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第477話【クローン研究】

ヒルダとプロ子の二人が隣の部屋の水槽に赤ん坊を戻しに行った。


どうやら子育てを諦めてくれたらしい。


正直なところ、メイドたちには冒険中のサポートをやってもらいたいのだ。


俺は飯も作れなければ洗濯も苦手だ。


だからメイドたちには大変助けられている。


今さら彼女たちを失うわけには行かないのである。


もしもメイドたちが子育てに励めば冒険に連れて行けないからな。


ヒルダやプロ子はアンデッドだから異次元宝物庫に入ってても窒息死しないけど、赤ん坊は呼吸ができなくなって死んでしまうだろう。


だからと言って、子供を連れて冒険なんかできないだろうさ。


まあ、兎に角諦めてくれて助かったぜ……。


「んん?」


俺が安堵から溜め息をついた時に、テーブルの上に一冊の本が置かれているのに気が付いた。


タイトルは人間語で書かれている。


【人型クローン実験のレポート】


ヤバそうなタイトルだな……。


俺は本を手に取り中身を見てみた。


【本日より人間のクローン実験に入る。今までゴブリンやオークなどのクローンは作ったが、人間は初めてである】


んん、誰だ?


こんなレポートを書いたのは?


テイアーならドラゴン語で書きそうだから、奴ではないのかな。


【人間はゲノム細胞がゴブリンやオークより若干ながら複雑に出来ている。だが、我々ドラゴンに比べれば単純なはずだ】


あー、やっぱりテイアーが書いたっぽいな。


【これもドラゴンのクローンを作るためのステップである。人間のクローンが作れたのならば、次はエルフだ。そしてエルフが完成したら、次こそはドラゴンである】


あの野郎、ドラゴンのクローンを作る研究をここでやってたのかな。


そもそもドラゴンって繁殖率が低いってグラブルの奴が言ってたっけな~。


だから交尾もせずに種族繁栄を叶えたいのかな?


あのマッドサイエンシストなドラゴンらしい考えだぜ。


【まず初日は冒険者の遺体からDNAを採取してくるところからスタートである。少しダンジョン内を徘徊してこなくては──】


俺は次のページを捲った。


【人間のクローン製作に入って三日目である。やっとダンジョン内で新鮮な冒険者の遺体を発見した。このダンジョンのモンスターは冒険者の死体を綺麗に食べてしまうから困ってしまう。それにアンデッドになった死体は魔力でDNAが傷付いてしまっているから使えないのだ。なので捜索に時間が掛かってしまったのである。これからやっと作業に入る】


俺は更に次のページを捲った。


【四日目。では、DNAの細胞増幅作業からスタートである。この冒険者のDNAを使って人間を作り上げるのだが、まあゴブリンやオークで成功しているのだから、さほど問題もなかろう。ただクローンの成長までは時間が掛かる。ゆっくりと気ままに行こうかな】


俺は更にページを捲った。


【実験が始まって十日が過ぎた。クローン細胞の成長は、高速成長カロリー薬のお陰で順調に育っている。胎児レベルまで成長。クローンの形は頭が分かるまでに成長した。あっ、目がある】


なんか、少しキモそうだな……。


俺は次のページを捲った。


【実験開始から二十日目。クローンは赤ん坊だと分かる程度まで成長した。もう人型である。あと二日ぐらいで水槽から出しても良いだろう。そうそう、今晩の晩御飯はカレーライスの予定である】


カレーライスは関係ないだろ!


つまんねーことまで記載すんなよな!


【実験開始から二十二日目。水槽から赤ん坊を出して見た。呼吸はしているが、運とも寸とも言わない。なんだか頭部が軽いな。これは脳味噌が入っていない感じである。失敗だ】


あれ、失敗なの?


ドラゴンの博士でもクローンを作るのって難しいのか?


【実験開始から四十四日目。二体目のクローンが赤ん坊まで育ったが、またもや脳味噌が入っていない、失敗である。まさか人間のクローンを作る段階で躓くとは思わなかった。ゴブリンやオークよりも難しいようである】


なんだろう?


下等なモンスターだと簡単なのかな?


【実験開始から六十六日目。今度は三体のクローンを同時に製造してみたが、やはり三体とも失敗である。このままでは飽きてクローン作りの研究を断念してしまいそうだ。こうなったら一人でタコ焼きパーティーでも開いて一息入れようかな。テンションを上げなければなるまい】


タコ焼きパーティーか~。


いいね~。


今度ガルガンチュワから足を別けて貰って皆でタコ焼きパーティーでも開こうかな~。


テンションが上がるぞ~。


【ダンジョンの私の部屋にアスランたる冒険者が舞い込んで来た。なんでもベルセルク坊やに会ってもらいたいとか──。まあ、最近研究も行き詰まっていたからいいかな。あっ、そうだ。ダンジョンで拾った冒険者のDNAが古かったから実験が上手く行かなかったのかも知れないな。ここはアスランのDNAを採取して、実験をやり直そうかな】


おいおいおいおい!!


