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第完結話【冒険は終わらない】

パーティーは薄気味悪い森の中を進んでいた。


森と言うよりジャングルである。


道行く道が無いためにショートソードを鉈代わりにブッシュを切り開きながら進んでいた。


だが、足場は平たい。


古き時代に舗装された形跡が見られる。


パーティーのメンバーは五人だ。


ファイターの若者、タンカーのおっさん、女レンジャー、メイジ爺さん、少年プリーストと良く見られる安定した編成である。


パーティーが進むジャングルの向こうに勢多かい山脈が連なっているのが見える。


彼らはその山脈を越えてやって来た。


進む前に、その山脈が見える。


しかし、進んで来た後方にも、その山脈は見えていた。


彼らが進むジャングルは、その山脈に囲まれている。


クレーター山脈だ。


戦闘を進むファイターの若者の前でジャングルが開けた。


すると眼前に遺跡が見えてくる。


「やっと到着したぞ……」


ファイターの若者が遺跡を見回しながら言った。


周囲にはジャングルの木々に包まれた住宅の跡が見える。


殆どの家が崩壊して壁が僅かに残っているだけだ。


ファイターは正面に聳える廃城を見ながら言う。


「ここが、千年前に没落した都市、魔王城街と魔王城だ」


ファイターの背後から忍び寄った女レンジャーが言う。


「殆ど町は崩壊しているわね。魔王城がかろうじて完全崩壊を免れているていどだわ」


タンカーのおっさんが言う。


「本当にこんなところに財宝が残っているのか。何せ千年前の遺跡だろ」


メイジの爺さんが言う。


「しかも千年前の魔王であるアスランは、とんでもない浪費家だったとか。財宝を使い尽くして、城下町まで崩壊させた変態駄目魔王だぞ」


歩き出したファイターが踵を返して後ろ足で進みながら言う。


「まあ、財宝は期待出来ないが、魔物は入れ替わり立ち代わりで巣くっているだろうさ。最悪経験値だけでも確保は間違いないだろうよ」


少年プリーストも足を進めながら言う。


「兎に角、魔王城を探索しましょう。何か出てくるやも知れません」


「「「だね~」」」


冒険者パーティーは廃墟の魔王城街を抜けて魔王城前に到着する。


だが、魔王城に進める石橋は倒壊していた。


これでは湖を渡れない。


「なあ、メイジさん。マジックボートを出してくれないか」


「承知じゃ」


リーダー各のファイターに言われて魔法使いの老人は魔法で光るボートを作り出す。


五人が乗れる程度の小舟である。


「準備完了だわい」


「よし、これで向こうまで渡るぞ」


五人は光るボートで湖を渡った。


湖を渡る途中で水中を何やら巨大な生物が泳ぐ影が見えた。


その影の体長は10メートル以上はあった。


パーティーは息を潜めてボートのオールを漕ぐ。


「魔王城の湖にはクラーケンが住んでいるって噂が何百年前まであったが、本当に居るのか……」


「流石にクラーケンは強敵だ。触れずに進みたいな……」


「だな……」


そして石垣をよじ登り正門から魔王城に入った。


ファイターの若者が周囲を警戒しながら言う。


「何か住み着いてるか?」


しゃがんで地面を凝視している女レンジャーが言った。


「居るわね。複数の足跡が見られるは……」


「モンスターかい?」


「人間よ。しかも子供の足跡も混ざっているわ」


「それ、ゴブリンとかじゃない?」


「いえ、人の童よ」


タンカーのおっさんが背中に背負っていたラージシールドを前に構えた。


「ここからは更に警戒だな。もう何かの縄張りに入っているのだろうさ」


ファイターもロングソードを抜いて構えると、女レンジャーも弓矢を両手で構えた。


「警戒を強めて進むぞ……」


「おう……」


そしてパーティーが城内に入ると謁見室に到着した。


室内は荒れ果てていて、玉座の背もたれも折れている。


