11話・雷神の実力
───“越破“。
それは“進化能力種“【特異種】の内の一つである。
最初に発現したのがシンの父であり、西側護衛団の前団長の“アラギ“であった。
前例であるアラギが発現した進化“越破“には他の“進化能力“とは全くと言っていいほど、性質が異なるという。
そしてその異なる点は大きく二点挙げられる。
まず一つ目は発現時期の遅さ、である。
一般的な進化能力では生まれてから三年以内には発現するものであると考えられてきたが、アラギの発現した『越破』は生まれてから二十年後、つまり二十歳になって発現している。
そして二つ目の異なる点は段階制を持つことで強力な能力を手に入れることができる点である。
生物としての進化とは違うが、カエルと同じように考えても良い。
カエルは成長によって“オタマジャクシ“から“カエル“へと段階を踏みながら姿や性質を変えていく。
それと同様に『越破』は三つの段階を踏みながら、
段々と変化し進化していく。
そして『越破』の能力の内容は少し複雑だが、
“常に過去の自身を越え、限界を破壊する力“を自分が危機を感じた時に自身を強化する、というものである。
ただ、『越破』が発動した瞬間は一定時間強化されるものの、デメリットとして自身へ精神的苦痛や疲労感がその“一瞬“の間に降り注いでしまう。
また、段階を踏むことでメリットの点もデメリットの点も増える、という前例のない“進化能力“である。
最終段階まで行ったシンの父“アラギ“はその精神的苦痛に悩まされ、理性を保てなくなり暴走性を増した、とされる。
それから先は───語らずもがな分かるであろうが、アラギは死亡が確認された。
───そして、シンは父と同じソレを発現したのである。
◆◆◆
《大講堂室 住宅街フィールド》
バーリアは驚き、焦っていた。
“雷神“レイゲンの登場によって────。
「めっちゃ楽しそうな事、してたよね」
「俺も混ぜてよ。バーリア君」
バーリアはその言葉に顔を歪ませる。
彼の頬には冷たい汗が伝い、ありえないと小声で連呼して足がガタガタと震えている。
「……は?なんだコイツ。あんた新人じゃないっしょ。まぁいいや…バーリアさん!コイツは俺に任せてください。俺の自慢の“進化能力“で十分すよ」
バーリアの下っ端はそう言って、自身のモデルガンをレイゲンに向けてニヤけ始める。
その下っ端の手にはピリピリと電気が流れており、その電力によって射速度を高める算段のようだった。
「確かにアイツの言う通りですよバーリアさん。こっちは三人ですし、俺らが負けるはずないですって」
「……馬鹿野郎ッ!今戦おうとしてるのはッ」
しかし、バーリアは下っ端の発言を褒めるという訳もなく怒鳴り付ける。
「部隊ランク七位『リアン隊』の主力戦力……“雷神“レイゲンさんだぞッ……!」
だが、下っ端は言うことは聞かずに手に力を入れ始める。
「ンな事ォ知りませんよッ!!オラァ!!“迅雷“ショットォ!!」
下っ端の放ったゴム弾は微かに電力を交えながら、レイゲンに向かって高速で向かっていく。
しかしそんなもの、レイゲンには見透かされていたのだ。
「おぉ!!名前は立派だな〜!」
───彼は人差し指と親指で“それ“を捉えていた。
「でもさ、同じ雷属性の“進化能力“同士でもこんなに差があるとは思わなかったなぁ」
「……なッ!?クソがッ!クソがッ!」
下っ端は、焦ったように電力を交えたゴム弾を数発打ち込むものの、レイゲンには全く当たらない。
むしろ、レイゲンはまるで避けるだけの単純作業をしているかのようだった。
「……ん?煙?」
するとその瞬間、レイゲンの目の前が煙幕が蔓延していく。
「それってズルなんじゃないの?キミ」
一方レイゲンはそれに動じずに突然、煙幕の間に目線を映して一方的に何かに向けて話しかける。
──その目線の先にはなんと木刀を持って打撃を加えようとしていたもう一人の下っ端がそこにいた。
「……ッ!?」
(嘘だろ…ッ!?俺ちゃんと煙幕焚いたよな?なんでコイツ俺を見破っ────)
