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第437話【そして一人で行く】

俺は大部屋の柱に背を預けて地面に座っていた。


石畳がお尻に冷ややかとする。


俺の前にはタピオカ、キャッサバ、スターチ、プディングの四名のハイランダーズが座っている。


周囲は暗かったがインテリジェンスソードである彼らが光っているので不便はなかった。


「それで、どんな連中なんだ、謀反軍って奴らはよ?」


タピオカが説明を始めた。


「リーダーはティラミスと申す男で一番の剣豪でございます。その他に隼斬りのエクレア。炎剣氷剣のバームとクーヘン兄弟。長槍のパンナコッタが主力でしょうか。あとの十六名は、我々と代わらずの剣の技術で……」


「なるほど。要するにヘッポコってヤツだな」


「「「「ヘッポコって言うな!!」」」」


相変わらず声が揃ってる連中だぜ。


マジでウザイ……。


「まあ、そのピックアップした五名以外は、剣の腕前は問題ないってことでいいんだな」


「はい。アスラン様の力量ならば、四名や五名のハイランダーズを同時に相手になされましても問題無いかと思われます」


なるほどね~。


同時に相手にできるのは、五名──、否、六名が限界かな。


「それで、なんでお前らは謀反なんておこされたんだ?」


タピオカが俯きながら答えた。


「元々は私の父がリーダーだったのですが、その遣り方に不満を抱いてたティラミスが反旗を翻し、父に挑んだのであります……」


「それでタピオカの親父さんはティラミスって奴に負けたと?」


「はい……。父の剣技も一流でしたが、剣豪と唄われるティラミスはそれを遥かに上回っていました。そして世代交代後は、ほとんどのハイランダーズがティラミスの下についたのです……。私の元に残ってくれたのは、これら三名のみ……」


「親父さんはどうなった?」


「勝負の末に負けて以来は床に伏せまして、昨年寿命で他界されました……」


寿命かよ……。


俺は三名に順々に訊いてみた。


「ところで、なんでお前らはタピオカについて行ったんだ?」


まずは一番年配のスターチが答える。


「私は先代のお館様に忠義を誓って降りましたからな。その忠義を果たすために姫様を支えるのが当然のことですわい」


続いて中年のプティングが答える。


「私にしてみれば、姫様は娘に近い年頃です。なので、この命尽きるまで仕えようかと──。まあ、親心見たいな物ですかな」


最後に若者キャッサバが答えた。


「私は姫様と幼馴染ですので、ほら、ねぇ、まあ、その~……」


あー、なるほど。


キャッサバの奴はタピオカに恋心を抱いてやがるな。


てか、スゲー分かりやすいな、こいつ。


「まあ、お前らと謀反軍との関係は、良く分かった。もしも俺がダンジョンを進むに当たって、謀反軍が俺に敵対することがあったのなら、俺は躊躇わずに剣を抜くが、問題ないだろうな?」


現実的に言えば有り得る状況だろう。


「それは、致し方ありません……」


四名は暗い顔で答えた。


まあ、そうだろうさ。


進む道は違えたが、昔は仲間で同族だ。


それを殺すと言われれば躊躇いも産まれるさ。


「ところでお前ら──」


「なんでありましょう、アスラン様?」


「お前らって、呼吸をしているか?」


「「「「呼吸?」」」」


「そう、肺呼吸してるかって訊いてるんだ」


スターチが答える。


「我々は人間と違いまして剣です。属性としてはマジックアイテムに近い存在です。肺に属する呼吸器官はありませんから、水で錆びますが、溺れ死ぬことはありませんぞ。それに睡眠も取りませんぞ」


ほほう。


睡眠すら無用なんだ。


それは良いことを聞いたぞ。


「よし、それなら都合がいいな」


「「「「んん?」」」」


四人が首を傾げる。


「異次元宝物庫、オープン!」


俺が言うと扉サイズに異次元宝物庫が口を開けた。


「お前らしばらくここに入っててもらえないか」


「これは?」


「異次元宝物庫だ。中は時間が止まってて酸素が無い。だから腐敗も老化も無い世界だが、生物は生きてられないんだ。お前らなら大丈夫だろうさ」


扉の中を覗き込んでいたプティングが言う。


「中でメイドたちがソファーに腰掛けながら寛いでいますぞ?」


「彼女たちも俺の配下だ。まあ、先客だがしばらく一緒に居てくれないか」


タピオカが俺に言う。


「もしかして、アスラン様……?」


「なんだ、タピオカ?」


「お一人で謀反軍と戦うつもりですか!?」


「当然だろ」


「「「「何故っ!!」」」」


「何故って、俺はソロ冒険者だからな。当然と言えば当然だろうさ」


キャッサバがヘルムの前で手を振りながら言う。


「いやいやいや、我々だって居るのですから、協力するのが当たり前ではありませんか!?」


「なんで?」


「なんでって、我々が居れば五対二十一になるんですよ!!」


「お前ら弱いじゃん。それなら一対二十一でも代わらんよ」


「あなたは算数が出来ないんですか!?」


「算数ぐらいできるぞ!」


「じゃあ6×6は!?」


「ろくろく……52?」


「違う! 全然違う!!」


俺は四人の背中を押して異次元宝物庫に押し込もうとする。


「いいからお前らはしばらくここに入ってろ。邪魔なんだよ!!」


「邪魔って!?」


「おい、ヒルダ、プロ子、こいつらを異次元宝物庫内で強制的にもてなしてろ!!」


『畏まりました、アスラン様』


ヒルダが答えるとメイドたちが亡者のようにタピオカたちに群がった。


そのまま力任せに異次元宝物庫内に引き摺り込んで行く。


「ひゃ~~、助けて~~!!」


『さあ、こちらに。さあ、こちらに──』


ズルズルと引き摺られながらメイドたちに扉の中へと連れ込まれるハイランダーズ。


その光景はゾンビ映画のようだった。


「よし、全員入ったな」


俺は異次元宝物庫の扉を閉めた。


すると騒々しいハイランダーズの悲鳴が収まる。


大部屋の中が静かになった。


そしてランタンの光だけになる。


「よし、邪魔者は消えたぞ」


俺は前もって聞いておいた方向に歩き出した。


こっちの方向に、このだだっ広い部屋からの出口があるそうな。


「さて、 謀反軍かぁ~」


まあ、戦っても良いし、戦わなくっても良い連中だ。


絡んで来なければ無視してもいいし、挑んで来るなら蹴散らすまでだ。


出来れば仲間にしたいな。


人型モンスターは魔王城の警備に最適だ。


しかも睡眠すら取らなくていいなら、年中無休で警備に付けるじゃあないか。


出来たら謀反したハイランダーズも家臣として欲しいもんだな。



【つづく】

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