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第442話【炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟】

謀反軍ハイランダーズアジト内にある二の間での戦い。


二刀を構える俺と向かい合うは、同じく二刀のバームとクーヘン兄弟だ。


バームとクーヘン兄弟は二人で一つのアーマーを操り、炎剣と氷剣の二刀流である。


片や俺は、タピオカ姫とエクレアを両手に持って兄弟たちと向かい合っていた。


右手のタピオカ姫はロングソード、左手のエクレアは細身のレイピアだ。


俺が微笑みながら前に一歩出た。


「じゃあ、始めようか、勇ましい兄弟さんたちよ!」


曇った声でバームとクーヘン兄弟が述べる。


「「貴様、卑怯だぞ……」」


こいつ、察してるな。


「はぁ~~ん。何が卑怯なんたよ?」


俺はわざとらしく演じると訊いた。


「「おなごたちを盾に取るとは……」」


「盾になんか取ってねーーよ。武器に使ってるだけだよ」


エクレアが言う。


「バームとクーヘン兄様、私たちを気にせずに戦ってくださいませ!」


「「だが、しかし……」」


バームとクーヘン兄弟は気付いているのだが、知らぬは人質となってる当人か──。


更にエクレアがバームとクーヘン兄弟に声援を飛ばす。


「兄様たちの力強い剣技なら、こやつに勝てますわ。だから我々を救いだしてくださいませ!!」


だから、その力強い剣技が問題なんだよ。


今度はタピオカ姫が述べた。


「ちょっとエクレア。あんたはどっちの味方なの!?」


「いや、どっちのって……」


「私たちはもうアスラン様の配下なのですよ。それなのに敵を応援するなんて筋が通らないですわ!?」


「いや、でも……」


「えー、なにー。また謀反ですか。また裏切るのですか!?」


「いや、そうじゃあないけれど……」


喧嘩する剣娘たちに俺が言う。


「まあ、二人とも黙ってろ。ここからは男同士の戦いだからよ」


「畏まりました、アスラン様!」


「御意……」


タピオカ姫は快く俺の言葉を受け入れたが、まだエクレアは納得しきっていないようだ。


それでも黙り込む。


「じゃあ、始めるぜ!」


「「むむっ!!」」


俺は先手を取るとアシンメトリーな甲冑に切り掛かった。


右手のタピオカ姫を振りかぶると袈裟斬りに振るう。


しかしその一打を氷剣が容易く受け止めた。


そこからの反撃。


炎剣が俺の腹部を狙って水平に振られた。


しかし俺はエクレアを盾にガードを築く。


だが、炎剣はエクレアと激突する前に止まった。


寸止めだ。


「「ぐぐっ!」」


その隙に俺は二打目と三打目を繰り出す。


タピオカ姫で下半身を狙い、氷剣でガードされると、弾かれる力を殺さずにロングソードで頭部を狙った。


しかし、それも炎剣で防がれる。


そこで氷剣の反撃が飛んで来た。


上段の兜割りで振り下ろされる氷剣だったが、俺がエクレアで頭部を庇うと剣と剣が接触する前に攻撃が止まる。


その隙に俺はタピオカ姫で胴を狙って振るった。


バームとクーヘン兄弟は、後方に後退すると紙一重で俺の斬打を回避した。


一連の攻防を見ていたエクレアが興奮気味に叫ぶ。


「バームとクーヘン兄様、何故に打ち込みを止めるのですか!?」


そう、二人は攻撃を躊躇している。


俺の作戦通りだが、やはりエクレアだけが気付いていない。


一早く俺の作戦に気が付いたタピオカ姫が述べた。


「アスラン様、ナイスな兵法ですわ!!」


「ナイスな兵法?」


「あら、エクレアはアスラン様の作戦に気付いてないのかえ?」


「作戦……?」


おしゃべりなタピオカ姫が俺の作戦を分かりやすく解説をする。


「細身のレイピアである貴女の身体を盾に使って、バームとクーヘン兄弟の攻撃を防いでいるのよ。あの二人の剣力ならば、貴女の身体を容易くへし折れるからね」


「なんと、私が人質!!」


ここで初めて俺の意を知るエクレアが驚きの声を上げていた。


「アスラン殿、なんと卑怯なり!!」


「わりーなー、エクレア。抗議は受け付けてないからさ~」


「それでも戦士ですか!? それでも武士ですか!?」


「いやいや、俺は戦士でも武士でもないからさ」


「それでは、何者!?」


「冒険者だ。ソロ冒険者だよ!」


「こんな卑劣な冒険者なんて見たことがございませんぞ!!」


「あー、もー、面倒臭いな~」


言いながら俺は壁際に向かって歩き出した。


