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第535話【喧嘩祭り】

ガルマルの町の収穫祭二日目。


ついに喧嘩祭り予選会の当日だ。


俺はゴリの実家の客間で目が覚めた。


「ううぅ~~」


俺は背筋を伸ばしてからベッドを出た。


そのまま窓まで歩くと家の外を見回す。


「うむ、清々しい朝であるな」


俺が窓から外を見ると、畑の前に小さなテントが建っていた。


ペンスさんのテントだ。


昨晩俺がテントを回収に行った際に、ペンスさんもゴリの家に誘おうと連れてきたのだが、連れてきてから奥さんに部屋が無いと言われたのだ。


客間は満室になってしまっている。


だからペンスさんは庭先にテントを建て直して寝たらしい。


馬や牛が居る納屋なら好きに使っていいと言われたが、獣臭いのがダメだとペンスさんが断ったのだ。


なんだか、ペンスさんには悪いことをした思いが残ってしまう。


余計なことをしたのかも知れない。


「あれ?」


俺が二階の窓からペンスさんのテントを眺めていると、ゴリのかーちゃんが現れる。


お盆の上にコーヒーカップを乗せていた。


そして、テントに話し掛けるとペンスさんが顔を出す。


ペンスさんはペコペコしながらコーヒーカップを受け取った。


暖かいコーヒーでも飲んでいるのだろうか?


