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第488話【ノストラダムスの予言】

俺はヒューマンキラーを空振って切っ先にヘバリ付いた鮮血を払うと鞘に納めてから異次元宝物庫に入れた。


それから残りの二人を睨み付けながら述べる。


「さてっと──。お二人さんは、どうするよ?」


残るは老人のクローンとノストラダムスだ。


二人とも魔法使いっぽい成りだな。


だとすると、レベル次第で厄介だぞ。


俺はどちらかって言えば戦士系のスタイルだ。


マジックユーザーと戦うのは正直なところ苦手である。


しかも相手は二人だ。


それでも俺は視線での威嚇だけは絶やさない。


連戦中だが、まだまだ戦えるだろう。


すると老人のクローンが手にしていたスタッフとオーブを床に投げた。


木材が跳ねる音とガラス玉が転がる音が別々に響く。


「ワシは降伏するぞい……。元々は明日明後日死ぬやも知れない僅かな命だ。ここで死んでも欲しくない」


「…………」


ノストラダムスの奴は漆黒のフードで表情を隠していたが、溜め息混じりで老人のクローンを見ていた。


俺は老人のクローンに言う。


「お前が俺のクローンならば、その言葉は以外だな」


「以外とは?」


「俺ならどんな時でも最後まで諦めないからよ。こいつのようにさ」


俺は足元に横たわるクローンの遺体を見ながら行った。


そう、俺は諦めが悪いのだ。


俺なら最後まで戦うはずである。


すると老人のクローンは微笑みながら返してきた。


「諦めたわけではないのだ。もう十分に生きた。身体も老化が進んでつらい。腰も痛いし、目も霞む。ここがそろそろの潮時だ。悟ったのだよ。自分の最後をな」


「まあ、いいさ。俺も老いたら潔くなるってことなのかな。歳を取るって、角が削れて色々と丸くなるんだな」


「それも、お主が歳を取れば分かってくる境地だ。今は何も考えず真っ直ぐに進めば良い」


「未来からの伝言かよ……」


「普通の人間ならば、なかなか聞けない話だぞい」


「分かったぜ。感謝する」


「お前さんに感謝された段階で、我が人生に悔いなしだわい。それこそ感謝する」


感謝されちゃったよ。


なんか、むず痒い……。


ここでノストラダムスがユラリと動いた。


「ならば、アスマジよ。そろそろこの実験は終わりでいいな」


アスマジが悔い無き表情で返す。


「ああ、終わりだ……」


俺はノストラダムスを睨みながら訊いてみた。


「実験って、なんだよ?」


ノストラダムスは漆黒のローブ内から一冊の分厚い書物を取り出すと言う。


「未来の予言だ」


「予言?」


「この世界の行く末を予言していた」


「お前の予言はハズレただろ?」


「んん??」


「1999年にハルマゲドンなんて起きなかったぞ?」


「貴様は私の未来から来たのか?」


「ああ、20XX年から来た」


「それは分岐点の違いだ。どこぞやのヒーローが映画気取りで世界の終止符を人知れずに回避して見せたのだろうさ」


「なに、そうだったのか!!」


いったい世界を救ったのはどんなスーパーヒーローだったのだろう?


マーブル系かな、それともDC系かな?


もしかしたらジャパニメーションのヒーローかな?


まあ、なんでもいいか……。


「それで、今回はこの世界で何を企んでいるんだ、ノストラダムスさんよ?」


ノストラダムスは漆黒のローブを僅かに揺らしながら答えた。


「はっはっはっ。私は預言者だ。ただ未来を見たがる賢者に過ぎない。だから、この研究所で未来を推測していたんだ」


「テイアーが放棄したクローン実験から、何を見いだした?」


「魔王復活だ」


「魔王復活だと……?」


「だが、これは予言にも匹敵しない実験だった。これが未来に繋がる可能性は有るが、確実な予言とは呼べない。低い可能性の一つにしか過ぎないかな」


言いながらノストラダムスは分厚い書物を開いて羽根ペンで何かを記載し始める。


「何を書いてやがる?」


「実験のレポートだよ。これで実験が終わったってね」


「終わりだと、どうなる?」


ノストラダムスがパタリと書物を閉じた。


「実験が終了したのなら、次は撤収だろうさ」


ノストラダムスが気取った素振りで指をパチンと鳴らした。


すると部屋の中央に真っ黒な球体が穴を広げる。


「魔法か!?」


突然出現したその漆黒の球体は渦巻きながら周囲の空気を勢い良く吸い込み始めた。


それはまるで嵐だ。


室内を竜巻が襲ったかのように激しく荒らした。


「なんだ、これは!!」


球体の吸引力は、俺の身体を吸い上げるほどではない。


しかし、立っているのがやっとの強風である。


しかも、俺の身体から魔力が吸い取られるのが感じられた。


俺の身体から、俺の身に付けたマジックアイテムの数々から霧のような光りが浮き上がり球体に吸い込まれて行く。


「魔力を吸ってやがるのか!?」


「以下にも。この研究所の魔力をすべて吸い取らせてもらうぞ」


「そんなことをしたらテメーだって!!」


「私は先に撤収させてもらいます」


ノストラダムスが言うなり足元に魔法陣が輝きだした。


「では、お先に───」


その言葉を最後にノストラダムスの姿が瞬時に消えた。


「テレポートかよ!?」


ノストラダムスが消えた後に魔法陣の光りも球体に吸い込まれて消える。


どんどん球体が魔力を吸い取って行く。


そんな中でアスマジが俺に述べた。


「オリジナルよ」


「なんだっ!?」


「この魔力吸収魔法がクローン研究所全体の魔力を吸い取っている。おそらくバイオ室の魔力はもともと少ない魔力で機動してたから、もう昨日は停止しているだろうさ」


「要するに、もうクローンは作られないと?」


「だが、設備は残る。それを最後にお前さんが破壊してもらえないかの」


「なんで俺が!?」


「オリジナルの役目だと思ってくれ」


「えー、やだー、面倒臭いよー」


「わがまま言うな!!」


「ブーブー」


「兎に角、最後の始末は頼んだぞ……」


そう述べたアスマジの足が地面から離れた。


アスマジの身体が球体に吸い寄せられて行く。


「爺さん!!」


「この球体は、ワシに任せておけ」


球体に吸い込まれたアスマジの顔は笑顔だった。


しわくちゃな表情で満面な笑みを見せている。


そしてアスマジが球体の中に吸い込まれた刹那に嵐が収まる。


一瞬で球体が消滅したのだ。


ダンジョンの室内に静けさが戻った。


「行っちまった……。俺の未来が……」


室内に充満していた魔力の残留が綺麗に消えていた。


床に倒れたアスエボの身体からも魔力が失われている。


「あー、マジックアイテムは残ってるよ」


俺はアスエボの二剣とアスマジが残したスタッフとオーブを拾い上げると魔力感知スキルでアイテムを凝視した。


「マジックアイテムの魔力までは吸いきれなかったようだな」


俺はマジックアイテムを異次元宝物庫内に納める。


「これで、終わりか……さて、先に進むかな」


俺は進み始めた歩みを止めると踵を返した。


「いや、まずはバイオ室の製造設備を破壊してくるか……」



【つづく】

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