第68話【逆なる発想】
次の日に俺は、ソドムタウン内を行ったり来たりするはめとなる。
何故にかと述べれば、情報収集のためであった。
そもそも最初に洋館でモンスターを見たと言う大工から話が訊きたかったのだが、この大工まで行き着くまでに大変苦労してしまう。
その大工が誰なのかを知っているのはワイズマンだけだったので、ワイズマンの居場所を知るために、まずは冒険者ギルドでギルガメッシュさんにワイズマンの居場所を訊かなくてはならなかったりと、いろいろと手間が掛かったのだ。
そのせいでソドムタウン内を行ったり来たりして、やっと大工の居場所が分かったのである。
何故に俺が大工を探したかと言えば、理由は単純な疑問があったからだ。
ワイズマンから俺が依頼を受けるさいに、ワイズマンはこう言っていた。
『なんと購入した洋館にモンスターが巣くっているらしく、改装作業が出来ないとのことだ』
ワイズマンが述べている『洋館にモンスターが巣くっている』と言う証言は、改装工事を請け負った大工の言葉だろう。
だとするならば、可笑しい点がある。
その疑問を訊きたくて、俺は件の大工を探したのだ。
もう一度、話を聞き直すために──。
何故に大工は、『モンスターが巣くっている』と述べたのか?
何故に大工は、『ドラゴンが巣くっている』とは述べなかったのか?
この言葉の差は大きい。
要するに、大工は何らかのモンスターを目撃しているが、ドラゴンの姿は見ていないことになる。
そもそもこんな町の側で、ドラゴンを目撃したとなれば、もっと大騒ぎになっているはずだ。
だが、俺がワイズマンを探すついでにソドムタウン内でドラゴンの目撃例がないか訊いてみたら、そんな噂すらなかったのだ。
要するに、ドラゴンを見たのは俺だけである。
あの洋館にドラゴンが居るのを知っているのは俺だけだ。
だとするなら、大工はどんなモンスターを見たのか知りたかった。
今回の仕事は、最終的に武力で解決しないのは明白だろう。
とてもじゃあないが、俺一人でドラゴンになんて勝てやしない。
俺が一人でなかったとしても、神龍クラスには人間の総合戦力でも勝てやしないのだ。
だから最後は武力以外で決着を付けなくてはならないだろうさ。
そうなれば、情報量が大切だ。
あの洋館に、ドラゴン以外にも、何か別のモンスターが巣くっている可能性が有る。
それを知っておいて損はなかろう。
だから俺は大工を探しているのだ。
そして、やっと大工が誰だか分かり、彼から話を訊けるところまでこぎつけた。
その時刻は昼時を過ぎたぐらいだった。
大工曰く。
彼が体験した話では、改装の見積もりを出しに一人で洋館まで出向いたら、洋館に入って直ぐのエントランスホールで複数の動く甲冑に出くわしたらしい。
その動く甲冑は、頭が無かったり片腕が無かったりと、明らかに中は空洞で、人が中に入っていないのが分かったらしいのだ。
そんな動く甲冑たち数体が、武器を翳して襲ってきたらしく、大工は慌てて洋館から逃げ出したと話している。
ゾディアックさんに訊いた話では、リビングアーマーはゴーレムの一種らしい。
だからおそらく操っているのはドラゴンだろう。
そして、やはり大工は、ドラゴンなんて見ていないと述べている。
これは、何かが可笑しいと俺は思った。
何故にわざわざドラゴンは、リビングアーマーを操って、大工を脅して追い払ったのだろうか?
それともドラゴンの留守に大工が訪れて、防犯装置のリビングアーマーに追い払われただけなのだろうか?
他にも推測なら、いくらでも作れる。
だから真相は、ハッキリとは分からない。
なんとも言えない状況だ。
しかしである。
案外にドラゴンも、人間たちに、自分の存在を知られたくないのかも知れない。
だからリビングアーマーを操って大工を追い払ったのかも知れない。
本当に推測の域を出ていない話ではあるが……。
まあ、なんにしろだ。
今回は、相手が相手なだけに、慎重に動かざる追えないと考えていたが、逆を言えばもっと大胆に攻めても良いのかも知れない。
最終的にドラゴンとは戦えないが、その前の別とは戦っても良いのではないかと考えた。
だから、ここは一気に本丸に殴り込みを仕掛けて見ようかと思う。
気の荒い冒険者のふりをして、洋館に殴り込む。
ただリビングアーマーを倒しに来た、アホな冒険者のふりをしてだ。
ほぼほぼ勢いだけの作戦だけど、とりあえずリビングアーマーを全部ぶっ倒して見ようかと思うのだ。
もしもそれで、ドラゴンのほうが次なるリアクションを見せてくれればラッキーだ。
それで話の展開が、勝手に進むやもしれない。
そう考えた俺は、再び洋館を目指した。
そして目的地に到着した俺は、洋館の前で仁王立ちをしながら凄んでみせる。
バトル アックスを手に持って、凛とした表情で三階建ての洋館を見上げていた。
分かりやすいアピールである。
バカな冒険者が来ましたよって、洋館の中に居る者に知らしたかったのだ。
よし、このぐらいでアピールは良いだろう。
これから一気に正面から殴り込もう。
あとは侠気で勝負だ。
ドラゴンに、男の熱い思いが伝わるかは分からないが、試してみるしかない。
俺はアホな冒険者らしく正面から挑むことにした。
洋館の扉のノブに手を掛ける。
そして、ゆっくりと扉を開いた。
薄暗い洋館内に、光が差し込むと、揺らぐ人影が映し出される。
エントランスホールには、数体のリビングアーマーが、予想通り待ち受けていた。
【つづく】