女レンジャーが床を見ながら言う。


「ここは足跡が沢山あるわ。生活の中心部に入ったわよ」


彼女が述べた刹那であった。


壊れた玉座の陰から人が姿を表した。


「誰だっ!?」


人影は立ち止まる。


「えっ、誰じゃ?」


老人だった。


ハゲ上がった頭に皺だらけの顔には長い顎髭を蓄えている。


そして丸めた猫背の上半身には粗末な抜くを纏い、下半身は何も穿かずに萎れた一物を晒していた。


それなのに靴だけは履いている。


「「「「「変態!?」」」」」


パーティーは声を揃えて驚いた。


まさか魔王城跡地で変態と遭遇するとは思わなかったからだ。


下半身を露出している老人はパーティーの反応を見て言った。


「ああ、すまんすまん。急に半裸で驚かせてしまったかのぉ~。これから全裸になるから許してくれやぁ」


そう言うと老人は上着も脱ぎ捨て全裸になった。


靴だけ履いている。


「「「「「なんで全裸になるの!?」」」」」


「えっ、マナーだからのぉ」


「「「「「そんなマナー知らねぇ!!」」」」」


「最近の若者たちはマナーすら知らんのか。パパやママから何を習って生きてきたのやら。世も末じゃのう」


ファイターの若者が慌てながら問う。


「ところで爺さんは誰だよ。こんなところで何をしているんだ!?」


「何をしておるって、我が家で寛いでいるんじゃが?」


「我が家……?」


「そう、ここ魔王城はワシの家だからのぉ~。新婚生活から妻を見送った後もずぅ~~っと我が家だわい」


「「「「「って、ことは……」」」」」


「ワシは11代目魔王のアスランじゃあ」


ファイターの若者が目を剥いて驚いていた。


「マジっ!!??」


そして女レンジャーが声を震わせながら言う。


「こ、こいつが変態の魔王、アスランか……。まさに変態だな」


少年プリーストが呟く。


「全裸だしね……」


変態魔王アスランはチンチンをボリボリとかきながら言った。


「そんで、若い人々よ。何しに来たのじゃ?」


「はっ!!」


アスランの言葉にファイターの若者は当初の目的を思い出した。


「何かモンスターか財宝が残っていればと思ってやってきたが、まさか魔王と出会えるとは……」


これはラッキーかも知れない。


老いぼれたとは言え、相手は魔王だ。


魔王を打ち取れれば大手柄である。


こんなチャンスはまたとないだろう。


ファイターの若者が剣を構えると、その動きでパーティーメンバーはリーダーの意思を察した。


戦う気だ。


その意気込みをアスランも察し取る。


取るが、構えない。


寝ぼけ眼でパーティーをぼんやり見ていた。


「行くぞ、皆……」


「「「「おう!」」」」


タンカーのおっさんを先頭にパーティーメンバーが走った。


アスランに迫る。


「はあ、面倒臭いのぉ~」


「どすこいっ!!」


まずはタンカーが盾を前にシールドアタックで体当たりを試みる。


だが、アスランはヨボヨボの腕を振るって盾を殴った。


するとグワンっと派手な激音が轟いた。


その轟と同時にタンカーが盾ごと吹き飛ばされる。


そして20メートルほど離れた壁に激突して止まった。


ダラリと尻から落ちて項垂れる。


気絶したようだ。


続いて女レンジャーが弓矢を放つ。


しかし、飛び迫る弓をアスランは吐息だけで撃ち落とす。


ふぅ~っと息を吹き掛けただけで矢は足元に落下した。


「ぜぇあ!!」


矢の次にファイターの若者が兜割りで切りかかった。


だが、アスランは避けない。


ハゲ上がった頭でロングソードの一撃を受け止めた。


カキンッと金属音を鳴らして剣打を弾いたのだ。


「バカな……」


ファイターの若者は鼻水を滴しながら驚いていた。


「退けい!!」


メイジの爺さんがファイアーボールを投擲した。


その火球魔法をアスランは片手でキャッチする。


更に火球を握り締めた。


そして火球は爆発することなく消えていく。


