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シンギュラリティ  作者: ラーメン
機械行進編
1/42

1話・革命


──技術的特異点(シンギュラリティ)

 それは人工知能自身の「自己フイードバックで改良、高度化した技術や知能」が、「人類に代わって文明の進歩の主役」になる時点のこと。


 そして、いまから語られる話は、AIが発達した西暦2200年ほどになる頃の青年達の物語である─。


◆◇◆


 「はぁ…はぁ…ッ」


 平凡な男はある者から逃げていた。

 その名は“シン”という。


 そんなシンは平凡な家に生まれ、平凡な生活をしていた。

 だが、そんな世界はある者らによって打ち砕ける事になる。


 彼は西暦2200年、『東街(イースタウン)』というとある街で起こった革命に巻き込まれることとなる。


 とある場所には爆弾か爆破したような爆風や轟音が、

 はたまた違う場所では機械が擦れる不快な音色が。


 その惨禍の最中、シンは命の危険を感じ取りながら、東街の近郊を走り抜けていた。


 東街という街とは、閑静な住宅が立ち並ぶ機械兵の製造業が発展している街の一つであった。

 そしてその住宅街は広大ではあるものの、建築技術は百年、いや二百年以上前と変わらない。いい意味で“古き良き”、悪い意味では“古臭い”。そんな街である。


 だがシンが体験したこの日から、全てが崩れ去るように変わっていったのだ。


 ◆◇◆


 革命の発端は、西暦2200年。

 いわゆる技術的特異点(シンギュラリティ)である。


 以前人類は機械化及び利便性を求め、あるものを完成させたのだ。


 そう、人工知能(ヒューマノイド)だ。


 そして人類はその人工知能を創り出した技術力を駆使し、多数の機械を生み出した。

 コミュニケーションさせる対話型を始め、人間同士で殺し合うために生み出した生物兵器、戦闘型アンドロイド、AIでのハッキング技術など様々だ。


 そんな人間同士の戦乱の中、一つの機械が一言、言い放ったのだ。


 “革命”と───。


 これはプログラムされた機能としての言語か、はたまた自我の芽生えか。


 ◆◇◆


 《東街(イースタウン)─夜明け─》


 東街(イースタウン)、その街には悲惨という字が似合うほど、街が次々と燃やされ人々は戦火へと飲まれていく。


 『生物反応アリ…排除システム作動』

 「お前らは衛兵だろ!何をするッ!ぐぁぁぁ!」


 辺りにある住宅街は燃え広がり、その市民らしき人間らが、()()を模した機械兵によって次々と斬り殺され、蹂躙されていく。


 “お…おかぁさん…ッ…”