その表情から感謝の念が伝わってきた。


「ゴリのかーちゃんは、本当に出来た女性だな。あれで人間だったら最高の嫁さんなのに……」


俺もスケスケパープルのネグリジェから私服に着替えると客間を出て一階の食堂に下りて行く。


今日は喧嘩祭りの予選会なので、防具もマジックアイテムも身に付けていない。


禁止されているからな。


予選が始まってから外すのも面倒臭いから、最初っから装備を外して置いたのだ。


「おはよ~、皆さ~ん」


俺が食堂に下りるとゴリ一家とガイアが朝食を食べていた。


ササビーさんとゴリの姉さんは居ない。


ゴリのかーちゃんが俺に訊いてきた。


「アスランさんも朝食にしますか。簡単なサラダと魚のスープですが、どういたします?」


「頂きますよ~」


俺は微笑みながら空いている席に付いた。


そのあとはワイワイと話ながら朝食を取った。


流石は祭りの期間だな。


朝から賑やかである。


そして時は流れて昼頃に俺とゴリは喧嘩祭りの会場に向かった。


毎年喧嘩祭りに参加しているゴリのアドバイスで俺たちは昼飯を食べなかった。


腹を殴られて吐いたら大変だからだ。


たまに観客の前でゲロる奴も居るらしい。


流石に祭りの席で、そんな醜態は見せられないな。


来年も喧嘩祭りに参加する際に、去年ゲロった野郎だなんて言われたくない。


俺とゴリが喧嘩祭りの会場に到着すると、擂り鉢状の丘には見物の観客たちが席を陣取って酒を皆で煽っていた。


会場は賑やかだ。


ワイワイと五月蝿い。


人の喧嘩を魚に酒を飲むのは旨いのだろう。


既に外野は盛り上がっていた。


すると厚紙を丸めただけのメガホンで進行役らしい人物が叫びだした。


『それでは、そろそろ喧嘩祭りの予選会を始めます。参加希望者は闘技場のステージにお登りくださいませ!』


俺とゴリは言われるままに闘技場のステージに登った。


他の参加者と思われる人々も続々とステージに登りだした。


ステージの上を見回したゴリが言う。


「今回の参加者は五十人ぐらいかな……」


俺もステージの上の面々をグルッと眺めてみた。


顔付きや体型で大体の強さが悟れる。


目ぼしい強者はリーゼント野郎にモヒカン野郎、日焼けしたマッチョマンに、身長2メートルを越えているデカブツ野郎かな。


俺が辺りを見回しているとササビーさんを見つける。


向こうも俺らに気が付いて此方に寄って来た。


「よう、二人とも、いたいた」


「ササビー兄さん、既に来ていたんですね」


「ああ、ゴリ君。予選は三人で組んで突破しないかい?」


「そうですね。それが得策だ」


俺は二人に問う。


「予選会で組むとかってありなのか?」


ササビーさんが答える。


「予選会はバトルロイアルなんだけど、参加者が結託するのも許されているんだ。だからこの喧嘩祭りて連覇はなかなか無いんだよね。優勝者は皆に狙われるからさ」


「へぇ~、政治的な策略もありなんだ~」


すると会場にドヨメキが沸き上がった。


観客の視線がステージの外に集まる。


「なんだ?」


俺も釣られて視線の先を見る。


そこには凛々しい表情のオッサンが歩いていた。


オッサンは皆の視線を集めながらステージに堂々とインする。


ゴリが俺に耳打ちしてきた。


「去年の優勝者ジオンググだ。去年は対戦者を全員パンチ一撃で伸して優勝したんだよ」


「あいつが去年の優勝者か~」


確かに凛々しく勇ましい表情のオッサンだ。


体格も良いな。


俺はジオンググの手を観察した。


大きな手だ。


拳を握っていないが、握力の強さを感じられる。


何より拳に刻まれた小さな傷の数々が凄い。


まるで岩石の拳だ。


どうやら人を殴り付けてきた喧嘩の数が多いのだろう。


確実に喧嘩慣れしている。


俺はゴリとササビーさんに訊いてみた。


「あのジオンググってオッサンの職業はなんなんだ?」


「石細工職人だって聞いている。でも、若いころは別の町で、派手に喧嘩をして回ってた噂だ」


「喧嘩のプロなのか」


ササビーさんが言う。


「でも、さっきも言ったけど、彼は今年の予選は突破できないよ。何せ皆に一番で狙われるからね」


優勝者潰しか。


「なるほど。マークする必要も無いのか」


すると再び会場が賑やかになる。


だが、その声は明るかった。


何だろうかと俺が辺りを見回すと、会場の特等席に巨漢で身形の良いオッサンが現れたのだ。


その身形の良い中年オッサンは体格だけでなく、顔面も強面だった。


そして綺麗なドレスを着こんだ美人の女性を連れている。


強面のオッサンは片手を軽く振って会場に挨拶を飛ばすと玉座に腰を下ろした。


美人のオバサンも隣の席に腰を下ろす。


ゴリが言う。


「このガルマルの街の領主様のギデン様だ。隣が奥さんのミネバ様だよ」


席は三つあるが、一つは空席のままだ。


件のお嬢様であるキシリア嬢の姿がない。


メガホンを持った進行役が話を進める。


『それではガルマル喧嘩祭りを開催します。本日は予選会のみですが、リング上の参加者が八名に減るまで戦いは続きます。その八名とキシリアお嬢様との見合いが夜のパーティーで開かれます!』


進行役が叫んでいると、外野からヤジが飛ぶ。


「そんなことより、キシリアお嬢様はどうした! 顔ぐらい見せてくれよ!」


進行役がデギンの表情を伺うと、デギンが軽く頷いた。


すると進行役が事情を話し出す。


『キシリアお嬢様は昨晩食べた陸の生牡蠣が当たりまして、本日は欠席です。本人からも申し訳無いとのことです!』


陸の生牡蠣?


なんじゃそりゃあ。


この辺には海が無い。


だからやっぱり陸に居る牡蠣なのかな?


『なので本日の予選会は、キシリアお嬢様は抜きで行われます』


外野やステージの上で囁かれる。


「美人に育ったキシリアお嬢様を一目見たかったな~」


俺はササビーさんに訊いた。


「あれ、キシリアお嬢様は、皆の前に姿を見せたことが無いのか?」


「ああ、魔法学院から帰ってからはお屋敷に閉じ籠りっきりで、家族と使用人ぐらいにしか会ってないらしいんだ。なんでも内気な性格らしいよ」


「内気なのかよ」


「でも、噂ではかなり美人に育ったらしいからね。だから町の人々も早くキシリアお嬢様を見てみたいんだよ。そう言えば、ゴリ君って、キシリアお嬢様と幼馴染みだったよね?」


ゴリは照れながら言う。


「ただ、子供のころに同じ学校で勉学を学んだだけだよ」


「あれ、ゴリってもしかして、キシリアお嬢様が好きなのか?」


「ま、まさか! キシリアお嬢様と冒険者崩れの俺とじゃあ釣り合わないよ!」


「でも、キシリアお嬢様の親父さんだって、闘技場の戦士だったんだろ。ならば、そんなの関係無くないか?」


「そ、そうかな……」


なんだ、このゴリラ野郎も満更でも無いんじゃあないか。


『それでは、喧嘩祭り予選会を始めます。まずは知らない者たちにルール説明だ!』


この進行役のオッサンも祭だけあってテンションが高いな。


ノリノリだよ。


『ルールは簡単だ。八名が残るまで戦ってもらう。武器、防具、マジックアイテム、魔法の使用は一切禁止だ。それと殺しも禁止ね。失格条件は場外に落ちるまでだ。ノックダウンしても気絶しても場外に落ちなければセーフである!!』


なるほど、反則とリングアウトだけが失格なのね。


『それでは、私が鐘を鳴らしたら試合開始になります!!』


進行役が木槌を振りかぶると会場が息を飲んで静まり返った。


緊張感で静まり返った会場にガイアの声が静かに響いた。


「アスランがんばれ~」


俺はガイアに向かってVサインを返した。


すると進行役が木槌で鐘を叩いた。


カンカンカンーーー!!


『試合開始!!!』


「「「「おおおおおおおつっ!!!

」」」」


喧嘩祭りが始まった。


一斉に会場が沸き上がる。



【つづく】

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