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第370話【ロックピッキング】

凄いな……。


地下牢獄だ。


俺が落とし穴の部屋から選んで進んだのは勇者軍の通路のほうだった。


まあ、最初に人間サイドを供養してやろうと考えたのである。


戦後500年が経っているのに、まだ戦っているなんて人間には長過ぎる戦いだ。


本来の寿命の数十倍もの月日を戦い続けなければならないなんて過酷過ぎるだろう。


もうそろそろ終わりにしてやりたい。


それにヒルダやプロ子のように俺に付かないアンデッドどもは成敗しなきゃならない。


この城には一般人も住む予定だ。


危険なアンデッドは地下とは言え絶対に置いとけない。


あのアンデッドナイツはもう自我がほとんど無いだろう。


危険だ。


悪いが壊滅させてもらう。


それにしても──。


廊下を進んで俺が出たのは螺旋階段の縦穴だった。


直径20メートルぐらいの円形の穴の壁沿いに螺旋を画くように石作りの階段が設置されている。


その壁には幾つもの鉄格子が有り牢獄となっていた。


その螺旋の階段が下と上に続いている。


しかし天も地も闇で暗い。


明かりは見えない。


「あのスケルトンナイツはこの部屋から来たんだな」


俺が進んで来た廊下の横には部屋が有った。


牢獄ではなく兵士の詰所のようだった。


部屋の中央にはテーブルが在り、割れた水瓶や壊れた家具が放置されている。


空気が埃っぽい。


奥にも部屋が有り、小汚いベッドが十個ほど在った。


生活感はほとんど無いし、マジックアイテムや金目の物は当然ながら無い。


「あっ、手紙だ……」


ベッドの上に手紙が在った。


くすんで朽ち果てそうな羊皮紙だ。


綺麗に折り畳まれた手紙を手に取り宛名を見た。


【愛するダディーへ】


あー、娘さんからの手紙かな……。


俺は手紙をベッドの上に戻した。


この中身を読んだら泣いちゃいそうだもの……。


今は触れないでおこう。


さて、どっちに進む?


上か下かだ。


まあ、出口を探すなら上が妥当だろう。


だが、冒険を続けるなら下だろう。


ならば答えは簡単だ。


下に進むのが当然だぜ。


いずれはこのダンジョンから出るんだ。


その時に上に向かうさ。


ならば今は下だよね。


そう言うわけで俺は螺旋階段を下に下にと下って行った。


鉄格子から牢獄内を覗き見れば白骨かした死体がいくつも転がっていた。


どの牢獄にも一体二体は当たり前のように在る。


勇者軍は、戦後ここを見て回らなかったのか?


何故にこんなに死体が在る?


いや、これは人間の死体だけじゃあないな。


頭蓋骨の形が変だ。


おそらくデミヒューマン系モンスターも投獄してたんだろう。


ならば、ここに在る死体は、魔王軍の物も多いのかな?


ここに戦後閉じ込められたのかな?


まあ、過去の話だ。


もうどうでもいいか。


しばらく俺は暗い螺旋階段を下りて行った。


すると床が見える。


螺旋階段の最下層だ。


そこには鉄扉が一つ在った。


今までと違う頑丈そうな鉄の扉だ。


覗き穴と食事を入れる小さな扉か一つずつ有る。


俺は上の覗き穴から中を覗き込んだ。


ムアッと熱が吹き出した。


熱い!?


鉄扉の向こうから高温の熱風が吹き出ていた。


「なんだ……?」


もう一度中を覗き込んだが何も見えない。


先は通路のようだ。


その通路の奥から熱風が吹いて来るのだ。


「鍵が掛かっているな……」


俺、ピッキングとか出きるかな?


