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第336話「サイクロプス」

さて、帰ろうかな……。


俺は岩陰に隠れながら考えていた。


率直に勝てるか勝てないかで結論を出してしまえば、難しいだろう。


勝てるが七割で、勝てないが三割だ。


いえ……、強がりました。


勝てるが一割で、勝てないが九割だろうさ。


腕立て伏せやスクワットなどの筋トレまでは良い。


しかし、その後に見せたデンプシーロールとハイキックが問題だ。


筋トレにシャドー、その二つからして、あのサイクロプスが知能に溢れているのが鑑みれた。


ただデカイだけの巨人ならば策を捻り出せば勝てただろう。


だが、知識や知恵が備わっている巨人となれば無理に近い。


知恵比べの類いで、あの巨漢とのハンデを埋められるだろうか?


騙し合いの類いで、あの訓練された巨人を出し抜けるだろうか?


何より、そこまでして勝つ理由が有るだろうか?


そこまでして戦う理由が有るだろうか?


…………………………。


……………………。


……………。


んんーー、無いよね~……。


もう、戦う理由が無いよね!!


あんなキックを食らったら人間だって木っ端微塵になっちまうよ!!


逃げよう……。


素直にドワーフの村長さんには「あれは無理だわ」っと言うしかない。


あのドワーフの村長さんだって、呆れながらも「ですよね~」って言ってくれるさ。


さて、帰ろうかな~。


「居るのは分かってるのだぞ!」


あー、凄く低い声だわ~……。


今のはサイクロプスの声だよね……。


俺、見つかってますか?


見つかってるのかな?


「出て来い。直ぐには殺さないぞ」


直ぐには殺さなくっても、いずれは殺す気なんですね……。


「逃げられないぞ。そもそも歩幅が違うのだ。走って私に勝てると思うなよ」


あれれ、逃げ道も絶たれたかな……。


しゃあないか……。


早々と観念した俺は岩の陰から姿を出した。


15メートルほど先にサイクロプスが立っている。


サイクロプスは戦闘態勢こそ築いていないが、僅かな殺気を垂れ流していた。


戦う気満々だ。


置かれてあったはずのスレッジハンマーを両手に確りと持っていた。


巨漢で素手の使えるファイターが武装している。


それだけで涙が出てきそうだわ……。


アカン……。


勝てる気がしない……。


だが、ビビっても居られない。


俺は顔を引き締めて一つ目を見上げて睨む。


強気だけでも相貌から放った。


サイクロプスが訊いて来る。


「質問だ、人間よ。何故に武装した人間が一人で私のところに来たのだ。それとも離れた森に軍隊でも隠して居るのか?」


「いや、一人だ……」


ここは正直に出るか。


嘘をついてもしゃあないだろう。


「討伐か? 腕試しか?」


「両方だ!」


やべぇー!!


言っちゃったよ!!


もー、戻れねーぞー!!


「それはない幸だ。私も暇を持て余していたのだ」


「それは丁度良いタイミングだな!」


俺は異次元宝物庫から黄金剣の大小を引き抜いた。


ゴールドロングソード+3とゴールドショートソード+3の二刀流だ。


余裕なんて見せてられない。


下手をしたら敗北どころか木っ端微塵だ。


最初っから全力全開で戦かわなければ死んじゃうよ。


俺が黄金の双剣を構えると、サイクロプスの一つ目が赤く輝いた。


「両剣ともプラス3の業物だな。その他にも多数のマジックアイテムを全身に帯びている。かなりのマジックアイテムの武装量だ。並みの戦士が有する数ではないぞ。実に面白い!」


バレた!?


さっき一つ目が赤く輝いたのは魔力感知をしたのか!!


黄金剣がプラス3だとバレたところからしてアイテム鑑定までされちゃったのかな!?


こいつ、魔力感知とアイテム鑑定スキルを持ってやがるぞ!!


ヤバイ!?


こんなの初めて!!


今までそんな敵に会ったことすらねーぞ!!


なのにそれがサイクロプスかよ!!


巨人かよ!!


巨人じゃなくっても強敵になりうる条件なのに、選りに選ってそれがサイクロプスかよ!!


最悪だ!!


これは最悪だぞ!!


マジックアイテムを使った騙し撃ちすら難しいじゃんかよ!!


「嬉しいぞ!」


言いながらサイクロプスが手に在るスレッジハンマーをクルクルと振り回しだした。


それはバトントワラーのように可憐に回すと言うよりも、遥かに多彩で複雑であった。


腕を使うだけでなく、全身を使って回しているのだ。


腕、肩、脚、腰、首の回りをスレッジハンマーが器用に交差するようだった。


まるで見ている相手を惑わすことを課題に振り回すカンフーの動きに窺えた。


そして振り回していたスレッジハンマーが最後に止まった位置は一角頭部の真上だった。


サイクロプスは両腕でスレッジハンマーを上段の構えに止めている。


「嬉しい、実に嬉しいぞ!!」


「嬉しい? 何が嬉しいの……?」


「戦えることが嬉しいのだ!!」


「そ、そんなに……」


「実に百年ぶりだろうか!?」


そんなにブランクが有るんだ……。


そのブランクのために腕が鈍ってると助かるんだけどな~……。


「百年ほど前に、人間の冒険者が二十人で討伐隊を編成して挑んで来た」


「そいつらは、どうなりました?」


「詰まらない戦力だったから粉砕してやったぞ!!」


粉砕かよ!!


「皆殺しにしたの……?」


「三人に逃げられた!」


生き残れた奴が居たんだね……。


「それ以来だ。戦っていない。日々トレーニングだ」


「なんで、そんなに戦いたいの。戦いたいのなら、町や村を襲えばいいじゃんか。幾らでも戦えるし、幾らでも討伐部隊が編成されるぞ?」


「私とて馬鹿では無いのだ」


あー、やっぱり馬鹿じゃあ無いよね……、残念!!


「弱者とて無駄に殺せば、いずれ私も殺される。私は死にたいわけではないのだ」


案外と臆病と言うか、堅実的なんだな。


モンスターにはあるまじき理念だわ。


「私は戦士だった。寧ろ軍人だ。元軍人だった」


「えっ、軍人なの……」


「故に大義名分もなしに殺戮は出来ない。だからここで挑んで来る者を待っているのだ!」


「あ~……、ちょっと訊いていいか?」


「なんだ?」


「軍人なの?」


サイクロプスは振り上げていたスレッジハンマーを下ろした。


一時休戦に入ってくれたようだ。


「正確には軍人だっただ。もう、仕える王も居ない……」


サイクロプスの額に悲しさから皺が寄る。


俺はピーーンっと来た。


「もしかして、あんた、魔王軍か……?」


「元魔王軍だ……」


うわーー!!


魔王軍の生き残りだ!!


てか、魔王軍が居たのって、何百年前の話だよ!!


確か五百年ぐらい前だよね!!


あれ、もっと前だったかな?


兎に角だ。


俺が仰天していると、サイクロプスが勝手に語り出す。


「私は元魔王軍四将の一角、タイタロス様に仕えた副将のミケランジェロと申す!」


なんか微妙にご立派な称号だな!!


すげー微妙に大物っぽいしさ!!


副将だよ!?


やっぱり微妙だけど侮れないよね!!


こうなったら俺も名乗ってやるぞ!!


「俺の名は、ソドムタウン冒険者ギルドの若きエース、ソロ冒険者のアスランだ!!」


「ソロ冒険者だと?」


「そうだ!!」


「なんだ、お前もボッチか……」


「一緒にすんな!!」




【つづく】

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