ちょっと待てよ!!


もしかして、隣の部屋のクローンって全部俺のクローンなんですか!?


【九十九日目。アスランのクローン一号が完成した。今度の赤ん坊は脳味噌がちゃんと入っている。実験は成功だろう。だが、念のために少し成長を見てみなければなるまい。よし、ちょっと強めの成長増幅薬を投与して見るか】


な、なんか複雑だな……。


なんだか自分のクローンが作られているなんて微妙な気分だよ。


やっぱりクローンって人道的に良くない技術だよね……。


【百八日目。アスランのクローンも投薬のお掛けで五才児ぐらいまで育った。それにしてもヤンチャだ。兎に角ドタバタと走り回る。ウザイ】


ウザイって言うな!!


テメーが勝手に作っといて勝手なことを言うんじゃあねえぞ!!


【百十日目。アスランのクローンに勉強を教えてみた。簡単な言葉は直ぐに覚えたが、本を聞き読ませると直ぐに寝てしまう。良く寝る子だ】


俺ってば、眠りは良いほうだからな。


【百十一日目。アスランのクローンは勉強を嫌う。本を聞き読ませれば直ぐに寝るし、文字を教えようとしても直ぐ眠る。数学なんて上の空で意識がどこか遠くに飛んでいるようだ。兎に角勉強が嫌いのようだ】


あー、確かに俺は勉強が嫌いな子供だったもんな~。


小学校なんて遊びにだけ行っているようなもんだったもん。


【百十五日目。アスランが真面目に勉強をしないので、いろいろと何に興味を持つか試してみた。まず、遊びは全般的にやる。しかし、掃除洗濯はやらない。料理も苦手のようだ。だが、官能小説だけは全集中を注いで読み始める。もしかして、このDNAはドスケベなのか?】


ド、ドスケベ……。


嫌なDNAだな……。


【百二十日目。アスランのクローンに成長薬を大量に注入して、成長の速度を限界まで高めてみた。お陰で現在は人間の年齢からして二十歳ぐらいまで成長した。しかし、なんだか可笑しい。額に角が生え始めた】


あー、始まったのかな、悪魔化が……。


もう少ししたら羽と尻尾も生え始めるのかな~……。


【百二十五日目。アスランクローンの顔がごっつく変わった。堀が深くなり顎がしゃくれて牙も延び出た。背中には蝙蝠の羽が生えて、お尻からは尖った尻尾が生え始めた。それに最近ではエロイ言葉しか連呼しない。兎に角卑猥で下品である】


あー、煩悩に汚染されてるのね……。


【百二十六日目。流石にアスランクローンの様子が可笑しい。私にすら反抗的だ。もう処分するしかないだろう。このDNAはエロイだけで失敗作なのかも知れないな】


俺のDNAは失敗作ですか……。


しかもエロイだけって……。


酷い言いようだな……。


【百二十七日目。一番恐れていたことが起きた。クローンのクーデターである。アスランのクローンが研究所の入り口にバリケードを築いて立て込もってしまった。私がクローンを処分しようとしていることが悟られたのだろう】


そりゃあ殺されると分かれば俺だって抵抗するよ……。


【困ったことになったぞ。これではクローン研究が出来ないではないか。仕方ないので一旦研究は停止である。まあ、しばらくほって置けばクローンなんて直ぐに死んでしまうだろう。しばらくこのエリアは閉鎖である。所詮クローン一体で何が出きると言うのだ。直ぐに死ぬさ】


レポートはここまでである。


なるほど、この赤ん坊たちはおれのクローンでテイアーが作り出した産物なのか……。


あの野郎、勝手に他人を増幅しやがったな!!


訴えてやる!!


んん?


ちょっと待てよ……。


俺は最後のページの最後の行を読み直す。


【所詮クローン一体で何が出きると言うのだ】


クローン一体?


テイアーが作った俺のクローンは一体だ。


なのに水槽には十体ぐらいのクローンの赤子が入っていたな……。


「増殖しているんだ……」


最初の一体目が、この研究所を占拠してから、俺のクローンを増殖させていやがるんだ!!



【つづく】

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[良い点] ギャグからホラーへのカレーなる転回! [一言] はぁ〜たこ焼きパーティーしたい。
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