下っ端がそう考える隙もなく、体全体が痺れたかのように痛みが襲い、住宅の屋根まで体が吹き飛んでいく。
「……でやがった。雷神の得意技の“雷脚“だ…ッ」
バーリアは足が止まったまま、そう呟いた。
そう、今の下っ端が吹き飛んだ原因はレイゲンの強大な電力エネルギーが持つ脚で蹴り飛ばすだけの技である。
「……あと二人かぁ〜、こんな弱いの相手にするの退屈だなぁ。こりゃ後でルアト副隊長に高いもの奢ってもらうべき働きをしてるでしょ。あ、これはロギ副団長からの命令だからロギ副団長に奢ってもらお〜」
◆◆◆
《大講堂室 入団式前》
実は入団式前、レイゲンはロギから一本、連絡という名の命令を受けていた。
『こちらロギ。レイゲン、今回君にはサポートをしてもらいたい、これは命令だ』
「こちらレイゲンです〜。大丈夫しゅよ〜、隊長から聞いてまふから」
レイゲンは大きなメロンパンを頬張りながらそう答える。
『……レイゲン、一応聞くが食事中か?』
「その説も……ありまふ」
咀嚼音はロギの通信機を通しても聞こえてくる。
だが、ロギはそれを気にせず話を続ける。
『君には、違反者の取り締まりをお願いしたい』
「あー、いつものっすか〜。あっ、俺のほかに誰かサポート役っているんすかー?もぐもぐ」
『サグラ隊のサグラ隊長が出る予定だ』
「なるほど、だいぶ大物だすんすね、もぐもぐ」
レイゲンは返事しながらメロンパンに食らいつく。
『あぁ。今回の入団希望者の何人かが不穏な動きを見せているからな。それが今回は例年より多いんだ』
「……んぐッ。まぁ、とりあえずやっときます」
パンの一部を飲み込み、返事をするとロギが一言レイゲンにいい放った。
『あぁ、そうだ。いつもより少し“威圧感“を持った感じで頼む。お前の気迫なら訓練兵士はそれだけで怖気づく』
「ん〜、苦手ですけどやってみます、もぐもぐ」
『あと、リアンとルアトには上官との関わり方を部下に教えてやれ、と伝えてくれ。以上だ。護衛団に栄光を───』
ロギがそう言うと、通信が切れるのだった。
「……?あ、はいわかりまひた、もぐもぐ」
◆◆◆
「……クソがッ!クソがッ!なんでいくら撃っても避けられられんだよォ!俺の高速連射が───」
下っ端が撃ち込んだゴム弾は全て、避けられており、煙幕が焚き込まれた中でも察知して対応されていく。
「───もう、つまんねぇわ」
「……ッ!?」
(……な、なんなんだよコイツ!?読めねェ!読めねェよ!……い、いや次は絶対に決めるッ!)
下っ端はそのレイゲンの言葉に身震いするものの、覚悟の上でもう一度レイゲンに向けて引き金を引く準備をする。
そして煙幕の中で微かに見えるレイゲンを見て、狙いを澄まそうとした。だがしかし、そんな彼もシンの武器であるモデルガンをこちらに向けているのだ。
(バカがッ!!俺の方が早いに決まってるッ!)
下っ端はそう思考し、引き金を引く。
そしてその思考通り、引き金を引いたのは下っ端の方が早かった。
でも結果は、その思考通りにはならなかった。
「───お前の技名貰うぜ!かっこいいからッ」
「は…?どういう────」
レイゲンは彼自身が撃った高速のゴム弾よりも疾く、下っ端の頭に向けて膝蹴りを食らわせていたのだ──。
「……ガ…ッ……!!」
膝蹴りを食らった下っ端の一人は地面に叩きつけられ、気絶する。それを見たバーリアは青ざめた表情でレイゲンを見る。
「ば、化け者だろ……ッ!」
「名付けて〜!“速攻迅雷“ッ!ってのはどう?これ俺考えたから取るなよ〜?」
彼はそう言うと、足がすくむバーリアに対して追撃するかのように言葉を噛み締めながら言う。
「……なぁ」
レイゲンは静電気により自身の金髪を浮かせ、体に流せるだけの電流を流す。
「まだ……やるか?」
そして細目をゆっくりと開ける動作をし、怒りや威圧感を与えるような……演技をした。
「……ッ!?や、やらないですッ!辞退しますッ!すみませんでした…ッ!」
バーリアはガタガタと震える足を動かして、大講堂室の出口を目指し、“辞退します“と叫びながら走っていった───。