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第544話【決勝戦は突然に】

ステージを降りたゴリが俯きながら会場を出て行った。


そのゴリの姿を観客たちが見送る。


「ドンマイ」とか「良くやった~」とかと、どうでもいい声援が飛んで来る。


俺もゴリの後ろに続いて会場を出て行った。


会場を出るとゴリは近くの民家の壁に背を預けながら腰を下ろした。


表情はとても暗い。


ゴメスを被ったゴリの頭からは血が溢れているが、出血は既に止まっているようだ。


エクスカリバーチョップを二回も脳天に食らったんだ、ハゲ頭が割れたのだろう。


立ったままの俺は腰を下ろしたゴリの前に進むと明るく話し掛けた。


「ゴリ、フラれちまったな~」


「ああ、見事にフラれたよ……」


ゴリは試合が引き分けに終わったショックよりも、失恋のダメージのほうが大きそうだった。


しかし、ゴリがデブ専だったとは思わなかったぜ。


「キシリアお嬢様とは、幼馴染みだったのか?」


「同じ先生が経営していた学校で、同じころに習っていただけだよ……」


「でもよ、見事にフラれたんだ。スッキリしただろ」


「ああ、未練は無い」


ゴリは俯いて項垂れていたが、言う通り未練は無さそうだ。


少しサッパリした表情でもある。


「これからどうする、ゴリ?」


「祭りが終わったら、ガイアちゃんを連れてソドムタウンに帰るよ」


「決勝戦まで見て行くのか?」


「いや、見ない。間違いなくジオンググが優勝だろうからな。あいつの二連覇を祝う気なんてないぜ」


「だよな~。他人の勝利を祝っても面白くないしな。それじゃあ俺も旅立つぜ~」


「えっ、もう行くのか?」


「別に祭りに興味は無いしさ。さっさとドズルルに向かって、用事を済ませたいからな。俺にはスバルちゃんが待っているからよ」


「そうか……」


ゴリが立ち上がると頭に被っていたゴメスを俺に差し出した。


「ヅラ、返すぜ」


俺は自分の頭を撫でながら言った。


「そのヅラはくれてやる。お前も坊主は卒業しろよ。それに俺もだいぶ髪の毛が生えてきたしさ」


まだまだベリーショートだが、ゴルフ場の芝生ぐらいには髪が生え揃っている。


もうハゲとは呼ばれないレベルだろう。


「でも、これはお前の使い魔だろ?」


「譲渡してやるぞ。指を付き出せよ」


ゴリが俺に言われるまま人差し指を突き出した。


俺はゴリの人差し指に自分の人差し指の先をくっ付けてから念じる。


すると俺とゴリの指先が一瞬輝く。


「よし、これで使いまの譲渡契約完了だ。そのゴメスは今日からお前の使いまだぞ。良かったな、ハゲ卒業だぜ。お前もヅラ一年生だ」


「アスラン、助かるぜ。これで少しは女の子にモテるだろうさ」


女の子にモテたくば、顔の整形手術も必要だろう。


それも、かなり大掛かりな大工事になりそうだしよ。


「じゃあ、俺はこのまま町を出て行くぜ」


「分かった。俺は家族と喧嘩祭りを最後まで見てから帰るわ」


「ほいじゃあな~」


「おう、アスラン」


俺は踵を返すと手を振りながら会場を離れて行った。


これで俺の喧嘩祭りは終わりだ。


あとは、勝手にやってくれって感じだわ。


「さて、ペンスさんを探してトットと出発しようか。……んん?」


俺が喧嘩祭りの会場を離れて町のほうに歩きだすと、突然俺の前方を大柄の男が道をふさいだ。


「なんだ……?」


その男はジオンググだった。


「あれ、あんた準決勝を戦ってるんじゃないのか?」


ジオンググは凄んだ声で言う。


「そんなこと、どうでもいい。貴様に用事が有って来た」


仁王立ちのジオンググは筋肉をピクピクさせている。


額には青筋が走っていた。


なんだか穏便に終わりそうにない空気だ。


「用事って、なんだよ?」


「俺は納得していない。グゲルグもグフザクも俺に勝てるような玉じゃあない」


分かりきってることだろう。


あの二人と、このオッサンとではレベルが違う。


各が異なるってことだ。


あの二人では、おそらく逆立ちしてもジオンググには勝てないだろう。


二つ名の通りに一発で終わることだろうさ。


俺は腰に手を当てながら言った。


「だろうな。だから前もって言っておくよ。優勝おめでとうさん」


「くだらん……」


ジオンググは表情を怒らせながら言った。


そして、身体の筋肉をヒク付かせながら言葉を続ける。


「貴様、俺と戦え!!」


「えっ、なんで~……?」


いきなり何を言い出すの、このオッサンは?


ギデンに殴られ過ぎて頭が可笑しくなったのか?


そう言えば、ギデンに受けた傷が治っているな。


誰かにヒールでも掛けて貰ったのかな。


ジオンググは俺に近寄りながら言う。


「本来ならば、お前が決勝戦で俺と当たるべき実力者だったはずだ!」


「いや、俺は負けたからさ……」


「そんな言い訳、聞かぬわ!!」


ジオンググは俺の眼前で身体を捻りながら拳を振り被った。


背を見せるほどに身体を捻ったテレホンパンチのモーションだ。


殴りかかって来る気なのか?


マジかよ……。


ジオンググが背を見せたモーションのまま凄んで述べた。


「これは、喧嘩祭りだ。誰が誰と喧嘩を繰り広げるかは、当人たちが勝手に決めるべきことなんだよ!!」


「そんなアホな~……」


「うらぁぁああああ!!」


勢い良く振り向いたジオンググが巨大な拳を振るった。


その豪拳が俺の顔面に迫る。


威圧、気迫、凄み、傲慢が乗ったド級のパンチが俺に飛んで来た。


拳が大きく見えた。


まるで直径1メートルのパンチに映る。


「なんでーー!!」


俺は顔の前に両腕を並べて盾を築いた。


その腕をジオンググの拳が全力で殴り付けた。


「ウッァァアアア!!!」


「うほっ!?」


凄い衝撃だった。


並べた腕を貫通して衝撃が俺の頭部を激しく揺らした。


揺らしただけじゃあない。


俺の身体がパンチに飛ばされる。


ガードもろとも弾き飛ばされたのだ。


視界が揺れて、気が付いたら5メートル後方に立っていた。


「押されたのか……!?」


鋼鉄の左腕は平気だが、生身の右腕が痺れて痛い。


拳と言うよりも鉄鎚で殴られた感じである。


「なんつ~パンチだぁ……」


痺れた腕を振りながら俺はジオンググを睨み返した。


「このオッサンは、俺に喧嘩を売ってるんかい!?」


「そうだ!!」


筋肉質な肩を揺らしながらジオンググが俺に向かって迫って来る。


「この喧嘩が、今年の喧嘩祭りの決勝戦だ。俺はお前を倒して名実ともに二連覇を達成するぜ!!」


うわぉ~~……。


勝手なことを抜かしてやがるな~。


この親父はマジで喧嘩馬鹿だよ……。



【つづく】

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