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第72話【グラブルの作りし物】

俺とグラブルとの間で交渉が成立した。


この異次元牢獄から出してもらえる条件として、俺は消えたウェイトレスさんを見付け出すこととなったのだ。


目の前の光の扉がゆっくりと開いて行く。


「今よ、今よ、今よー!!」


俺の横からアンが隙を突いて扉の外へ逃げ出そうとした。


しかし───。


「ドスコーーイ!」


「ふにゃぁ!」


グラブルさんの腰の入った突っ張りがアンの顔面を突いて弾き戻す。


牢獄内にアンの小さな体が勢い良く吹っ飛んで行った。


アンは壁に激突して後頭部を両手で押さえている。


「うぐぐぐぐぅぅ……」


「さあ、早く出て!」


「はい……」


俺が牢獄から出ると扉が閉められた。


「開けて開けて開けてーー!!」


閉められた扉を中からアンが必死に叩いていた。


しかし無情にもグラブルさんが腕を振るうと光る扉は形を消してしまう。


すると、もがくアンの騒音も消えた。


「本当に騒がしい妹だよ……」


そう述べたグラブルの容姿は若い青年だった。


俺より若干歳上に見えるが、その実は5400歳のドラゴンだ。


青い髪は少し眺めで艶がある。


顔はハンサムだが、瞳だけが爬虫類だった。


身長は俺より少し高い。


上下の青いスーツを来ていたが、ジャケットの下は裸である。


なんかホストっぽい。


「騒がしい馬鹿妹で済まなかったね」


「いえいえ……」


俺は洋館の一室だと思われる部屋の中に居た。


部屋の中は殺風景だが、高価で鮮やかなソファーセットが一組だけ置かれていた。


そのソファーセットに大きな違和感が見て取れる。


それに、室内には生活感が、まったく無い。


「まあ、とりあえず座りたまえ」


「はい……」


俺は促されるままにソファーに座った。


「何かワインでも飲むかね?」


「俺は飲めませんので結構です」


「それでは、お茶にしますか」


言いながらグラブルがテーブルの上を手で翳すと、ティーポットとティーカップのセットが現れる。


グラブルがティーポットからお茶を注ぐと、ティーカップに湯気が立っていた。


何かの魔法のようだ。


「魔法ですか。便利ですね」


「前もって用意していたものを、時間が止まった時空にキープしていたんだよ。僕は時空を操る魔法が得意でね」


「なるほど。魔法に関しては、人間の魔法使いの数段も上を行っているわけだ」


「僕たちドラゴン族からしたら、人間の魔法レベルは、ママゴトのような感じかな」


「幼児と大人ぐらい差があると?」


「そんな感じだよ」


グラブルがティーカップに手を伸ばしたので、俺もお茶を啜る。


喉が乾いていたせいか、凄く美味しく感じた。


「では、先程の話の続きをしようじゃあないか」


「はい」


このドラゴンお兄様は、たまたま日中(・・)に町の酒場で見掛けたウェイトレスに一目惚れをしたらしい。


その酒場とは冒険者ギルドの酒場だ。


だが、その日以降、彼女に出会えないで困っている。


本当は町中で、聞き込みをしたいのだが出来ない。


グラブルの変化の術は、見ての通り中途半端だからだ。


マジマジと見られれば、瞳の部分が爬虫類だと直ぐにばれてしまうから、人間たちに聞き込みができない。


そこで代わりに、そのウェイトレスを探し出して来てもらいたいのだそうな。


そう、俺に俺を探せと言うのだ……。


グラブルが一目惚れしたウェイトレスさんは、間違いなく俺だろう。


あの日の日中に、ウエイトレスをやっていたのは、女装した俺とギルガメッシュだけだ。


ギルガメッシュに一目惚れしたので無ければ、二択が消えて俺になる。


この馬鹿お兄様は、俺を女の子だと勘違いしていやがるのだ。


しかも、当人が目の前に居るのに気付きやしない。


同一人物だと気付いていないのだ。


てか、その辺も分からないぐらい人間の見分けがつかないのかよ、爬虫類はよ!


一目惚れされる身にもなってみろや!


本当に迷惑だよ!


「勿論、彼女を見付け出してくれたら、報酬は払うよ」


「ほほう、いかほど?」


「あまり人間の通貨は持ち合わせていないから、マジックアイテムでも構わないかね?」


「いや、そっちのほうが興味深いな」


「じゃあ、これなんてどうだろうか?」


そう言いながらグラブルは、嵌めていた指輪を一つ外してテーブルの上に置いた。


赤いルビーが嵌め込まれた指輪だった。


見た目からして高価そうである。


俺は小声で「アイテム鑑定」と呟いた。


【ドラゴンルビーの指輪+3。あなたのレベルが低くて鑑定できません】


+3だと!


俺よりレベルが高いし!


しかもドラゴンルビーってなんだよ!?


「こ、この指輪は……!?」


「ほほう、少しは物の価値が分かるのかね」


「これが凄い物だとは分かります……」


「この指輪を作ったのは私だ。そして能力は、異次元宝物庫だよ」


「異次元宝物庫?」


「簡単に言えば、異次元内にアイテムを収納出来る指輪だ」


「それを聞いただけで便利そうですな!」


「これをはめて念じるだけで、異次元にアイテムを収納したり取り出したり出来る」


やっぱりそうだよね!


「収納できるのは無生物だけだが、収納中は時が止まっているから、腐りもしないし、温度も変わらない」


「なるほど。さっきお茶を出したのは、この指輪からだったのね」


「察しがいいね、キミは」


スゲーの来ましたね!


これも俺のハクスラスキルの影響ですか!?


「しかもだ、持ち主の登録システムもあってね。登録された持ち主から盗まれても念じれば帰って来るんだ。だから失くすことは無い」


なんと便利な話だな!


もう一つあるだろ。それも早く言え!


「更にもう一つは呪いだ!」


「呪い?」


呪いに良い印象が無いのは、俺だけかな?


「盗んだ相手が下等な人間風情なら、念じるだけで呪い殺せるぞ!」


いーらーねー!!


三つ目の能力は、別に要らねえな!


でも、この指輪は欲しいぞ!!


何としても欲しいぞ!!


「もしも、ウェイトレスの彼女を僕の元に連れてこれたら、この指輪をキミに報酬としてあげよう。一度登録してしまえば、死ぬまでか、誰かに譲るまでキミの物になるぞ」


欲しい、かなり欲しいぞ!


この指輪が有れば、今後の冒険でかなり役に立つ!


こうなったら、このドラゴンを騙してでもルビーの指輪をゲットしてやるぞ!!



【つづく】

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