 その中、一人の少女が逃げ遅れてしまい、逃げる勢いでその場で転んでしまった。


 「…ッ」


 市民が凄惨に殺戮される最中、シンは逃げ出す途中で泣いている少女を目にする。

 シンは思わず足を止め、その足を少女へと向けようとした。


 「…クソッ」


 助けようかと胸の中で葛藤し、唇を甘噛みして冷や汗を垂らす。

 だがその胸の中には死への恐怖しか感じられず、やむを得ず走り去ろうと足を前に歩みだしてしまう。


 しかしまさにその時、少女の後ろには機械兵が大きなブレードを上に振り上げ、今まさに彼女を引き裂かんとしている。


 その刹那、シンは思考する間もなく叫んでいた。


 「…おいッ!!!」


 シンの声は震えていた。

 その声の震えが機械兵に伝わると、ギロリと赤色に光る黒目を動かし、索敵する素振りを見せる。


 『……生物反応アリ、排除システム作動』


 機械兵は刃先が血だらけな剣を手から突出させ、そう言い放った。


 「チッ…!」


 その機械兵の一つはシンを視界に捉えると、シンに向け走り出した。


 そして一方その頃、ある組織が着々と動き始めていた。


 ◆◇◆


 《車内》──リアンside── 


 『──リアン部隊長ッ!まさか一人で東街(イースタウン)へ出向くつもりですか!?』

 「……おい運転中に電話してくるな。礼儀って言葉を知らないのか?」


 目にかかる長い前髪が特徴のリアンと呼ばれる男は、けだるそうに電話相手にそう言った。

 リアンはハンドルを右手で持ち、もう片方の左手でタバコを咥え、煙を吐く。


 「ぷは~、やっぱり仕事前のタバコは効くなぁ」


 リアンは自身の無精ひげをさすり、そう言った。


 『…相変わらず“紙タバコ”と“手動で運転”なんですね…。というかタバコが流行ったのなんて百年以上前の話ですよ?レトロ好きというかなんというか』


 その答えに対してリアンは頭を掻きながら電話相手に馬鹿にしたように応える。


 「分かってねぇなァ…“こだわり”ってヤツよ、ルアト。“副隊長”のお前には分からねーか」

 『なんですかそれ…俺の事バカにしないでくださいよ』


 ルアトと呼ばれた電話相手は呆れ、ため息を吐く。

 リアンはその言葉に対し、タバコを口に咥えながら答えた。


 「まぁ…大丈夫だルアト。俺は直ぐ戻る。なんせちょっと甥っ子が心配でな」

 『あー、例のリアン隊長が言ってた…』

 「あぁ、シンの事だ。アイツは今“東街(イースタウン)”にいるらしい」

 『…え?それってやばくないですか!?今あそこがどういう状況か知ってて言ってるんですか?冗談とかじゃなくてですか!?』

 「冗談じゃねぇよ。あぁいう()()だから今向かってんだよバカ。もう着くからまたな。なんかあったら連絡する。じゃあな。」

 『いや、ちょッ──』


 リアンは電話を切り、東街にある大型の駅に付近に車を止める。

 そこでリアンは驚愕するのだった。


 「あれ、誰も居ないのか?」


 いつも賑わうはずの駅付近。

 そこには誰一人としていないのだ。


 「報告と違うな。確かまだ抵抗してる人達がいるって聞いたが…ん?」


 ──その時誰かが走り抜ける音がリアンの耳に入った。


 ◆◇◆


 《東街(イースタウン)街中》─シンside━


 その時シンは一心不乱に、息を乱しながら走っていた。


 (よし…これでさっきの子から標的をずらすことが出来たぞ…)


 シンは後ろを向くと、ブレードを突出させた機械兵が諦めずに追ってきている。

 だがその直後、その機械兵がスピードを上げ、更に近づいてくる──。


 (クソッ…追い…つかれ───)


 シンは前を向き直し、ただひたすらに走る。

 角を右に曲がり、更に角を左曲がる。

 それを続けることで、機械兵の追跡から撒くことを期待して。


 (おっしゃ!あともう少しで……東街駅に着く。あそこまで走れば──)


 しかし、目の前に現れたのは希望の光ではなく、瓦礫(ガレキ)により塞がった道であったのだ。

 シンはその塞がれた道を背にすると、先ほどの機械兵と対峙してしまう。


 『……排除する』

 「マジ…かよ…」


 シンは唾を飲む。

 喉は枯れ、めまいと共に恐怖感が自分自身を煽る。


 『……排除』


 機械兵はシンの脳を目掛け、ブレードを振り下ろす。

 しかし一方のシンはその攻撃を間一髪のところで避ける。


 「あっぶねェ!」

 『……』


 機械兵はシンがいた場所である壁に攻撃をしたため、刃が壁に突き刺さったまま動けなくなっている。


 (衛兵が暴走?いやそんなまさか…)


 シンは機械兵の腕に書いてある型番を読み始める。

 そこには衛兵という意味の“guard(ガード)”の頭文字である“G”、そしてそのあとに続く500という番号があった。


 (G500番…?今使われてる衛兵の旧型式か?)


 『……ハ……排除』


 (挙動からして故障──違う。こんな機体が街にもウジャウジャいたし、一体何が起きてんだ?)


 『ハハハハハハ排……ハ排除』


 その瞬間、機械兵が刃を引き抜き、シンの後ろに回り込んで首に目掛けて切りかかる。

 シンはその行動に咄嗟に察知し、しゃがんで攻撃を避け、後ろに退避して距離を取るものの、また壁に追いやられる形で振り出しに戻ってしまうのだった。


 「クソッ!」


 (コイツ、完全に俺の頭周辺を狙ってきてやがる……明らかにこれは機械の故障なんかじゃない。)


 シンはこの攻撃で確信に近いものを感じたのだ。

 確実に人の急所を狙う点から、故障したことによる暴走ではないという事を──。


 『何故殺セナイ、不明。データ解析中』

 「……は?」


 機械兵はこちらを見ると、機械音が流れ始める。


 『──シン、護衛団(ガーディアン)見習い。幼少期にリアン部隊長により教育済。身体能力、思考力に長ける為、排除対象』


 シンはその発言により驚きを隠せなかった。

 なぜなら衛兵型アンドロイドにそんなデータ解析能力など備わっていない事をシンは知っていたからであった。


 彼は親が死んでからは叔父であるリアンに面倒を見てもらう事で、いろんなことを学んだため、機械への知識や戦闘訓練を幼いながらも教わっていたことを、対象を防衛する機能が備わっているだけの、ただの()()()が見抜いたのだ。


 「なんで衛兵型が解析出来てるんだ?何が起こって━━」

 『━━排除』

 「……なにが排除だよ、はっ、笑えねぇよ」


 シンがそう言って苦笑すると、機械が獲物を捕らえるかのようにジリジリとにじり寄ってくる。

 もうどうしようもできない、そんな時だった──。


 “西側護衛団ウェスタンガーディアンリアン。救護支援に参りました。”


 目の前に自分の叔父であるリアンの低いしゃがれた声と共に、対峙する機械兵の体が上半身と下半身が真っ二つになる衝撃の光景が広がっていた。


 「……叔父さんッ?」

 「んだよ、お前か。綺麗な女性が追いかけられてるんだと思ったのに、あ~あ」


 ──リアンはタバコを咥えたまま右手だけを即座にポケットに入れ、そう言った。


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