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第558話【キシリアとギレン】

閉められたトイレの扉の向こうから女性の啜り泣く声が聞こえてきていた。


その扉の前で俺は鼻糞をほじりながら彼女がトイレから出て来るのを待っていた。


トイレの中の女性はガルマルの町のお嬢様、キシリアだ。


そう、あのデラックスデブのお嬢様である。


「しくしく、しくしく……」


「お~い、いつまでも泣いてんなよ。早く出て来いよな~」


「だって、だって……」


何がだってだ。


柄に似合わずピュアなのか?


「ウ○コを漏らしたぐらいで泣くなよ。誰だって一度ぐらいはウ○コを漏らすもんだろ~」


「貴方は漏らしたことがあるの……?」


「何を漏らしったって?」


「な、何って……」


「なんだよ?」


「ウ○コを……」


「ウ○コをどうしたって?」


「…………」


「ハッキリ言えよ。ウ○コがどうしたって?」


「貴方はウ○コを漏らしたことがありますの!!」


「あるわけね~だろ。そんな恥ずかしい」


「うわぁぁああああ~~~!!!」


再びキシリアが泣き出した。


相当ウ○コを漏らしたのがショックのようだな。


まあ、十八歳になってウ○コを漏らしたらショックだろうさ。


俺なら町を歩けないぞ。


「おい、いつまで泣いてるんだ。この屋敷には鬼が複数居るんだぞ。早く出てこないと鬼に食われちまうぞ~」


「分かったは……。出て行くわよ……」


トイレの扉を開けたキシリアお嬢様が俯きながら個室から出て来る。


俯いた顎が三重顎になっていた。


そして、着ているのは赤茶色なジャージである。


「なんでジャージなんだ?」


「これは魔法学院の体操着ですわ……」


この異世界にジャージって有るんだな……。


キシリアお嬢様はモジモジと恥ずかしそうに言う。


「この事は、他言無用よ……」


「この事って、なんだよ?」


キシリアお嬢様が上目使いで睨み付けながら凄んで述べた。


「私がウ○コを漏らしたことよ……」


「分かったよ、誰にも言わないからさ。あんたがウ○コを漏らしたことは」


「絶対よ!?」


「ああ、分かった分かった」


「黙っててくれたら、私の旦那さんにしてあげるわ……」


「そんな条件出すと、ガルマルの町でキシリアお嬢様がウ○コを漏らしたって言いふらすぞ!」


「貴方は私と結婚したくないの!?」


「俺にはソドムタウンに婚約者が居るんだよ! ウ○コで繋がった両想いな婚約者なんだよ!!」


そう、ウ○コが切っ掛けでプロポーズしたのである。


「その絆は私のウ○コより重いの!?」


「重いよ! ビッグでハードなぐらい重いウ○コだよ!!」


「じゃあ、結婚は許してあげるは……。ちっ……」


「このお嬢様は、いきなりヤバイことを言いやがるな……」


俺たちは一息付いてから廊下に出た。


「ところで何でキシリアお嬢様が、こんなところに居るんだよ?」


俺たちは廊下を進みながら話した。


「お父様が貴方にお兄様の捕獲を命じたと聞いて、追いかけて来たのよ」


「一人でか?」


「ええ」


「黙ってか?」


「ええ」


「なんでだよ?」


「私は魔法学院で魔法学を学ぶ傍ら、呪術に関していろいろ調べたの」


「それで?」


「呪術のエネルギーは怒りや恨み……。要するに、兄は父を恨んでいるのよ」


「じゃあ、ここに来たのは兄ギレンを止めに来たと?」


「ええ、そう」


俺は足を止めた。


壁に隠し扉があるな。


後に板張りの床を見詰める。


カラクリの肝は床かな……。


「兄は前妻が死んだのは父のせいだと思っているは……」


しゃがんだ俺は床板を手で擦りながら話した。


「ギデンは妻の死は事故だって、言ってたぞ?」


「真相は私にも分からないは、だって私が産まれる前の話だもの……」


「まあ、ギレンはギデンを恨んでいる。それだけは間違いない。そして、その恨みがこの事件のエネルギーなのも間違いないさ」


「だから、私は兄を止めたいの。本当の兄は優しい人だから……」


「あったぞ」


俺は床板の一枚をはぐるとレバーを見つける。


「これを引けば~」


俺がレバーを引くと横の壁が動いて開く。


開いた壁の向こうには下る階段が有った。


「隠し階段……。よく分かったわね……」


「まあ、これでも一流の冒険者だからな」


