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第522話【アッサリと落ちる】

予想外の人物が参上した。


まさかのマミーレイス婦人が俺の背後に登場しやがった。


って、ことは……。


俺の後頭部に当たっている柔らかい温もりは、マミーレイス婦人のパイオツですか!?


「やわらか~~い」


あたたたたたっ!!!!


心臓がっ!!!


俺が呪いに苦しみ目を細めた瞬間だった。


辺りが急に暗くなる。


それは漆黒に近い闇だった。


だが、感染した鋼鉄のモンスターたちはハッキリと見えている。


景色だけが漆黒に染まっているようなのだ。


「な、なんだこれは……」


マミーレイス婦人がゆっくりとした口調で答える。


『魔法結界の一種ですわ』


「魔法の結界かよ……」


『わたくしはアンデッドモンスターですから日の光を避けなければなりませんの。お肌が日焼けして荒れちゃいますもの』


「そ、そうなん……」


確かに空も景色も真っ黒だ。


太陽の光は閉ざされている。


すると前方の感染者たちが地面に沈み始めた。


エルフの感染者たちも、ミケランジェロの巨漢も漆黒の地面に沈みだす。


まるでタールの海に沈み込んで行くような感じに見えた。


「これは、異次元宝物庫か!?」


『少し違いますは、異次元の牢獄に転送しているのですよ』


「いやいや、ちょっと待て、マミーレイス婦人!!」


『何ですか、旦那様?』


「あれは、鋼鉄に感染してるが俺らの仲間だ。仲間を牢獄に幽閉なんて許さんぞ!!」


『なるほどですわ。では、メタルキャリアさんを捕らえて感染を解いて貰いましょう~』


「えっ、メタルキャリアを知ってるのか、マミーレイス婦人……?」


長身のマミーレイス婦人は頭から被ったローブを揺らしながら言った。


顔はフードで見えないが微笑んでいるようだ。


『はい、千年ほど前に捕らえて地下牢に幽閉したのは、このわたくしですから~♡』


「マジで!!」


『マジですわぁ~♡』


驚きの事実だな。


てか、アイツは千年も幽閉されてたのかよ。


『相性の差ですわ。わたくしはアンデッドですから鋼鉄病に感染しませんし、空間を操作する魔法が得意ですから、メタルキャリアさんの動きを封じるのが容易いのですよ~♡』


あの感染病はアンデッドに効かないのか。


しかもメタルキャリアって物理攻撃魔法以外には弱いのかよ。


「わあぉ……。便利なマダムだな……。今まで俺たちが頑張っていたのが馬鹿らしいぞ……」


鉄拳でKOされたミケランジェロが可哀想に思えてきた……。


「ぐわわわ!!」


タールの闇に首まで漬かったメタルキャリアが言う。


「おのれぇ~……。マミーレイス婦人、まだ生きてたんかい……。魔王が死んだって聞いたから、とっくに死んでるかと思ったのにさ……。残念!!」


いや、マミーレイス婦人はアンデッドだから死んでるぞ。


本当に馬鹿だな、こいつ。


『メタルキャリアさん、感染者を解放するなら殺さずにまた幽閉で許してあげるわよ。もしも感染者を解放しないなら、あなたを殺して呪いを強制解除しちゃいますわよ~♡』


メタルキャリアは悔しそうに言う。


「くっ、糞が……。だが、殺されるよりはましだ。感染の呪いを解くから殺さないでくれ……」


すると次々と感染者たちが鋼鉄から人肌に色を戻して行く。


観念したメタルキャリアが素直に感染病の呪いを解いてくれたらしい。


だが、回復した感染者たちは気絶しているようだった。


ぐったりと倒れ込む。


「あれ、死んでねえか?」


「感染からの後遺症で意識を失っているだけだ。一時間もすれば目覚めるだろうさ」


「お前、アッサリと諦めたな?」


「ジャンケンのグーは、チョキには勝てないだろ……」


「いや、普通はグーがチョキに勝つぞ?」


「あっ、ごめん、間違えた。もう一回やり直しね」


メタルキャリアは咳払いの後に言い直す。


「ジャンケンでグーはパーに勝てないだろ。俺は不器用でな、グーしか出せないんだよ……。だからマミーレイス婦人には絶対に勝てない……。もしも俺にパーが出せたのなら、あの巨乳をパーでワシャワシャと揉んでやったのによ……。畜生が……」


「おまえ、思ったより良い奴なんだな」


「そうかい。惚れるなよ」


「じゃあ、もしもアンタにチョキがだせるなら、どう攻める?」


「目潰しかな」


うん、同類だ。


俺と同類の匂いがするぞ。


悪臭だけど……。


「なあ、メタルキャリア。お前を魔王にしてはやれないが、俺たちの仲間にならないか?」


「人間の仲間にか?」


「人間だけじゃあねえよ。今現在魔王城は復興作業中だ。いろんな人種が力を合わせて暮らしている。人間、エルフ、小人、サイクロプス、ハイランダーズ、アンデッド、クラーケン、ミミックまで居やがる。別に世界征服なんて企んでいないが、どうだ、仲間になって、一緒に平和な魔王城を作り出さないか!?」


「平和な魔王城?」


「そうだ」


「なかなか、面白そうな提案だな……」


一瞬だけ黙ったメタルキャリアが次の瞬間に力強く言った。


「だが、断る!!」


「…………………マミーレイス婦人。こいつ、無期懲役ね。終身刑ね」


「了解しましたわ~♡」


「うそ嘘ウソ、仲間になりますから!!」


こうしてメタルキャリアが魔王城街の仲間にアッサリと加わったのである。


また、お馬鹿な住人が増えましたとさ。



【つづく】

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[一言] 皆バカだけど戦力やべー。
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