第577話【水面のホットパンツ】
レジェンダリークラーケンのガルガンチュワは、魔王城の城壁の上から湖の水面に立つクジラ巨人を見下ろしながら腕を組んでいた。
ガルガンチュワの表情から悩みが見て取れる。
「んん~ん、不自然だな……」
赤いショートヘアーを揺らしながらガルガンチュワが首を傾げた。
クジラ巨人が立つ湖の水深は10メートル以上はあるはずだ。
深いところならば20メートルはある。
普段からこの湖で泳いでいるからガルガンチュワには水深が分かるのだ。
なのに推定身長が7メートルほどのクジラ巨人は脛の当たりまでしか水に使っていない。
明らかに身長と水深の差が可笑しいのだ。
それが不自然に見えた。
先ほどガルガンチュワがクジラ巨人の顔面を蹴り付けて吹っ飛ばした際に全身が窺えていた。
その姿は大きいだけで普通の人型の体格だった。
膝下だけが異様に長いわけでもない。
なのに、何故に水面に立っていられるのか?
それが疑問に思えた。
ガルガンチュワがレッドヘルムに問う。
「なあ、胸元の赤頭くんよ。何故にそのクジラは水に沈まず立っていられるのだ。教えてくれ?」
レッドヘルムは城壁の上のガルガンチュワを睨み付けながら答える。
「このポセイドンアドベンチャーは大海でも立って歩ける巨人なのだよ。そもそもクジラは泳げる、人間は歩ける。だから両方の特性を有したポセイドンアドベンチャーが水上を歩けるのも当然のことなのだ!」
とんでも理論だ。
「なるほど、それは便利だな」
しかし、どうやら今の阿呆な説明でガルガンチュワは納得したようだ。
閉鎖ダンジョンの死海生活が長かったせいか、一般常識が欠けているのだろう。
だから納得出来たのだ。
「とうっ!」
そしてガルガンチュワが高くジャンプした。
降下しながら宣言する。
「ならば、一生立てないようにしてやるぞ!!」
ガルガンチュワが下りのキックでポセイドンアドベンチャーに迫る。
ホットパンツから伸びた綺麗な生足でクジラ巨人の頭部を狙う。
「また蹴りかっ!!」
ポセイドンアドベンチャーとレッドヘルムの意識は連動している。
レッドヘルムがイメージしただけでポセイドンアドベンチャーは動くのだ。
そして、レッドヘルムの指令はパンチでガルガンチュワを打ち落とせだった。
念ずる指示のままにポセイドンアドベンチャーが拳を振りかぶり力を溜める。
狙いは飛び迫るガルガンチュワだ。
だが、次の瞬間であった。
ポセイドンアドベンチャーの動きが固まる。
「あれはっ!!!」
突如固まった理由。
それは驚愕だった。
ポセイドンアドベンチャーを操るレッドヘルムが驚愕に固まったからだ。
そして、レッドヘルムが驚愕の内に見たものは……。
「あの姉ちゃん、ポットパンツの隙間から、ちょっと見えているぞ!!」
形の良い尻肉と白いパンツがチラ見しているのだ。
「隙だらけだな、くらえっ!!」
「ぐほっ!!!」
再びガルガンチュワの飛び蹴りが炸裂した。
頭を蹴られたクジラ巨人がガルガンチュワの脚力に吹っ飛ぶ。
そして水面に背中からダウンした。
ポセイドンアドベンチャーを蹴り飛ばしたガルガンチュワは膝を抱えて回転すると湖の上に着地する。
爪先で水面に立っていた。
「なるほど、本当だな。二本足だと水面に立てるぞ」
そう、ガルガンチュワは水面に立っていた。
ポセイドンアドベンチャーが荒波を立てて立ち上がるとレッドヘルムが凄んで述べる。
「貴様、パンチラで気を逸らすなんて卑怯だぞ!!」
「パンチラ? 気を逸らす? なんだ、それは?」
ガルガンチュワはキョトンとしながら小首を傾げた。
当然ながらガルガンチュワには自覚が無い。
そもそもクラーケンな彼女に自分が麗しい乙女の姿をしているという認識が無いのだ。
ガルガンチュワにしてみれば、人間なんぞほとんど同じに見えるのだ。
綺麗も可愛いも格好いいすらない。
精々見分けがつくとしたら、旨そうか不味そうかぐらいだ。
「わけの分からんことをぬかす人間だな。もう一発蹴飛ばすか」
ガルガンチュワが水面からジャンプした。
再びの飛び蹴りだ。
「今度こそ打ち落としてやるわ!!」
ポセイドンアドベンチャーが掌を開いて横に振りかぶる。
張り手で打ち払いを狙う。
だが、再びレッドヘルムが驚愕に固まった。
相貌を大きく見開く。
「下乳っ!!」
それは、飛び迫るガルガンチュワのタンクトップが捲れ上がって下乳を露出していたからだ。
踵を突き出して飛び迫るのだからタンクトップが捲れ上がっても仕方がない。
だが、レッドヘルムは女性にモテない童貞野郎だ。
そんな彼には年頃の美少女ちゃんに見えるガルガンチュワの下乳は魅力的過ぎた。
何せ形が綺麗だ。
大きさも手頃である。
しかもビジュアル的に凄い好みである。
だから若さゆえに驚愕して硬直するのも無理がない。
「ぐはっ!!」
またガルガンチュワの飛び蹴りが顎先に決まった。
仰け反ったポセイドンアドベンチャーが背中から倒れて荒波を立てる。
身体を起こしたレッドヘルムが鼻血を垂らしながら悔しそうに言う。
「畜生……。こんな強敵が居るなんて聞いてなかったぞ。惚れてまうやろ……」
レッドヘルムが鼻から流血を吹いたのは蹴りのダメージからではない。
男の子の生理現象からだ。
「どうした、クジラ人間、巨体ばかりで技は無いのか?」
ガルガンチュワは片膝を高く上げて足首をブラブラと振るって挑発した。
威嚇の積もりだったが、その生足がレッドヘルムの煩悩を誘う。
「ああ……、ちょっとで良いから舐めてみたいな……」
本心である。
「なに、私の足を食べたいのか?」
「えっ、食べていいのか!?」
「ならば、私に勝てたら好きにしていいぞ」
「マ、マジかっ!?」
「ただし、私が勝ったらお前を食べてやるぞ」
「その勝負、乗ったぞ!!」
ガルガンチュワは本気でポセイドンアドベンチャーをレッドヘルムごと食する積もりで述べていた。
だが、レッドヘルムは別の意味で捉えている。
この僅かな誤解がレッドヘルムの生死を左右したのだ。
そのことをレッドヘルムは、まだ知らない。
【つづく】