スキルは無いが試してみよう。


いずれはロックピッキングを習得したかったんだよね。


「ジャジャーーン!」


俺は異次元宝物庫から細い針金を一本だした。


こんな時のために用意しておいたのである。


えっへん。


さて、やろうかな──。


俺は扉の前にしゃがみ込むと鍵穴を覗いた。


よく分からんが針金を突っ込んでガチャガチャとこねくり回した。


闇雲である。


何かに引っ掛かる感触はあるが鍵は開かない。


そんなこんなで時間ばかりが無駄に過ぎて行った。


「畜生、やっぱり独学どころか何も学んでない俺じゃあ無理か……」


俺が諦めかけた時である。


異次元宝物庫内からヒルダが声を掛けてくる。


『アスラン様、お手伝いいたしましょうか?』


「えっ、ヒルダ。お前、ロックピッキングとか出来るの?」


ゆっくりとした足取りでヒルダが異次元宝物庫から出て来た。


『当然です。戦闘用メイドアンデッドとして当たり前の嗜みです』


「マジか、なら教えてくれ!」


『はい、畏まりました』


するとヒルダが扉の前にしゃがみ込み、二つの細い工具を使って簡単に鍵を開けた。


『このようにやります』


「ぜんぜん分からんぞ……」


『畏まりました』


ヒルダは再び工具を使って鍵を閉める。


『では、手を取りお教えいたしますのでこちらに』


「おうよ」


俺が扉の前にしゃがみ込むと、二つの細い工具を持たせられた。


ヒルダが後ろから俺に手を添える。


ヒルダの手は乾燥していた。


幻術のマジックアイテムで誤魔化しているが、やっぱりミイラなんだな。


それにペチャパイだ。


俺の背中にヒルダの胸が当たっているが硬い感触しか伝わってこない。


本当に残念なシチェーションだぜ。


呪いすら発動しやしねえ。


そして、ヒルダの講義が始まった。


『いいですか、ここに感触が有るのが分かりますか?』


「ああ、分かる」


『そこを優しく押さえてください』


「あっ、なんか震えた」


『そこを押さえたまま、今度はこちらを順々に探ってください。すると敏感な部分が見つかります』


「こ、こうか?」


『そんな感じです。優しく丁寧に真心を込めて順々に探るのです』


「ああ、分かった……。おっ、これは?」


『そこです。一番敏感な部分を見付けたら、少し乱暴に回してくださいませ』


「乱暴にしていいのか?」


『時には乱暴に扱うのも刺激です』


「わ、分かった。じゃあ、行くぞ!」


『はい、アスラン様!』


「そりゃあ!!」


『あんっ!』


「これで、いいのか?」


『ハァハァ……。素晴らしいですわ。そのまま思うようにゆっくりと回してくださいませ』


「ゆっくりだな」


『は、はい。やさ、しく……』


「何かに当たってるぞ?」


『気にせずに行ってください。ちゃんと受け止められますから……』


「本当に大丈夫か? 無理してないか?」


『このヒルダを信じてくださいませ。心配無用です。何が有っても責任を取れとか言いませんから……』


「本当だな。信じて思いっきり行くぞ!」


『はい、そのまま中に行ってください!』


「行くぞ!」


『はい、そのまま!!』


「そ、そらーー!!」


『ああー、アスラン様!!』


………………。


…………。


……。


「どうだった、ヒルダ?」


『完璧ですは、アスラン様。これなら次から一人でやれますね』


「ありがとう、ヒルダ。恩に着るぜ」


『我が主アスラン様のためなら、このヒルダ、この身を投げ出す覚悟は出来ております』


たぶんこれで次にレベルアップした時にはロックピッキングのスキルを覚えることだろう。


よし、やったね。


『では、アスラン様。わたくしは失礼いたします……』


「ああ、助かったぜ、ヒルダ」


ヒルダは何故かフラフラとした足取りで異次元宝物庫内に消えて行った。


なんだろう?


いつもキリキリしているヒルダがフラついていたな。


貧血かな?


まあ、いいや。


俺は鉄の扉を開けて熱風が押し寄せる通路を進んで行った。



【つづく】

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[一言] でも乾いたまま。
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