表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

354/602

第354話【巨大クレーター】

俺はクレーター山脈の頂上に登って立っていた。


後ろの景色を見下ろせば、麓にエルフの入り口の村が在り、前を見れば巨大なクレーターの中に森がスッポリと収まっている。


巨大クレーターの直径は5キロから6キロほど有りそうだ。


その森の中央に件の旧魔王城が聳えている。


湖の真ん中に在る魔王城は、この3キロほど離れた山の上から見ても倒壊している部分が多く見て取れた。


たぶん住むには、かなりの修繕が必要だろう。


ほぼほぼ建て直しレベルのリホームになりそうだ。


これは予算が掛かりそうだわ……。


俺の横に立つ若様エルフの凶介が巨大クレーターを眺めながら言った。


「俺が小さなころに戦争が終わったんっスが、この辺は焼け野原だったんっスよ」


こいつは案内役で山登りに付き合っている。


エルフなのにリーゼントに特効服を着込んでいるが、実のところ対して強くない。


口先だけのヘッポコだ。


妹の凶子のほうがよっぽど強い。


だが、その凶子はエルフの村で懲罰房に入れられている。


俺が借りているログハウスを半壊させた罰である。


何せ300000Gの損害だぞ。


流石の社長も悪鬼羅刹のように怒ってたわ~。


「お前が小さいころって、何百年前の話だよ?」


「500年ほど前っスかね」


「人間の俺には産まれる前過ぎて、想像もできないぞ……」


よくあるエルフギャップのジョークだな。


「戦時中に魔王が天空の城アヴァロンを引き寄せここに落としたんっス。何せ勇者軍に魔王城ごと囲まれてたっスからね」


「それでこのクレーターが出来たんだろ。それは聞いたぞ」


「戦後は何も無かったクレーター内だったんっスがね。百年もせずに魔王の魔力が薄れて闇のモンスターたちが居なくなって行ったんっスわ。そして草木が生えて、直ぐに森にまで成長したんでスわ~。今は大自然が繁って一人前の樹海っスよ」


「じゃあ今はクレーター内にモンスターは居ないのか?」


「邪悪な闇のモンスターは少ないっス。ですが、獣系のモンスターはうじゃうじゃでスわ~」


「なるほど……」


「それに、魔王城は死霊が住みついてるっス」


「死霊系か……」


「我々エルフもそれがあって戦後は魔王城にほとんど近づいていないっス。以前偵察に入った村のエルフが見た話だと、死霊のボスは、昔の魔王軍参謀役のリッチ・マミーレイス婦人だとか……」


「リッチ・マミーレイス婦人?」


何それ?


リッチなの?


マミーなの?


レイスなの?


それとも婦人なの?


なんなの??


「リッチがモンスター名で、マミーが死霊の母を意味する二つ名で、レイスが名前で、婦人が人妻って意味っスよ」


「アンデッド名が三つもついてるじゃん。紛らわしいよ……」


「父の話だと、リッチ・マミーレイス婦人は魔王の参謀であり、魔王城の宝物庫の番人だったとか……」


「宝物庫の番人か……。でも、宝物庫なんて戦後に略奪されただろ?」


「それが、一部の武器庫や食料庫は発見されて略奪されたっスが、金銀財宝が在るはずの宝物庫は場内から発見されてないんっス」


「えっ、マジで?」


ちょっと興味深い情報だな。


いや、だいぶ興味深いぞ。


埋蔵金だわね。


「勇者軍は魔王城の壁を破壊し、時には穴を掘ったり、魔法で捜索もしたんっスがね、宝物庫だけは見つからず、その番人と言われたマミーレイス婦人も捕まることなく終わってるんっスわ~」