「「貴様、何処に行く!?」」


俺はバームとクーヘン兄弟に背を向けたまま返答した。


「何処にも行かねーよ」


そして、エクレアを壁に立て掛けた。


それからレイピアの腹にロングソードを当てる。


「「ぬぬっ!?」」


「まさか……」


エクレアと兄弟たちが目を剥いて驚いていた。


分かってくれたらしいな。


自分たちの状況がさ。


「まさか、私を……」


「そう、正解──」


俺はエクレアに剣を翳した状態でバームとクーヘン兄弟に述べる。


「二人とも、武器を捨てて降伏しろ。降伏しなければ、彼女をへし折るぞ~」


「「貴様!!!!」」


「人質っ!?」


「アスラン様、ナイスな作戦ですわ!!」


この卑劣な状況に歓喜しているのはタピオカ姫だけであった。


「さあ、どうするバームとクーヘン。武器を捨てるか、彼女をへし折られるかだぞ?」


壁に立て掛けられた姿勢でエクレアが叫ぶ。


「アスラン殿、あなたはそれでも人間ですか!?」


「黙ってろ、アマちゃんのアマはよ。さあ、バームとクーヘン、どうするよ?」


俺の質問にアシンメトリーな甲冑を怒りに震わせながら、兄弟の二人は憤怒に堪える声を絞り出した。


「「我らが武器を捨てたら、彼女を助けるのか……」」


俺は満面の笑みで答えた。


「それは約束しよう」


「いけません、バームとクーヘン兄様。このような外道の言いなりになっては!!」


人質のエクレアが止めたがバームとクーヘン兄弟は、本体である炎剣と氷剣を床に捨てた。


床の上を跳ねた二本の剣が俺の足元まで滑り来ると、アシンメトリーなアーマーが崩れ落ちる。


勝敗が決まった。


「やりましたは、アスラン様。これでまた謀反軍の兵力が減りましたぞ!!」


タピオカ姫が歓喜の声を上げていたが、その他三本の剣は無言を貫く。


「はぁ~……」


俺は溜め息の後に炎剣と氷剣を蹴飛ばした。


二つの剣が床を滑って元の鎧に接触する。


「お前らは、馬鹿か!?」


「「!?」」


「もしも俺が腐れ外道だったら、全員皆殺しだぞ」


トーンを下げた口調でタピオカ姫が問う。


「ア、アスラン様、何をおっしゃっているのですか……?」


俺はタピオカ姫を無視して語る。


「人質を取るような卑怯ものは、勝利したら人質を殺してしまうぞ」


これは現実だ。


「人間世界には人質誘拐事件って犯罪があるんだよ」


「「人質誘拐……」」


「人質を取って金品を要求する犯罪だ」


「「それが、なんだ!?」」


「人質身代金要求誘拐事件で、身代金が犯人に払われた場合、その殆どの人質は殺される」


「「………」」


「何故なら、人質を取られた側は人質を助けるために身代金を払ったつもりでも、誘拐犯からしたら身代金を奪い取るのが目的だ。目的を達成されたら、人質を生かしとく理由が無くなる。逆に自分たちの足が付くかも知れないので、人質は生きていないほうが特である」


「「ぅ……」」


兄弟は察し始めている。


「だから、人質を取った側は、勝利した段階で人質を生かして置く理由が無くなるのだ。俺が言ってる意味が分かるか?」


「「我ら兄弟は、判断を謝ったと……?」」


「そうだ。お前らが取るべき行動は、人質が殺されても敵を打つべきだった」


「「だが、それでは人質が殺されてしまうぞ!!」」


「もう人質は、人質に取られた段階で死亡が確定しているんだ。それを覆したくば、降参するんじゃあなく、戦って勝ち取るしか道はない!」


シンメトリーな甲冑が動き出して炎剣と氷剣を握り閉める。


「どうだい、勉強になったろ?」


立ち上がったバームとクーヘン兄弟が答えた。


「「はい……」」


俺はエクレアを手に取ると異次元宝物庫に投げ込んだ。


「お前は俺に敗北したんだ。約束通り、俺の下に付いてもらうぞ」


「「…………」」


俺は異次元宝物庫を扉サイズまで開いてから言う。


「中で妹が待ってるぞ。次はちゃんと守ってやれ。それには俺も協力してやるからよ」


「「御意!」」


背筋を伸ばして歩むバームとクーヘン兄弟は、そのまま異次元宝物庫内に入って行った。


どうやら味方になってくれるようだ。


そして、俺の手にあるタピオカ姫に言った。


「お前は、結構糞女だな……」


「アスラン様ほどではございませぬよ~♡」


俺は全力投法でタピオカ姫を異次元宝物庫内に投げ込んだ。


「糞っ!!」


あの三人は心強いが、こいつはマジで糞だな……。



【つづく】

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