第441話【両手に花】
あのハイランダーズの名前はなんて言ったっけな。
確かミルクキャラメル味っぽい名前だったと思ったが──。
まあ、なんでもいいや。
兎に角だ。
あいつを逃がしたのは正解だったぜ。
タピオカの話だと、下のエリアに向かうには、謀反軍のアジトを突っ切らなくてはならないとか。
ならば、敵に案内してもらうのが最善策である。
あのホイップミルクキャラメル味っぽいオヤジが報告しに行ってくれたお陰で、アジトまでの道のりがハッキリしてきたぞ。
何せダンジョンの床に、ハッキリクッキリバッチリと足跡が残っているからだ。
俺はダンジョンに刻まれた足跡を追って進んで行った。
インテリジェンスソードだと言えども、体の代わりにフルプレートを操っている以上は足跡も残るってことよ。
しかも奴らは戦士だが冒険者じゃあない。
俺が足跡を追ってきているとは思ってもいないだろうさ。
「おっ」
部屋だ。
全開に開いた両開きの扉がある。
その向こうに部屋が広がっていた。
んん?
標札っぽいのがあるぞ?
漢字?
漢字だよな、これ?
【二の間】
なんか漢字を見るのも久々だわ。
まあ、そんなことはどうでもいいや。
俺は部屋の中を覗き込んだ。
薄暗いが灯りがあるぞ。
そして、敵が居た。
広い部屋の先に、胸の前で腕組みをしているフルプレートが一体立っている。
勇ましく仁王立ちだ。
部屋の中の灯りが、その姿を朧気に映し出していた。
両サイドの壁には松明が何本か刺されている。
「お出迎えか──」
俺はソロリソロリと部屋の中に入っていった。
敵は動かない。
仁王立ちのままこちらを睨んでいやがる。
トラップの気配も無い。
この部屋事態に小細工は無いな。
だが、部屋の先に立つフルプレートからは敵意を越えた殺意まで感じ取れた。
完全に殺す気満々だ。
しかも今までのハイランダーズとは格が一桁違っている。
立ち姿だけで分かるぜ。
二人の距離は、まだ20メートルほど開いている。
今までのパターンからしてハイランダーズは全員剣士系のモンスターだろう。
だから間合い外だ。
飛び道具は来ないだろうさ。
俺は足元に視線を飛ばして、丁寧に探りながら進んだ。
トラップ無し。
段差無し。
置物無し。
隠れるところ無し。
滑りやすいところ無し。
闘技場並みのベストなフィールドだな。
ここで戦うならば、純粋な実力の競い合いになりそうだ。
残り15メートル。
眼前のフルプレートメイルのフレームがはっきりと見え始めて来た。
縦半分からカラーが違う。
右半分が赤で、左半分が青いプレートメイルだ。
「アシンメトリーとはオシャレだね~」
武器は左右の腰にロングソードを二本下げていやがる。
二刀流なのか?
んん?
赤と青……。
火属性と氷属性なのか?
もしかして、こいつが炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟なのかな?
たぶんそうだな。
あー、なるほどね~。
二人で一人の二刀流か。
たぶん、兄弟で一つの甲冑を操作して二刀流を完成させている戦略だな。
四十年前ならセンセーショナルなアイデアだが、今はジャパニメーションも極めに極められた時代だぜ。
もうそんなネタは古いってばよ。
ダサダサだな。
よし、残り10メートル。
情報も十分に収集できた。
これならば剣技の実力のみで勝てるぞ。
俺はアシンメトリーアーマーの前に立つと、腰に両手を当てながらふてぶてしく言った。
「出迎えご苦労さんよ」
アシンメトリーアーマーが応対する。
「「貴公がソロ冒険者の……」」
二つの声が一つの鎧から聞こえて来る。
やはり二人居やがるな。
「俺がアスランだ」
「「我らは炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟なり」」
噂の兄弟だ。
やはり、そうだよね。
「「そなたと勝負がしたくて出向いた」」
「一対一で勝負を挑むとは、いい根性だな」
二つの声から武士道精神が感じられる。
殺気はあるが邪悪では無いな。
本当にこいつらモンスターなのかよ。
「「ぬぬっ……」」
バームとクーヘン兄弟が両手で二本の剣を抜く。
左手で右腰の鞘から、右手で左腰の鞘から剣を抜く。
赤い右半身が赤い光を放つ剣を持ち、青い左半身が青い光を放つ剣を翳していた。
その光が左右の壁を赤と青に染め上げる。
「「我らは見ての通り二人で一人。この勝負は二対一の勝負となられるぞ。故に一騎討ちとは異なる。卑怯とは思わんでもらいたい」」
「自己申告ありがとうよ。そもそも俺はソロだからな。一対多人数は慣れている。気にすんな」
「「感謝っ!」」
感謝されちゃったよ。
バームとクーヘン兄弟は、胸を開いて両腕を横に大きく伸ばして構えた。
力強い剣技を使うのが察しられる構えだな。
「よっと──」
俺も腰から黄金剣の大小を抜いた。
俺も二刀流で応戦だぜ。
二刀流vs二刀流だ。
そして、俺たちが構え合う最中にバームとクーヘン兄弟が話し掛けてきた。
「「戦う前に提案がある」」
「なんだよ。聞くだけ聞いてやるけれど」
「「我々が勝ったら命だけは助けてやる」」
「あら、モンスターなのにお優しいことで」
「「ただし、タピオカ姫とエクレアを返してもらいたい」」
「あらあら、こりゃまたお優しい提案ですな」
「「あの二人は我らに取っては妹同然な娘たちだ。命を掛けて助け出す価値はある」」
マジで優しいな。
「なるほど。じゃあ、俺がお前らに勝ったらどうするよ?」
「「我ら兄弟もお前の配下に下ろうぞ……」」
「本当だな?」
「「戦士として、この剣に誓おうぞ」」
「その誓い、忘れるなよ」
「「御意!」」
その返答を聞いた俺は、二本の黄金剣を腰に収めた。
「「なぜ、武器を収める?」」
「武器を替えるだけだ。ちゃんと戦うよ」
そして俺は腰の武器を異次元宝物庫に仕舞うと代わりの剣を二本取り出した。
「俺が使う武器は、これとこれだぜ!!」
ロングソードとレイピアだ。
「「貴様っ!!!」」
よし、バームとクーヘン兄弟が驚いたぞ。
もう勝ったも同然だ。
そして、ロングソードとレイピアがしゃべる。
「あれれ、アスラン様……。これはどう言うことでしょうか……」
「あれは、バームとクーヘン兄様たちでは……?」
俺は喉で笑いながら言う。
「くっくっくっ、タピオカ、エクレア。お前らを武器として使わせてもらうぞ~」
俺が取り出した武器はタピオカのロングソードとエクレアのレイピアだった。
「「きっ、貴様、卑怯成り!!!」」
「なんとでも言え、モンスターめ。人間は、勝てば良いって言う生き物なんだよ!!」
右手にタピオカ、左手にエクレア。
まさに両手に花状態だぜ。
【つづく】