13話・自分が思う正しい正義
《住宅街フィールド》
爆破音や建物が焼ける音が聞こえてくる。
そしてその建材が焼ける音が鼻を強く刺激した。
“逃げろッ”
“何だよアイツ!?”
それと同時に人々の悲鳴や怒号が飛び交う。
──あの時の東街の惨劇のように。
「……んッ、ここは?」
シンは目を覚ますと、そこは先程バーリアと戦っていた場所ではなく、フィールド内に建つ建物の中で一番高い家の裏影に横たわっていた。
「あれ……HPゲージが……つかッ痛ててェ」
シンは頭上にあったはずのゲージを確認した。だがしかしそこには何も無く、ただただバーリアから受けた胸の傷が痛むだけだった。
“ビービービービー“
するとその時、ドレットから預かった小型通信機が鳴り響く。
『──ルアトだよ、聞こえる?』
その通信機からはルアト副隊長の声が響いている。
「……一体何があったんですか?急に連絡なんて」
『実は副団長から通達があってさ、収容されてた反乱解放軍の元リーダーが逃げ出してそっちに向かってるみたい』
“反乱解放軍”とは───。
西暦2185年、ゼフォドラが率いる反乱解放軍は元護衛団員が結成した少数精鋭の集団である。活動理念は政府連邦の崩壊を目指す、というもの。現在反乱解放軍自体は解体されているが、その内の数人がまだ生存しており組織の再建が進められているという。
「……え?こっちにですか!?」
『うん、それはそうなんだけど狙いが────』
ルアトの声は震えていた。
『シン、キミだ』
「……俺……?」
シンは困惑し、思わず聞き返す。
『そうだ、今そっちにレイゲンが向かってる。何分掛かるか分かんないけど、絶対にソイツの相手をするなよ』
(俺を狙ってる反乱軍の元リーダー……?なんでおれなんて狙って────)
するとシンは反乱軍という言葉にハッと声を漏らす。
「……すみません」
『ん?』
「その約束は守れません、彼は俺がどうにかします。俺がどうにかしないと親父に怒られますから」
シンは急に使命感に駆られるようにそう言って、傷ついた胸を手で押さえながらゆっくりと歩き出す。
そしてルアトは疑問をシンへ投げかけてくる。
『……アラギ団長のことか?』
「はい。元はと言えば俺の親父が狂わせた人間です。息子である俺がどうにかしなきゃいけません」
『……お前の親父さんの話はリアン隊長からよく聞いてる。聞いた上でシンには言っておきたかった』
ルアトは一息ついてから、シンに言った。
『親父さんは優秀な人だったんだ。でもとある違反を行ってこの国を変えようとした』
シンはその言葉に眉間にシワを寄せる。
『アラギ団長は、シンみたいな真っ直ぐだった。でも彼は以前の戦友でもあり親友だったゼフォドラ率いる反乱軍に情が移って創設メンバーになった。でもさ、アラギ団長は護衛団の幹部にその事がバレて、後にゼフォドラを告発したんだ。“反乱因子”として───』
「……」
『要するに君の親父は────』
「双方の裏切り者だったんですよね」
『……そう。リアン隊長曰く、アラギ団長はそれから”悪魔の団長”と恐れられる程堕ちていったみたい。それ以降は裏切り者や敵を一切許さず、軍の強化を進めたんだけど、それと同時に退団する人が増加したらしい。ロギ副団長はその影響を受けてその方針を少し緩和して指揮を執ってるんだってさ』
『そして、ゼフォドラは自身を裏切った“悪魔の団長”に復讐する為に動いた───』
“シン、俺は悪魔に見えるか?”
シンは歩き出した足を止め、瞼を閉じる。
瞼の裏には哀しそうな顔をした父親が涙を流してそう言っていた。
「分かってます。でも、親父はよく言ってました。“自分が正しいと思う正義を選択をしろ”って」
『正しい正義……』
「はい、でも親父は“どちらでもない選択”をしてしまったって。親友を想う為に反乱解放軍を一緒に創設したのに、結果的には組織のトップとして親友を見殺しにしたって苦悶の日々を俺は小さな頃聞いてました」
そのシンの話を聞いたルアトは悲しげな声で話を入れて来る。
『──けどな、俺はシンにはそうはなって欲しくないんだ。実はリアン隊長はアラギ団長がずっと憎かったらしいんだ。先に行こうとする兄に焦る気持ちと、兄が晩年に見せた今までとの変わり様がみてられない程哀れで情けないって──』
シンは唇を軽く噛み、言葉を突き返す。
「──俺はッ。そんな親父が憧れだったんです。叔父さんがどう思おうが、ルアト副隊長がどう考えようが関係ありません。今こうやって話してる間に誰かが殺されてるかもしれない」
「“俺が思う正しい正義”は皆の命を守る事です。どんな理由があろうと仲間や家族を守りたいんです」
『……バーリアみたいな嫌なやつでも?』
「はい、守ります。俺は───」
シンは目を開けて、前を向いた。
目の前には崩れゆく建物があったが、そこには太陽の一筋の光が差し込まれている。
「───護衛団です」
『ったく分かった。許可するよ。護衛団に栄光あれ』
「ありがとう……ございます」
シンはそう呟いて、ルアトの通信を切った。
だがその時だった────。
何か黒い禍々しいオーラを纏った者が、こちらに向けて歩いて来る。
そしてその者はこちらを見るなり、八重歯をちらつかせてニヤリと笑いながら言う。
「やっと見つけたァ……!?ライオットの言う通りお前は変わってるなぁ…ァ!!!アイツそっくりで正義感振りかざしてきやがるッッ!クソがッ!!」
───ゼフォドラが太陽の光に照らされ、睨んでいた。