第481話【三体のクローンと対決】
「アスパンが……」
「畜生、殺りやがったな……」
俺がメリケンサックを武装したクローンに勝利すると、三体のクローンが武器を構えて前に出た。
バトルアックス、ウォーハンマー、ショートスピアだ。
この三つの武器もマジックアイテムだ。
メリケンサックがそうで有ったように、この武器も何らかの能力を秘めている可能性が高い。
そして、こいつらの実力もメリケンサックのクローンと同等だろう。
んん?
あれ?
なんか、こいつら、躊躇していないか?
何故か襲い掛かってこないぞ?
視線でチラチラとアイコンタクトを取っているばかりだ。
あー、分かったわ~。
俺もお前らなんだ。
だから分かるぞ。
こいつらは、誰が一番で飛び掛かるかを、なすり付けあっている。
俺がメリケンサックのクローンを倒したことで怖じ気づいているのかな?
あー、分かったぞ。
多分あれだな。
四天王で言うところの一番強い奴が一番最初に倒されて、残りの三人が躊躇し始めたって感じだろう。
俺の予想が正しければ、こいつら三体はメリケンサックのクローンよりも弱いんだ。
しかも桁違いなのかも知れない。
「うふっ♡」
やべぇ~。
ついつい嫌らしい笑みが溢れてしまった。
俺の笑みを見たクローンたちが若干引いてるぞ。
だが、勝機は見えたぜ。
メリケンサックのクローンから受けたダメージを引いても、これなら勝てるだろう。
俺は腰から更なる一太刀を引き抜いた。
黄金剣の大小を両手で構える。
二刀流だ。
「いざっ!」
声に出して凄んで見せた。
黄金剣を持った両腕を左右に広げて大きく構える。
威嚇である。
大きく構えることで自分を大きく見せる戦法だ。
昆虫や動物でも使われる単純な威嚇である。
カマキリは両鎌を頭部の横に並べて身体を左右に振る。
熊は後ろ足で立って、両手を上げることで、更に身体を大きく見せる。
カンガルーや大蟻食い、レッサーパンダだって同じ構えを見せる。
腕を広げて大きく見せる構えは、天然ですらある古代からのポピュラーな構えだ。
故に脅しとしては効果的な構えである。
「くくぅ……」
案の定だ。
前に出ていたクローンたちが一歩後ろに下がった。
俺の威圧に押されているのだ。
こうなれば、俺の予想が正しかったことが証明されたようなものである。
こいつらは、メリケンサックのクローンよりも弱い。
間違いない。
ならば、勝てる!!
ジリッ───。
俺が一歩前に出ると室内の緊張感が上昇する。
空気が熱を上げながら冷ややかに流れる。
「そっちから来ないなら、こっちから行くぞ!」
俺が低い声で唸るように述べるとウォーハンマーのクローンが喉を鳴らして唾を飲んだ。
敵のフォーメーションは、バトルアックスのクローンが右前方、ウォーハンマーのクローンが左前方、ショートスピアのクローンが背後を陣取っている。
全員が殺気にまみれている。
まだ、心までは折れていない。
スウゥ~……。
空気が揺らいだ。
背後のクローンが一番に動いた。
槍を中腰に構えて一歩踏み込む。
静かな一歩で間合いを詰めたショートスピアが俺の背中を狙って放たれた。
奇襲のつもりなのだろう。
見えていないが気で分かった。
何時からだろう?
こんなに分かるようになったのは?