「じゃあ、まだ魔王城内にマミーレイス婦人が潜んで居て、まだ宝物庫が無事に健在していると?」


「可能性は有りますが、今まで多くの冒険者が挑んでは空振りで帰っているっス」


「お前らが入り口の谷を守ってるから、冒険者なんて入れないだろ?」


「冒険者なんてゴキブリと一緒っスからね。山を越えてどこからでも侵入して来るんっスよ」


俺たちはゴキブリか……。


「まあ、分かった。とりあえず獣が蔓延る森を抜けて、死霊が巣くう魔王城をどうにかしないとならないってわけか」


「獣たちも狂暴っスよ。魔王の魔力が消えたとはいえ、そこで育った獣たちっスから、そこらの獣とわけが違うっス」


「それは問題無い。問題は町を作ったら、そこの人々が襲われないようにすることだ」


「それなら壁っスかね」


「防壁か……」


この世界に来て大きな町を見ていて分かることは壁だ。


壁を戦争を想定して作られただけじゃない。


それ以外にモンスター対策のために築かれている。


俺がソドムタウンにトレインを作って突っ込んだ時もそうだった。


番兵が俺が引き連れたモンスターを壁で守るように討伐に励んでいたもんな。


町を作るなら壁も作らんとならんか……。


そうだ。


エルフの村の周りに在る壁は草木を利用した植物の壁だったよな。


あれって魔法で作った代物だろう。


あれなら魔法で壁をチョチョチョのチョイで作れるんじゃあないのか?


あれの作り方を若様エルフに訊いてみるか。


「なあ、若様」


「なんっスか、兄弟?」


えっ、兄弟?


「ちょ、ちょっと待て、若様……」


「なんっスか、兄弟?」


「その兄弟ってなんだ……?」


「えっ、なんだってなんっスか、兄弟?」


「いつから俺たち兄弟になったんだ……?」


「いや、親父が言ってたっスよ」


「なんて?」


「兄弟に妹の凶子を嫁がせるって。だからもう俺とあんたは兄弟っスよ」


「いや、聞いていませんが……」


「じゃあ、その内に言われるんじゃね?」


「そ、そうか……」


あの糞社長め!!


何を考えてやがる!?


なんで俺が凶子と結婚せにゃあならんのだ!!


美人ではあるが、ド近眼で貧乳じゃあないか!!


性格もギャル系ヤンキーだしよ!!


俺は巨乳で可愛い系が好きなんだ!!


いちゃラブ新婚生活でウハウハしたぃぁぁあだだただっだだーー!!!


心臓ガァァアアアア!!!


「ど、どうしたっスか兄弟!?」


「い、いや、なんでもない……」


「そ、そうっスか……」


「ところで若様……。エルフの森の壁を作ったのは魔法か?」


「そうっスが、それよりも、若様って遠慮がちな言い方っスね。兄貴でいいっスよ」


「俺があんたを兄貴って呼ぶなら、なんであんたが俺に『っス』ってヤンキー語で敬意を示すんだ?」


(ぞく)の本能っスかね……。ついつい自分より強い者を崇めてしまうっスよ……」


「ヤンキーも大変だな……」


「御理解感謝するっス……」


「ところで草木の壁の話だが」


「ああ、あれはエルフのドルイドたちが築いた壁っスよ」


「あれ、魔王城の町にも作ってもらえない?」


「それは駄目っスね」


「なんでよ? ケチ、ハゲ」


「木の鶴や枝で出来た壁は、木登りが得意な獣系モンスターなら、簡単に越えて来るっスよ。クレーターの森に築くには不向きな壁だと思うっス」


「なるほど……」


ならばやっぱりソドムタウンのように丸太を杭のように指して並べるか、ゴモラタウンのように岩を切り出して立派な壁を作るかだな。


木なら森に沢山在るぞ。


岩なら……。


「この辺に切り出せる岩場は在るか?」


凶介が地団駄を踏んだ。


「足元に沢山在るっス」


「なるほど……」


ならばドワーフ村に金を払って職人を派遣してもらおうか……。


運搬はミケランジェロに手伝ってもらえば予算がかなり浮きそうだな。


まあ、どちらにしろ金が掛かる……。


でも、そんな感じで壁を作ってたら、予算なんて簡単に吹っ飛ぶぞ。


お金か……。


魔王城の宝物庫……。


それを見つけ出すか。


簡単に見つからないだろうが、魔王城を隅から隅まで探索するしかないだろう。


まあ、どうせ魔王城の探索は予定に入っていた工程だ。


やるしかない。


それにリッチ・マミーレイス婦人がまだ健在ならば、どうにかしないとならんしな。


「よし、若様。俺はこれから森に入って魔王城を目指すからよ。ここまででいいわ」


「兄弟……。気をつけて……」


「とりあえず、山を降りるか」


「オッス」


「それと兄弟ってやめてくれない?」


「なんでっスか?」


「俺、凶子となんて結婚しないから」


「じゃあ兄貴って呼ばせてくださいっス」


「好きにして……」


「俺のことは若様じゃあなくって、凶介でかまわないっスよ」


「ああ、分かった……」


本当にこのエルフ族ってウザウザなエルフばかりだわ……。


まあ、役には立つかもしれんがな。



【つづく】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