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第551話【呪いの恨み】

ああ~、まだ頭の中でヒヨコがピーピーって鳴いてるよ。


耳鳴りが残る。


叩き付け攻撃で受けた傷をセルフヒールで癒したけれど、まだ首が痛いのである。


首間接の油が切れたようで動きが可笑しい。


ステージの中央ではジオンググが俺に折られた左腕を町の僧侶にヒールで癒してもらっていた。


僧侶はおばちゃんだ。


俺のストライクゾーンからは大きく外れている。


ジオンググは暗い表情で沈み込んでいた。


何せ連敗に続く連敗だもんな。


喧嘩馬鹿なジオンググにしてみればショックが大きいのだろう。


俺は胡座をかいて座っているジオンググに歩み寄ると問いかけた。


「なあ、ジオンググのオッサン。なんで俺を追いかけてまで喧嘩を売ってきたんだ?」


そう、それが疑問である。


ジオンググは眉を潜めながら答えた。


「それがな、記憶が無いんだ。お前に会場の外で喧嘩を売ってKOされたところまではハッキリと覚えているんだが、その後が朧気でな……。自分でもわけが分からないんだ……。気が付いたらここにいて、腕を折られて、足の甲も砕かれていたんだよ」


ジオンググは本当に悩んでいる。


本当に記憶が無いようだ。


ガイアが俺に破いた御札を見せながら言う。


「これは呪いの札だよ。こんな物を使ってまで喧嘩がしたかったのかい。人間って本当に可笑しい生き物なんだね~」


「呪いの札?」


「そう、魔法とは違うエネルギーを利用した禁術の一つのはずだよ。もう廃れて使われていないと思っていたけれど、誰かが復活させたのだろうさ」


「魔法とは違うのか?」


「魔法は魔力をエネルギーに発動する術だけれど、呪術は怒りや恨みなどの負の感情を利用した術なんだよ。仕組みがそもそも違うんだ」


ガソリン車と電気自動車ぐらいの違いかな?


「ガイア、詳しいな」


「これでも女神だからね」


まだ俺はガイアが偉い女神だとは信じられない。


何せ無限合法ロリ感が強いんだもの。


あと、怠惰で、いい加減で、遊んでばかりで、甘いお菓子が好きで、ワンパクなんだもの。


ただのガキとしか思えない。


でも、たまに賢いところを見せるのが歪に見えてならないのだ。


キャラを間違えてないかな。


「ジオンググのオッサン、あんた呪いなんて使えるのか?」


「いや、これは……、確か貰った……ような……」


ジオンググは考え込んでいた。


記憶がハッキリとしないようだ。


すると場外からゴリがステージに上がって来た。


「ガイアちゃん、その紙切れを見せてくれないか」


「ほいさ」


ゴリはガイアから破られた呪いの札を受けとると考え込む。


「俺もこれと一緒の物を貰ったぞ……」


「えっ、誰からだ?」


「お前が連れて来た商人のペンスさんだ」


「ペンスさんか?」


なんでペンスさんがゴリに呪いの札をくれるんだ?


わけが分からないぞ。


するとジオンググが何かを思い出した様子で言い出した。


「思い出した。俺も貰ったんだ。でも、そいつはギレンって名乗ってた……ような……」


名前が違う。


でも、ギレンって俺がガルマルの町に訪ねて行こうとしてた相手だな。


「ギレンの名前は俺も知ってるぞ。ギレンって、ガルマルの町の呪術師だ。たぶん呪いの札を差し出したのは、そいつに間違いないだろう」


だとすると、ペンスさんがゴリに呪いの札をくれたのは偶然なのか?


