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第573話【魔王様】

俺はハープーンガン+3をゴリにパスすると走って魔王城を目指した。


「いったいなんなんだ~、あの連中は!?」


街のメインストリートを巨大モグラが走ってるし、空を見上げればウッドゴーレムが五月蝿く飛び交ってるしさ。


それに湖にはクジラ巨人が暴れているしよ。


マジでなんなんだよ。


祭りか!?


何かの祭りが始まったのか!?


兎に角、魔王城に入って状況を確めよう。


俺が石橋を渡ろうとすると、クジラ巨人が両手の拳でガンガンと魔王城を殴ってやがった。


だが、その拳は音を響かせるだけで魔王城には届いていない。


見えない壁で阻まれているのだ。


「しかしよ、デカイ音が響くよな……」


俺が石橋を渡ると正門が閉まっていた。


この門が閉まるのを初めて見たぞ。


「お~い、誰か~、開けろ~。俺を中に入れやがれ!!」


俺が叫ぶと正門が僅かに開いた。


その隙間からハイランダーズの一人が頭を出して手招きする。


「よし、今だ!」


俺が正門から城内に飛び込むと正門は直ぐに閉められた。


ハイランダーズが話し掛けて来る。


ハイランダーズの一人は女の声だった。


どうやらエクレアのようだ。


「アスラン様、よくぞ御無事でお帰りになりました!」


俺は歩きながらエクレアに問うた。


「エクレア、状況を説明してくれ、あいつらはなんだ?」


俺の背後から付いてくるエクレアが報告する。


「あ奴らが何者かは分かりません。突如の奇襲でしたから。ただメインストリートに現れた巨大モグラに乗っていた騎士風の男がアルカナなんたらと名乗っていたとかいないとか……」


「なんだよ、アルカナ二十二札衆かよ。アマデウスの野郎、思ったよりも早く仲間を動かしやがったな」


「アスラン様、アルカナなんたらって、何者ですか?」


「この際だから、敵だと思えばいいさ」


「おお~、敵ですか!」


「なに、エクレア。嬉しそうだな?」


「敵と戦えるのは戦士としての楽しみですからね。最近は城の警護ばかりでつまらなかったから!」


「そうですか、そうですか、……」


あ~、やっぱりハイランダーズって戦闘部族なんだな~。


まあ、本体が剣なんだもの、しゃあないか……。


「ところで、外のシールドは誰が張り巡らせているんだ。マミーレイス婦人か? それともゴースト大臣ズか?」


「マミーレイス婦人です」


「どこにいる?」


「大広間の玉座前です」


「謁見室か……」


俺は早足で謁見室を目指した。


そして、謁見室に到着すると室内を見渡す。


薄暗い室内にはハイランダーズとミイラメイドたちが並んでおり、その先の玉座の横にマミーレイス婦人が立っていた。


マミーレイス婦人は純白ローブのフードで顔を隠しているが、豊満な胸のボリュームはローブの前から突き出ていた。


そのマミーレイス婦人の背後に十人のゴースト大臣ズが立っている。


魔物の幽霊で大臣だ。


外からはクジラ野郎がバリアーを乱打する音が響いていた。


俺は片膝をついて頭を垂らしたハイランダーズとミイラメイドたちの間を通ってマミーレイス婦人の前に立つ。


するとマミーレイス婦人から話し掛けて来た。


「お帰りなさいませ、旦那様」


そう言い頭を下げて来る。


「その旦那様ってのはやめてくれないか、マミーレイス婦人……」


「では、御主人様でよろしいでしょうか?」


「んん~、それも違うよな。すげ~堅苦しいぞ」


頭を下げたままのマミーレイス婦人が、更に畏まった口調で述べた。


「では、魔王様でよろしいでしょうか」


「魔王……?」


「はい、左様で御座います。魔王様」


俺は手をバタつかせながら否定する。


「おいおい、ちょっと待てよマミーレイス婦人! 誰が魔王だよ!!」


「あなた様で御座います。魔王様」


「おいおい、俺は魔王になる気は無いぞ!」


頭を上げたマミーレイス婦人が漆黒の表情で俺を見詰めながら言う。


「ですが、アスラン様は魔王城の主で御座います。それ即ち、魔王様であられる証し。故に名実ともに魔王を名乗る権利が御座います。何よりもここに集まりし魔物の騎士やメイドのアンデッドを連れて参ったのはあなた様ですからね。それが魔王の証しです」


正論すぎる。


すげ~正論なんだが……。


「いやぁ~、確かに連れてきたのは俺だけどさ~……。魔王ってのは、ちょっと~……」


マミーレイス婦人は俺の言い訳をアッサリと無視した。


「さあ、この玉座にお座りくださいませ、魔王様」


マミーレイス婦人が髑髏で飾られた禍々しい玉座に俺を促した。


あれに腰を下ろしたら、マジで魔王として祭り上げられてしまうぞ……。


それは不味くないか?