俺は隠し扉の中を覗いてみた。


石の壁、石の階段。


階段の先は暗闇だ。


そして、複数の足跡が見える。


「この先に……」


「たぶん下にお前のお兄様が居るぞ。気配がプンプンするからな」


俺は異次元宝物庫から虫除けのランタンを取り出すと階段を下り出した。


後ろをキシリアお嬢様が付いて来る。


「無理しなくったっていいぞ。怖いなら上で待ってろよ」


「怖くないわよ……」


「だってお前はノーパンだろ。ノーガードは危険だぞ」


「ノーパンは関係無いわよ!!」


「も~、ガミガミと五月蝿いな~。そんなにヒステリックだと、貰い手が全員逃げて行くぞ」


「関係無いわよ……」


「なあ、ゴリなんてどうだ。お前ら幼馴染みなんだろ?」


「ゴリは嫌よ。身体は逞しいけれど顔がゴリラなんだもの……」


「やっぱりそれか……」


やはりゴリには整形手術が必要だな。


出来れば遺伝子レベルの大工事が必要だ。


「顔のことは目を瞑ってやれよ。身体だけで良いだろ」


「その言い方は、如何わしいわよ……。身体ばかりが目的に聞こえるわよ」


おっ、扉だ。


階段の最後に扉が有るぞ。


俺は扉の前に立つと耳を済ました。


音無し。


罠無し。


鍵無し。


でも、扉の向こうに気配有り。


誰か居るぞ。


しかも、複数だ。


俺は扉を開けて中に入った。


広い大部屋だ。


石作りの殺風景な部屋には、壁沿いにいろいろな錬金術の機械が並んでいる。


高い天井には場違いなシャンデリアが煌めいていた。


完全な実験室風だ。


「お邪魔しま~す」


俺とキシリアお嬢様が部屋に入ると、部屋の奥から男性の声が飛んで来る。


「やあ、アスランじゃあないか~」


長いソファーに男性が足を組んで座っていた。


一人だけだ。


中肉中背のハゲ頭。


ペンスさんだ。


俺はペンスさんに言った。


「あんた、ギレンだな」


ペンスさんは微笑みながら答える。


「ご名答、私がギレンだ」


するとペンスさんの姿が歪んだと思うと痩せたオールバックの男性に変わった。


声も変わっていた。


「幻術か?」


「呪術の肉体変化術だ。幻じゃあなく、実際に身体の形を変えているのだよ」


「それで魔法感知に引っ掛からないのか」


「この魔法が進んだ世界だと、魔力を使わない呪術は便利でね。ほとんど対策が取られていない。探知すらされないからな」


「お前は誰から呪術を習ったんだ?」


「二十年前に出会った異世界転生者の安倍晴明先生だ。我が儘言って、無理矢理弟子入りしてね」


「安倍晴明って、俺でも知ってる大物だぞ。でも安倍晴明って陰陽師じゃあなかったっけ? それが何故に呪いを?」


「私には呪術の才能だけがあってね。だから私は呪術だけを習ったんだよ」


「親父さんを呪うためにか?」


「そうだ」


ギレンは扇子で顔を扇ぎながら言う。


「それで、アスランくんは、何しに来たんだい?」


「あんたの親父さん、ギデンにお前を連れてこいと以来されてね。お前を幽閉するだとさ」


「幽閉は嫌だね」


ギレンが扇子を閉じると彼の足元から三体の鬼が浮き上がって来る。


石の床から延び出て来たのは、ロン毛のスマートな三本角の鬼、ポニーテールの女性の四本鬼、巨漢のマッチョマンな五本鬼の三体だった。


ロン毛の鬼は額に二本の角と後頭部に長い角を生やしている。


ポニーテールの鬼女は両耳の上に二本の角と両肩に二本の角を生やしている。


マッチョマンの鬼は額に二本、顎に二本、そして股間に長い角を一本生やしていた。


ギレンが言う。


「三角鬼、四角鬼、五角鬼だ。まずは彼らを倒せたら話の続きを聞いてやろう」


キシリアお嬢様が俺の後ろから心配そうに声を掛けてきた。


「アスラン様……」


俺は異次元宝物庫から二本のメイスを取り出しながら言う。


「安心しなって、優しく鬼を倒したら、兄妹で話し合えるように計らってやるからよ」


「あ、ありがとう、アスラン様……」


「感謝を述べるのは、まだ早いぜ~」


俺が取り出したメイスはパワーメイス+2とメイス+1である。


【パワーメイス+2。所有者の腕力小向上。命中率の向上】


【メイス+1。命中率の向上】


これなら鬼を殺す可能性も低くなるだろうさ。


刃物で闘うよりはましだろう。



【つづく】

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