すると今度は領主ギデンがステージに上がって来た。


そして、ジオンググに問う。


「ジオンググ殿、今、ギレンと申しましたか……」


ジオンググは素直に答える。


「ああ、確かギレンって言ってたと思うんだが……」


ギデンは溜め息の後に少し間を開けてから言った。


「ギレンとは、私の息子だ……」


「「「息子!!」」」


何人かが驚いた。


ちょっと名前からして予想は出来ていたけれど、とりあえず俺も驚いておこう。


だって宇宙共和国っぽいんだもの。


「そうだ。私の最初の妻との間に出来た長男だ……」


ゴリが驚きの表情を崩さないままに言う。


「なんでそんな方が、ガルマルで呪術師なんて?」


ギデンは暗い表情で述べた。


「あれは家を捨てて出て言ったんだ」


ギレンが家出したのか。


なんでだろう?


ギデンは誰も訊いていないのに過去を語り出す。


「今の妻ミネバは二番目の妻でな、最初の妻マクベは事故で死んだのだ。その死んだ妻との間に儲けたのがギレンだ」


なるほど、あの奥さんは再婚相手なのね。


だとすると、キシリアお嬢様はどっちの子供なんだろう?


「だが、ギレンは妻マクベの事故を私のせいだと言って強く恨んでいた。そして年頃になると家を飛び出して行ったのだ。それが二十年ほど前の話でな……」


父を恨む息子が呪術師って怖くね?


家族扮装が超積み木崩し状態じゃんか……。


「それで、ここ二十年の間、ちょくちょく嫌がらせをしてくるんだ。最近は少なかったんだがね」


やっぱり今でも恨んでるんだ。


「嫌がらせって、どんなことさ?」


「最初は屋敷の玄関前に犬の死体を放置されたり、郵便ポストに鶏の首を放り込まれたりと、小さかったが……」


小さいけれど陰気だよ!!


陰険だよ!!


「でも、最近だとドズルルの町に呪いを振り撒いて大掛かりになってきているんだ……」


それが住人の鬼化かよ……。


ヤバくね?


俺はジオンググの肩に手を乗せながら言った。


「ジオンググのオッサンは何も悪くないぞ。むしろあんたは被害者だ。この馬鹿親父に賠償金を請求するべきだぞ」


「ああ、賠償金は考えておく……」


ギデンが俺を睨みながら言う。


「なあ、アスランとやら」


うわっ、怒らせちゃったかな……。


ちょっと言い過ぎたかな。


「キミは冒険者と聞いているが、一つ依頼を頼んでいいかな」


「えっ、依頼?」


睨みながら言うから怒られるかと思ったのに、依頼かよ。


「依頼って、なんだよ?」


「息子ギレンを捕まえてきてもらいたい。拘束して屋敷の地下に幽閉したいのだ」


「親父が息子を幽閉かよ?」


「これ以上は家族の問題に他人を巻き込むわけには行かないのだ……」


「分かったぜ。どうせギレンには会いに行く途中だったんだ。その依頼を受けてやるよ。ただし、連れて来れるかは分からないぜ」


ギデンは俯きながら述べた。


「最悪は、殺しても構わない……」


父親が息子を殺せだと……。


お前にその気が有っても俺は嫌だぞ。


何せ俺は転生して来てからアンデッドは殺して来たが、人間だけは殺めたことが無いんだからさ。


俺は言った。


「断る。だが、引き受ける」


「どう言うことだ、アスラン?」


「殺しはしないってことだ。連れて来るなら、殺さずに連れてきてやる」


「誠か!?」


「ああ、本当だ。ただし成功の暁には高く付くぜ」


「金か?」


「金は要らない。そこそこ有るからな」


「じゃあ何を?」


「そうだな、何か家宝をくれや」


「家宝?」


「レアなマジックアイテムだよ。俺はマジックアイテムに目がないんだ」


「良かろう。私が王都の闘技場でチャンピオンだったころに使っていたマジックアイテムを譲渡してやる」


「マジか!?」


チャンピオンが使っていたマジックアイテムならレアリティも間違い無いだろう。


たぶん優れた代物だ。


期待が出来るぞ。


これは俺のハクスラスキルが久々に爆発しそうなクエストになりそうだな。


テンションが上がって来たわ~。



【つづく】

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