不味いよね……。


「ゴホンっ」


マミーレイス婦人が咳払いの後にしらじらしく騙り出す。


「魔王に成られましたら、宝物庫に入れますよ。宝物庫内の宝物すべてアスラン様の物になりますよ~」


誘惑!!


「マジで!!」


それは魅力的だ!!


魔王の宝物庫だろ!!


すげ~マジックアイテムがわんさかあるはずだ!!


それがすべて俺の物に!!


ハクスラスキル爆発だな!!


この得点は美味しいぞ!!


魔王になっちゃおうかな~……。


「あの~、質問が有るんだけど~」


「なんで御座いましょう?」


「魔王になったら、やっぱり世界征服とか目指さないとダメなのかな?」


それが面倒臭いのだ。


それに戦争なんてしたくない。


まっぴら御免だ。


「それはすべて魔王様のお気持ち次第で御座います」


「じゃあ、戦争しないで、ここで平和に暮らしてもいいんだね?」


「はい、当然で御座いますよ。ただ、魔物の王であることだけは忘れずにいてもらえますと助かりますわ」


「んん~~……」


俺は顎に手を当てて考え込んだ。


魔王になってもいいのだろうか?


これから結婚するスバルちゃんは怒らないだろうか?


婚約者が勝手に魔王を名乗り始めたら許してくれるだろうか?


婚約破棄とかにならないかな?


もしも俺とスバルちゃんの間に子供が出来たら、その子が学校で苛められないだろうか?


こっち来るなよ、お前の父ちゃん魔王なんだろ~。


やぁ~い、やぁ~い、魔王の子供~。


こんな感じで子供が苛められたら可愛そうだぞ!


なんでお父さんは魔王なの、お父さんが魔王だから、僕は学校で苛められるんだ!!


僕、将来は勇者になる。


勇者になってお父さんを討伐するんだ!!


そんなバイオレンスな積み木崩しな展開になったらどうしよう!?


こんなデンジャラスな家庭環境になっちまうんじゃあないか!?


それは不味いな。


目先の宝物庫に釣られて魔王になったら後悔するやも知れないぞ!


これはスバルちゃんに相談ぐらいしてから決めないとならないだろう。


その時である。


謁見室にスバルちゃんが飛び込んで来た。


噂をすればハゲである。


勿論スバルちゃんはハゲていない。


彼女は何やら慌てていた。


「アスランさん、大変よ! 街でモグラとクジラが暴れているわ!!」


そうスバルちゃんが叫んだ刹那である。


ハイランダーズたちとミイラメイドたちが一斉に片膝をついて苦しみだした。


中には倒れ込んで踠いている者もいる。


謁見室がいきなりの地獄絵図に変貌した。


「どうした、皆!? ぐがぅ!!」


何故に皆が苦痛に顔を歪めたかは直ぐに俺にも分かった。


「くさっ!!!」


悪臭だ。


スバルちゃんの体臭が臭って来たのだ。


それは悪臭を通り越して激臭だった。


鋼の魔物やアンデッドまで苦しめる激臭、恐るべし!!


流石は俺が魔王になったら妃になるお人だな!!


半端でない範囲攻撃を持ってやがるぜ!!


パタンっ!!


ああっーーー!!!


マミーレイス婦人が前のめりに倒れ込んだ!!!


まるで真っ直ぐな棒が倒れるようにパタリと倒れたぞ!!


この激臭はリッチまでも気絶させるのかよ!!!


ゴースト大臣ズもパタパタと倒れ出したよ!!


霊体にも有効ですか!!!


「うごっ!!」


俺はVの字に立てた人差し指と中指を自分の鼻の穴に突っ込みながらスバルちゃんに言った。


「ス、ズバルじやん、あぐじゅうが!! ぐずりはどうじだの!?」


スバルちゃんは自分の身体をクンカクンカしたあとに、舌を出しながら自分の頭をコチンと叩いた。


「慌ててたから、薬を飲むの忘れてたわ~……。てへぺろ♡」


次の瞬間、城の壁を突き破りクジラ巨人のパンチが飛んで来た。


バラバラと岩が降って来る。


「きゃ!!」


「危ない、スバルちゃん!!」


俺は咄嗟にスバルちゃんに駆け寄ってカイトシールドで落石をガードした。


「畜生! マミーレイス婦人が気絶したから魔法のシールドが解除されたのか!!」


クジラ巨人がパンチで開いた穴から城内を覗き込んでいた。


俺は息を止めながらグラディウスを腰から抜く。


そして、クジラを睨み上げた。


カイトシールドとグラディウスで両手がふさがり鼻が摘まめない。


これは息を止めていられる間の短期決戦だな。


ちょっと不利だがやるしかないだろう。



【つづく】

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― 新着の感想 ―
[一言] 最強キャラは激臭人間だったとはorz アルカナ衆もスバルちゃんだけで迎撃できるのでは……。
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