見えてなくても空気の流れだけで攻撃が悟れるなんてさ。
戦闘に置ける経験値がアップしているんだ。
俺の戦闘センスが上がっているってことなのだろう。
「おっと」
俺は身体を反らして手槍の牙を躱す。
「なにっ!?」
俺の脇腹寸前を手槍が過ぎるとショートスピアのクローンが驚きを口に出した。
「アスハン、同時に行くぞ!!」
「了解、アスオノ!!」
バトルアックスとウォーハンマーを持ったクローンが二体で同時に飛び掛かって来た。
戦斧は横振り、戦鎚は袈裟懸けの起動で同時に振られた。
「おっと!」
俺は身体をスピンさせながら後退して二つの攻撃を回避する。
そして振り向くとショートスピアのクローンに対して黄金剣を連続で三打振るう。
一回転につき一太刀だ。
トルネードのように回転しながら繰り出される三段攻撃。
下段、上段、中断と連続に繰り出された大小の剣打をショートスピアを縦に構えたクローンが顔を歪めながら受け止めていた。
俺はガードされているのを承知でパワーとスピードで押してやる。
「なんちゅう打ち込みのパワーだ!!」
二刀の三段連擊を受け止めたショートスピアのクローンが叫んだ刹那、俺の背後からウォーハンマーのクローンが飛び掛かって来た。
4メートルほどある天井スレスレまでジャンプしたクローンがウォーハンマーを振り下ろす。
しかし、見えてますよ~んだ。
だから回っていたんだ。
スピンしながら全方向を確認しながら攻撃していたんだもん。
「とりゃぁああああ!!」
「甘いぜ!!」
俺は二刀を二本同時に左から右に二の字に振ると上から降って来たウォーハンマーと激突させる。
「薙ぎ払う!!」
「うおっ!!」
「りぃぁあああ!!!」
力技である。
俺は二本の剣に力を込めてウォーハンマーごとクローンを打ち飛ばした。
「ぜぇぁあああ!!!」
「のぁっ!!」
ナイスな二刀バッティングで打ち飛ばされたクローンが背中から壁に激突した。
「まあ、ホームランじゃあねえが、タイムリーヒットってところかな~」
「舐めるなっ!!」
またもや背後からショートスピアのクローンが姑息な攻撃を仕掛けて来る。
「それっ!!」
ショートスピアでの下段横振り攻撃だ。
俺の足元を狙ってショートスピアが横振りされた。
足を狙って機動力を奪いに来たか。
「とうっ!」
振り向かずに俺はジャンプでショートスピアを躱した。
その宙に舞う俺をバトルアックスが横殴る。
「そりゃ!!」
「ちっ!!」
空中では躱せない。
俺は二刀をクロスさせてバトルアックスを受け止めた。
「なかなかのパワーだな!」
俺は3メートルほど飛ばされた。
着地。
──と、同時にショートスピアの縦振りが攻めて来た。
俺は咄嗟に左のショートソードを盾に使ってガードする。
「甘いぜ、スネークスピア!!」
「えっ!?」
防御したはずのショートスピアがグニャリと曲がって小剣に巻き付いた。
まるでロープで拘束されたように確りと巻き付いている。
ショートスピアの長さが伸びてやがるぞ。
変幻自在のようだ。
「なんだ、その槍は!?」
「今だ、片手と移動は束縛したぞ!!」
「良くやった、アススピ!!」
「とりゃ!!」
バトルアックスとウォーハンマーのクローンが調子に乗って攻めて来た。
ふたたび同時攻撃を狙って来る。
移動を封じたぐらいで舐めんなよ。
「リストレイントクロス!!」
「ふおっ!?」
俺の眼前からX字の光線が発射された。
そのX字の魔法はバトルアックスのクローンに巻き付くと動きを封じてしまう。
「う、動けんっ!?」
「小賢しい、拘束魔法か!!」
ウォーハンマーのクローンが足を止めた。
そして力み出す。
「マジックアイテム、解放!!」
そう述べるとウォーハンマーの先端が大きく膨れ上がり始めた。
20センチ程度の鎚頭が1.5メートルほどのサイズに巨大化する。
もう、ドラム缶サイズだ。
いや、ドラム缶のサイズは1.2メートルほどだ。
それより大きいぞ。
「わおっ、ビッグだね~……」
おそらく頭身の巨大化と重力変動の合わせ技なんだろうな。
これは破壊力だけは有りそうな武器だわ……。
「おおおらぁぁあああ!!」
その巨大化したハンマーをクローンが振るう。
天井を掠めたウォーハンマーの頭身が俺の頭上から落ちて来る。
スゲー重そうだ……。
「ちょっと、不味いかな……」
俺は左手に巻き付いたショートスピアで動きを封じられている。
だから避けれない。
なら、受けるのみだ。
俺は残された右腕を上げて、黄金剣で巨大ハンマーの鎚擊を防御した。
ドシンっと全身に重みがのし掛かる。
「うおっ……」
重量で身体が沈む。
膝が折れて、姿勢が崩れて押し潰されそうになる。
しかし俺は、蟹股で力むと必死に耐えた。
地面が砕けて足首まで岩の床にめり込んだ。
「ぐぅぁ…………」
腰が曲がって視線が床まで近付いた。
やべぇ……。
腰が砕けそうだ。
潰され掛けているぞ。
ハンマーと床まで隙間が1メートルよりも低くなる。
しかし、止まった……。
よし、耐えたぞ。
耐えきった。
俺の頭上に在ったウォーハンマーの頭身が小さく縮みだした。
やがて攻撃を耐え凌いだ俺の姿が露になると、唖然と顔を歪めるクローンたちの表情が見えて来る。
俺はゆっくりと姿勢を正すと腰をグリグリと回してほぐした。
まるで座ったまま六時間ぶっ通しでゲームに励んでいたあとのように腰が痛む。
だが、まだまだ戦えるぞ。
俺は三体のクローンを順々に睨んだ。
そして、一言述べる。
「じゃあ、反撃するぞ」
「「「っ…………」」」
三体のクローンは何も言わずに顔を青くさせていた。
【つづく】