「バ、バカな……。私の攻撃魔法が握り潰された……。あ、ありえん……」


信じられないと魔法使いが声を漏らす中、アスランは右肩から腕をグルグルと回しながら言った。


「じゃあ、今度はワシから行くぞ~い」


ダッシュ。


アスランが一瞬で少年プリーストの前にダッシュした、


「ほれ」


軽いパンチだった。


アスランがプリーストの顎を狙って軽いフックを放った。


ゆっくりとした何気ないパンチ。


躱そうと思えば素人でも躱せるだろうゆっくりなパンチだった。


だったが、少年プリーストは回避の行動すら取らずに顎を殴られていた。


そして、両目の眼球をグルグルと回した後に白目を向いた。


そのまま膝から崩れ落ちる。


少年プリーストは完全に気絶していた。


それを見ていたメイジの爺さんが叫ぶ。


「ヒーラーが取られだぞい!!」


「目潰し」


「きゃぁぁあああ!!!」


次に狙われたのは、その老人だった。


Vの字で目を突いて視界と戦意を奪われる。


「目が~、目が~!!」


「おのれ、妖怪ジジイめが!!」


女レンジャーが弓矢を引いた。


狙いを定める。


だが、その眼前からアスランが唐突に消えた。


「き、消えた……」


すると女レンジャーの背後から声が聞こえてくる。


「ちょっと揉んでええかのぉ~」


「ひぃぃいい!!」


女レンジャーの背後から回られた両手が彼女の乳を鷲掴む。


そしてモミモミされていた。


「セクハラっ!!」


「えっ!!」


アスランは女性の言葉を聞いて手を引っ込めた。


「訴えないで、訴えないで。ポリコレとかに言わないで!!」


「死ねっ!!」


慌てているアスランの背後からファイターが切りかかった。


だが、再びアスランの姿が消える。


「もう、ギャルとのスキンシップ中に邪魔すんなよ~」


瞬時にアスランがファイターの背後を取っていた。


テレポートだ。


アスランは瞬間移動しているのだ。


「そ~れ~」


そして、背後から股間を狙った掬い前蹴り。


「ぎゃあっ!!」


悲鳴と共にファイターの若者がダウンした。


股間を両手で押さえている。


アスランは女レンジャーに言う。


「生かして帰してやるから、皆が回復したらさっさと帰りや。いつまでも人の家を彷徨っていると、不法侵入で訴えるよ。まあ、見逃してやるからセクハラで訴えないでね」


「は、はい……」


アスランは女レンジャーの返事を聞くと謁見室の奥に消えていった。


その後は自分の寝室に戻る。


狭い部屋だった。


ベッドと小さなテーブルがあるだけだ。


アスランは全裸のままベッドに腰かけると何者かに話しかけた。


「あいつらが帰るまで見張っててくれないか」


どこからか声が聞こえてくる。


『畏まりました、アスラン様』


「頼んだぞ、ヒルダ」


それっきり声は途絶えた。


アスランはベッドに横になる。


そして、一人言を呟きだした。


「久しぶりに人間にあったな~。戦ったのも久しぶりだな~。300年ぶりかな~」


その後、暫く天井を眺めていたアスランが再び一人言を呟いた。


「あれから千年ぐらい過ぎたのか……。あの頃は面白かったな~。また、冒険にでも出ようかな~。でも、もうレベル上げにも飽きたしな~」


再び天井を眺めながら固まるアスラン。


そして呟いた。


「よし、こうなったら、また冒険に出よう。今度はレベル50000を目指そうかな。あと、たったの15409だもの!」


ベッドから跳ね起きたアスラン老人は、全裸でスキップしながら部屋を出ていった。


「マミーレイス婦人、またワシは冒険にデルから留守番をたのむぞ~」


やがて再びアスランは一人で魔王城を旅立つ。


無限の冒険を目指して──。


ソロ冒険を続ける。



【永遠につづく】


【完】

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