14話・偽善の正義
《住宅街フィールド》
「……ゼフォドラッ…!?」
シンはその時頓挫した。
目の前にいるのはそう、亡き父の友ゼフォドラである。
そして今まさに自分自身を見つけ出し、殺意に溢れている眼差しでこちらを睨んでいる彼はニヤリとしたまま声を発する。
「お前の正義とやらは醜い──」
ゼフォドラは自身の強靭な爪を地面に這わせ、ギリギリと音を立てながらシンに向けて歩みを進める。
「本当は“誰かを守りたい”じゃねぇだろ?“自分が傷つきたくない”だろ。分かってるんだよ俺はァ」
「アラギもそうだった。“誰かを守る為に”っていう偽善を表に掲げて、自分も前線に出ながらも市民や兵士を鼓舞していった。でも実際は違う」
ゼフォドラはその爪をシンに向け、また声を発する。
──その彼の眼はポッカリと穴が空いた様な、空虚の目をしていた。
「誰かのために動く事が自分が咎められない唯一の手段なんだ。自分が動けば市民は咎めるなんて事出来ないしな」
「───でもッ。親父は俺に」
「“自分が思う正しい正義”を教わった、ってとこか?はッ!下らねェ御託並べて自分が選んだ道を“正義”と言いながら、自分の行動を正当化しようとしてるだけじゃねぇか、バカバカしいッ───!」
ゼフォドラは自身の爪を荒々しくこちらに突き立て、全速力で突っ切って来る。
「ッ…!?」
(なんだよこの速さッ!?)
まるで獲物を捉えた獣そのものだった。
その突進に辛うじてシンは息を切らしながらも避けていく。
「……避け切れてねぇぞォ!?オラァ!」
「は……?」
しかし、避けていたと思っていたのはシンただ一人であったのだ。
するとシンが気づいた頃には背中に黒い斬撃のようなものが追ってきている───。
(……斬撃ッ!?まずい……ッ!?)
“お前の父がアラギ団長だと?あり得ないだろ”
(こんな時に…ッ!なんなんだよこの声ッ!!)
その斬撃が背中を突き破ろうとしたその時、酷い頭痛を催し、吐き気を伴う。
だが斬撃が当たる刹那、シンの脚力が常人を超えた様な気がした。そう、その斬撃はシンの背中を擦ることもなく、困難を脱したのだ。
「……アラギ……テメェが守ってるとでも言うのかよ」
ゼフォドラはそう言って睨むのやめ、自身の爪を自分の意思で引っ込め、腰に付いている刃先がギザギザと不揃いになっている片手剣を鞘から抜き始める。
「シン、テメェが思う“正義”は守ることって言ったな」
「……あぁ」
「生憎俺の“正義”は仇討ちだ。お前ら護衛団に殺された俺らの仲間……。奴らを弔ってやるために───」
そしてゼフォドラは一言呟いた。
“───死んでくれ。”
(雰囲気が変わった……ッ!?)
シンが見た光景は先ほどとは異なっていたのだ。
猛獣の様な猛りを見せた男はそこにはおらず、仲間のために戦う戦士がそこにいた。
◆◆◆
一方、シン以外の者らも同じく苦戦を強いられていた──。
《住宅街フィールド──レイゲンside──》
レイゲンは数十体のG500型のアンドロイドに取り囲まれ、戦闘を始める直前までいっていた。
「……っと、なんでこんなにアンドロイドがいるの!?」
「ギギギ……」
「ガガガガガ排除ガガガガガ」
レイゲンは驚いた表情でルアトに通信をかけ始める。
「副隊長ッ〜?聞いてた話と違うんですが〜?」
『やっぱりそうか、レジスタンスが関わってるっぽい』
「“やっぱり”ってなんすか!?ちなみに何体いるんですか?」
『……ん?二十七体だね』
レイゲンはその言葉に硬直していた。
「え、嘘ですよね」
『本当だよ、正確にはG500型が二十体で他の七体は未確認機種だから分からないけど上位個体なのは確かだね』
「マジか〜、多分めちゃくちゃ時間かかるじゃないすか。仕事さっさと終わらせて業務時間内に遊び倒したかったのにな〜」
『……仕事中に遊ぶな』
◆◆◆
《住宅街フィールド──ドレットside──》
ドレットはルアトとレイゲンが通信をしている間、シンの場所に向けて走っていた。
「……ッ。伍長は何をしてるんだ。……こちらドレット、副隊長。緊急事態なので出撃します──」
『……え、ドレット?出撃もなにも、もうお前既に出ちゃってるだろッ!?な、何やってんの!?今日“強制監査”なの分かってる!?え、真面目に言ってる!?』
ルアトは驚いた口調でそう言うとドレットは反論する。
「はい、ですが副隊長。副隊長がいつも仰っている“臨機応変”に行動しろという言葉を胸に刻んでいますので出撃させていただきます──」
『ちょっ、俺が副団長に怒られ──』
「副団長には報告済みです。ちなみに副団長からは“リアン隊長、ルアト副隊長には部下の教育に励め”とのことです」
『……あ〜、頭おかしくなってきた。とりあえず了解』
ドレットはその後、通信を切る。
だが、その瞬間目の前の一帯が大きな影で暗くなる。
「…ッ!?なんだ…ッ!?上空かッ!?」
ドレットは上空を見上げると、そこには巨大な鳥の様な目の赤いアンドロイドがこちらに向けてレーザーを撃たんとしていた。
『“ファルマー・ノイド”推進』
“ファルマー”という機体はそう音を発して威圧しているようにドレットは思えたのだった。