

 そう、逆に言えば期待されたのは“強さ”や“実績”。それ以外は何も期待などされなかった。


 ドレットは期待されたかった。

 父や母に見て欲しかった。

 でも現実は全く異なっていた。


 『お前は兵士を諦めろ───』

 「お父……さ……ん」


 ドレットが遺伝したのは“父”の戦闘として優れた“進化能力”ではなくて、母の“進化能力”であったのだ。


 二人の兄は父の“進化能力”が見事遺伝。

 ドレットは失敗作品のような自分が嫌いだった。


 だから自分を好きになれるように。

 家族に自分を愛してもらいたいから。 


 「お父さん、お母さん。僕も護衛団に入って──」

 『ふん、勝手にしろ。お前にはなから期待などしとらん』

 『……貴方には向いてないわよ』


 ドレットは焦るのだ────。

 自分は存在価値の無いモノに成り下がりたくないから。


 だがそんな時、とある人達に会ったのだ。


 “ドレット、俺の隊で頑張ってみないか?”

 初めて自分に居場所を与えてくれた人。


 “お前すごいな、凄く努力したんだな”

 初めて自分を認めてくれた人。


 “適当でいいんだよ〜?”

 初めて自分を見つめ直すきっかけになった人。


 そんな人達に───。


◆◆◆


 《住宅街フィールド》


 ドレットは身内を見返す為、恩を返す為に護衛団に入ったのだ。

 

 「……」


 だが、そんな感情で強くなれるなど現実は甘く無い。

 辛い事実がドレットを突如突き刺し、足元をぐらつかせてくる。

 

 「……当た……」


 放った斬撃はツインズとファルマーに向けて全部で三十三発であり、ドレットに出せるだけの力を込めて全力で撃ち込んだ。


 「らない、か───」


 斬撃は全てツインズの片割れである結界を持つ女型に吸収されていた。

 それだけでなく、もう一体のツインズが急激に距離を詰めてきており、両手斧の柄の部分で腹部を殴打されてしまう。


 「……ッ」


 そして、ドレットが痛みに耐えきれず腹部を抑えた瞬間、

両手斧のまたもや柄の部分で頭部を強撃される──。

 その力はとてつもないものであり、その強撃を受けたその衝撃でドレット自身が二メートルほど吹き飛ばされ、身体中をまとっていた“暴風”はいつのまにか消え去っていた。


 「……隊……長……」


 ドレットは血だらけで地面に這いつくばりながらそう言った。どうやら彼には目の前に誰かいるように見えてるようだ。


 「……隊長……な……なに……をやっ……てェ……」

 「はぁ……お前は本当にレイゲンと同じくらいバカだな」

 「隊……長」


 そう、目の前にいた人物こそ、黒い戦闘服に裾や袖に黄色で色付けられたものを羽織っていた“リアン隊長”であった。


 その背中には虎が猛る模様が模られており、ドレットの心に安堵の炎を灯させたのだ。


 ───そうしてドレットは安心したかのような顔をして、ゆっくり目を閉じた。


◆◆◆


 《住宅街フィールド──リアンside──》


 リアンは二体のアンドロイド“ツインズ”と大きな鳥のアンドロイド“ファルマー”にタバコを口に咥えて対峙していた。


 『……あ、やっと通信障害終わった。ドレットッ!?大丈夫か!?』

 

 辺りに響き渡るドレットの通信機をリアンは拾い上げ、相手であるルアトに向けて声を発する。


 「……リアンだ。ドレットは大丈夫だ。なんせ俺がここに居るからな」

 『……良かったァ』


 ルアトは心底安堵したように声を漏らす。

 その姿を見てリアンは笑いかけて話を始める。


 「ルアト、これ奢りな?」

 『レイゲンみたいなこと言わないでくださいよ』

 「あぁ、すまんすまん」

 『隊長、はっきり言ってかなりまずい状況です、隊長のサポートは任せ──』

 「大丈夫だ、シンを見てやれ」


 リアンはハッキリそう即答した。

 だがルアトはバツが悪そうに返答する。


 『でも俺は指揮を執る立場として──』

 「なんでお前は、」

 「無理をしようとするんだ?……もっと頼れ。ルアト」

 『……頼りしてます。隊長。護衛団に栄光あれ──』


 ルアトからの通信が切れると、リアンはタバコに火をつけて、迫り来る“ファルマー”と“ツインズ”に向けて、睨みを効かせて声を張り上げる。


 「──かかってこい“機械共(レジスタンス)”」


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